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2021.07.02

「首切り王子と愚かな女」を見る

パルコ・プロデュース「首切り王子と愚かな女」
作・演出 蓬莱竜太
出演 井上芳雄/伊藤沙莉/高橋努/入山法子
太田緑ロランス/石田佳央/和田琢磨/若村麻由美 ほか
観劇日 2021年7月1日(木曜日) 午後1時開演
劇場 パルコ劇場
料金 12000円
上演時間 2時間45分(20分の休憩あり)

 入場時の検温や消毒、窓を開けての換気、カフェで購入した飲み物は壁を向いたカウンターでのみ飲食可、規制退場(というのは多分この字なのだと思う)等の新型コロナ感染症対策が実施されていた。

 ロビーではパンフレットが販売されていた。(パンフレット以外の物販はチェックしそびれてしまった。)

 ネタバレありの感想は以下に。

 パルコ劇場の公式Webサイト内「首切り王子と愚かな女」のページはこちら。

 今、感想を書き始めて「そういえば、タイトルは”首切り王子と愚かな女”だったのか」と思った。
 タイトルの「首切り王子」という言葉のインパクトが強すぎて、続く言葉が届いていなかったらしい。伊藤沙莉演じるヴィリは「愚かな女」だったようだ。

 と書いてから思った思い直した。
 「首切り王子」は、井上芳雄演じるトル王子一択だけれども、「愚かな女」は現在の統治者でありトルの母親である若村麻由美演じるデン女王かも知れないし、思うところを妹に告げずに家を出てお城で勤めていた大田緑ロランス演じるヴィリの姉のリーガンでもあり得る。
 というか、見終わってしまえば「愚かな女」はむしろデン女王にこそ似合う称号のように思う。

 前王亡き後、デン女王は「永久女王」を名乗って国を統治していたけれど、長男であるナル王子が病に伏して以降はほとんどやる気を失い、国は荒れ放題になっている。
 もちろん叛乱の機運も高まっており、それを押さえつけるべくトル王子が幽閉されていた孤島から呼び戻され、今や「首切り王子」と呼ばれるほど処刑しまくっている。

 その処刑の場に、母を看取って「生きている理由がない」と嘯くヴィリが自殺をするためにやってきて、紆余曲折あってヴィリはトル王子の召使いとして働くことになる。
 そして、という感じだ。
 ファンタジーといえばファンタジーだし、ファンタジーというよりは「おとぎ話」という方が似つかわしい気がする。

 恐らく、削るところを削れば、いかにも「おとぎ話」な筋書きになると思う。
 ヴィリは「生きる理由がない」と死ぬことに全く躊躇のない女だったけれども、首切り王子と異名を取る王子と出会い、召使いとして仕えるうちに二人は心を通わせるようになる。
 ついに二人は結婚したが、トル王子は母である女王の命令で魔法使いに呪いをかけられ、病に倒れた兄王子にその肉体を乗っ取らせるために呼び寄せられたと告げられる。
 前後して民衆が叛乱を起こして城に迫り、トル王子はヴィリと城を抜け出して「あと1日」のトル王子としての時間を過ごそうとするが、臣下に刺され、二人が出会った場所で語り合いながらトル王子は亡くなる。
 ヴィリはトル王子の遺言に従い、世界を見て世界に触れるべく旅立つ。
 ・・・という感じだ。

 しかし、この物語のポイントはもっと広いところに設定されていると思う。
 姉と妹の葛藤の物語のようにも読めるし、そういえばこの姉妹はそれぞれ王子兄弟に恋をしているというのはなかなかトレンディドラマっぽい設定だ。姉のリーガンはもう一人の主役と言ってもいいくらいだと思う。
 「国とは何か」ということをデン女王や彼女に伝える家臣たちの会話から立ち上ってくるし、従者一人とだけずっと暮らしていたトル王子はヴィリ曰く「子供」で「ださっ」という感じだし、生まれてすぐ孤島に幽閉されたトル王子と母親との間に確執がない訳もなく、とにかく贅沢に色々と詰め込まれている感じがする。

 ベタな展開に泣きまくって「発散した!」と思うのと同時に、「おとぎ話のフリして結構色々と突きつけてきましたよね、あなた」と芝居に向かって言いたい気もする。

 舞台の回りに透明なアクリル板っぽいもので仕切られたスペースを作って、俳優さんたちがそこで準備をしたり水を飲んだりするのを見せたりするのも、シーンによっては舞台袖にはける俳優さんもいたから「演出」だ。新型コロナウイルス感染症対策が必要な今だからこその演出かも知れないし、新型コロナウイルス感染症はきっかけに過ぎないのかも知れない。

 井上芳雄だけにアカペラで歌を歌わせ、その歌が「自分を育ててくれた」従僕が歌っていた歌で哀愁漂うメロディだというのは、何とも贅沢な感じがする。
 ヴィリの台詞は「心の中の声」と「実際に発した声」の境目を曖昧にしていて、ちょっと伊藤沙莉がナレーションを担当していたドラマ「大豆田とわ子と三人の別れた夫」の雰囲気を思い出させる。ちょっと面白い感じだ。

 ベタな展開は隠れ蓑みたいなもので、そこに隠れて今言いたいことを沢山詰め込んである感じがする。
 そこを読み解けていないところがなかなか哀しいけれど、すぐに「あれとこれとそれ」と言えなくてもいいかなと思う。
 堪能した。

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コメント

姫林檎さま

レスをありがとうございます。
私の記憶力について、ですが、若村麻由美ちゃんに関しては、親が憶えていたのです。
彼女がNHKの朝ドラでデビューしたときに、母が、保育園で一緒だった麻由美ちゃんだと騒ぎ出し、そのときにアルバムなどを見て、多少思い出した、という程度です。
もちろん細かいことは憶えてませんし、彼女のデビューの頃のことですので、今だったら全然無理だったと思います。

すみません、どうでもいい話で。
レスは不要です。

またコメントしますね!

投稿: みずえ | 2021.07.06 09:53

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 みずえさんもご覧になったんですね。
 若村麻由美さんと王子の影踏みのシーン切なくて印象的でした。
 あと、最後に城になだれ込んだ民衆の前に出て行くシーンも格好良かったです。
 私が見た回は、彼女の声が相当にかすれていて辛そうでした。そこがちょっと残念。

 保育園の同級生だったことを覚えていらっしゃる!
 凄い記憶力ですね。
 私、幼稚園のクラスメートの顔と名前、ほとんど思い出せません・・・。(今、思い出そうと30秒くらいがんばったけど、全く思い出せませんでした。先生の顔と名前は覚えているんだけどなー。)

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2021.07.05 22:37

姫林檎さま

私も観ました。
キャストは豪華だし、セットもユニークで、開演前は期待が高まりました。
その期待を裏切らない舞台でしたね。
私は若村麻由美さん演じる女王の気高さとねじれた愛情や悲哀が、とても胸に響きました。
実は余談ですが、彼女は私の保育園の同級生なのですが、こんな素晴らしい女優さんになるとは、当時は夢にも思わなかったです(笑)
井上くんの歌声も聴けたし、とても濃い時間を過ごせました。
それぞれにドラマがあって、でも全部切なかったですね。

また感想を楽しみにしております。

投稿: みずえ | 2021.07.05 13:20

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