「コメンテーターズ」を見る
ラッパ屋第46回公演「コメンテーターズ」
脚本・演出 鈴木聡
出演 おかやまはじめ/俵木藤汰/木村靖司
弘中麻紀/岩橋道子/ともさと衣/大草理乙子
谷川清美(演劇集団円)/瓜生和成(小松台東)/北村岳子
中野順一朗/浦川拓海/青野竜平(新宿公社)/黒須洋嗣
佐山こうた/宇納佑/熊川隆一/武藤直樹
観劇日 2021年7月25日(日曜日) 午後5時開演(千秋楽)
劇場 紀伊國屋ホール
料金 6000円
上演時間 1時間50分
感染対策について書くのも疲れてきたので省略。バッチリ行われていた。
退場時に列ごとに順番に出て行くことを「きせい(多分「規制」)退場」と言っていることが多いけれど、語感として今ひとつだなぁと思う。
どこかで言っていた「分散退場」という言い方の方が好みだ。
ロビーではパンフレットやTシャツが販売されていた。
25日は13時と17時の両方の公演のライブ配信を行っていて、25日から1週間、アーカイブ配信も行うという案内があった。
ネタバレありの感想は以下に。
作・演出の鈴木聡がちらしで言っていたとおり、かなり「時事」という感じのお芝居である。
舞台は、2021年5月くらいから7月くらいまで、場所は主に朝の情報番組「コメンテーターズ」の生放送が行われているスタジオ、登場人物はもちろんそのほとんどが「コメンテーターズ」の出演者である。
その設定のためか、いつもよりぐっと客演陣が多い。
開演前後のアナウンスを福本伸一が務め、最後に必ず「今回は出ていません」「今回は出ていませんでした」と言っているのが何だか可笑しくて笑ってしまった。
千秋楽が同じ25日の「GREAT PRETENDER」に出演していたため、ラッパ屋公演には出られなかったようだ。
声だけでもお会いできて嬉しい。
そして、「GREAT PRETENDER」も面白そうだったなぁと思った。
おかやまはじめ演じる「横ちゃん」がコロナの影響で再就職しそびれたのだったか、したけど会社が倒産してしまったのだったか、とにかく時間を持て余してYou Tubeで「普通のおじさん」が言いそうなことを言っていたら、何故か人気になり、何故かテレビ局から声がかかり、ついに「コメンテーター」の一人として番組に出演することになってしまう。
果たして、というところだ。
テレビ局のスタジオでは、何というか、いかにも表裏ありそうな方々が、予定調和を目指して日々奮闘している。
本当にそういう風に見える。
そこに、素人同然というか、素人そのものの横ちゃんが、特段の説明もなくコメンテーターとして乗り込んだ訳で、波乱が生じない筈もない。
最初は「場をぶっ壊す」方向での活躍(?)を期待され、期待に応えていた横ちゃんが、いつの間にか誰かの思惑を忖度するようになり、「全体のバランス」なんて言葉に反応するようになって行く。
その横ちゃんを、妻と「子供部屋おじさん」である息子、近所で饅頭屋を営む幼なじみらが、囲んでいる。
「支えている」というよりは「囲んでいる」という感じ。支えてはいないけど、側にいる、という感じが漂う。
本当に固有名詞は変えてあるものの、「あの人のことね」「あのときのことね」と、ウンウン頷きたくなる展開のオンパレードである。
そこが少し辛い。
舞台ではなく、見ている自分が辛い。
特に辛いことがあった訳ではなく、実際に観劇に劇場に行ってもいる訳だけれど、でも、少し前の自分を目の前で見せられるという感じは、落ち着かないもやっとしたものを自分の中に感じて、集中するのが難しかった。
何だか上手く言えない。
こういうちょっと辛い感じは想定の内だということか、北村岳子と黒須洋嗣 という正しくエンターテナーのお二人を客演に迎え、彼と彼女が歌ったり踊ったり、周りも一緒になって踊ったりするシーンがいつにも増してたっぷりと用意されていて、それが嬉しい。
番組のエンディングという設定の、北村岳子の「Have A Good Day」という歌声にも励まされる気がする。
二つの、矛盾するとは言えないまでもなかなか並び立つのが難しい命題に、ラッパ屋が果敢に挑んでいる、という印象だ。
局の役員が言う「上のいいなりになったことはないが、視聴率という形で現れる視聴者の動向は常に気にしている。それが、今や1週間先の視聴者の空気が読めない。こんなことは初めてだ」という今の状況も、横ちゃんがいう「自分は周りを気にして周りが期待しているだろうと思うことを自分で言ってしまった。でも、それはテレビだけでなくみんながそうなっているんだ」「そんなときに大切なのは家族であり友人だ」という大演説は、何だか無闇矢鱈な説得力がある。
ゆっくり思い返すと、多分、リクツ的には繋がっていないような気がするものの、その「ん?」という疑問を吹き飛ばすほどの、暑さと熱さを感じる。
見ているときは、何故か現実の他人事のような気がしてきて、今の日本にそういうはじけちゃう素人はいないような気がしつつも、「横ちゃん、多分これでこの番組から下ろされちゃうだろうなぁ」などと思っていて、横ちゃんの演説を身を入れて聞いていたとは言いがたい。
なのに、何故か、あの熱さというか空気感は覚えている。
ラッパ屋のお芝居は、当て書き? と思うほど役と演じている役者さんが合っていて気持ちいい。
そして、いかにもその辺りにいそうな感じのキャラにもなっているところが、少しばかり謎である。
世界はどんどんステレオタイプになっているということなのか。
何故かそんな大上段に構えたことまで思い浮かんで来る舞台だった。
そして、生の舞台はとことん楽しい。
やっぱり(少し辛かったけど)見て良かった。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
私も、昨年の「コメンテーターズ」のチケットを確保しておりました。
2年越しで見られて嬉しかったです。
横ちゃん、稼ぎましたかね〜。
役員とプロデューサーのコンビが「ギャラは叩け」と言い合っていましたから、そーんなには稼いでいないんじゃないかしら、でも奥様が「パートを減らせた」と言っていたからやっぱりそこそこ稼いだのかしら、と改めて思いました(笑)。
横ちゃんの懐具合をここで心配していても仕方ないのですけれど、心配したくなっちゃうようなキャラでしたよね。
暑いので、近くにはあんまりいて欲しくないようにも思いますが(笑)。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2021.07.27 21:41
姫林檎さま
私も観ました。
ラッパ屋の公演は、去年は中止になってしまったので、今回は無事上演され、観ることが出来て、それだけで本当に嬉しく思いました。
そして、福本さんのアナウンスには、私もちょっと笑ってしまいましたよ。
福本さん、出たかっただろうなあ、なんてしみじみしたり。
これでもか、のリアルな時事ネタでしたね。
こういう忖度というか、コメンテーター側のバランスなど、いかにもありそうで、笑いつつ頷きながら観ていました。
ラッパ屋の公演は、いつもありえる日常で、目線が優しく、かつ鋭くて、そこが大好きです。
確かに、この回の視聴率は良かったでしょうけど、横ちゃんは降ろされるでしょうねえ。
でももうそこそこ稼いだんじゃないかな、あとは年金で奥様とゆっくり楽しんで、と私は思っていましたよ(笑)
投稿: みずえ | 2021.07.27 14:58