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2021.10.26

「ジュリアス・シーザー」を見る

パルコ・プロデュース2021「ジュリアス・シーザー」
作 ウィリアム・シェイクスピア
翻訳 福田恆存
演出 森新太郎
出演 吉田羊/松井玲奈/松本紀保/シルビア・グラブ
   藤野涼子/久保田磨希/智順/中別府葵
   小山萌子/安澤千草/高丸えみり/岡崎さつき
   鈴木崇乃/水野あや/清瀬ひかり/原口侑季
   西岡未央/三田和代
観劇日 2021年10月26日(火曜日) 午後1時開演
劇場 パルコ劇場
料金 11000円
上演時間 2時間20分

 ロビーではパンフレット等が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 パルコ劇場の公式Webサイト内、「ジュリアス・シーザー」のページはこちら。

 「ジュリアス・シーザー」を見たのは三度目で、蜷川幸雄演出の彩の国シェイクスピア・シリーズを見たときに、藤原竜也演じるアントニーがとにかく嫌な感じでジュリアス・シーザー追悼の演説をし、演説一発でブルータスを追い落とした、ということだけを覚えていた。
 その前に、「子供のためのシェイクスピア」シリーズでも見たというのに、その他のシーンは全く覚えていないのだから、我ながら情けない記憶力である。「ブルータスよ、おまえもか」という台詞すら忘れていた。

 今回の森新太郎演出は、出演する役者陣が全員女性というところが大きな特徴だと思う。蜷川幸雄が「オールメールシリーズ」と銘打って、男優のみが出演するシェイクスピアを上演していたから、その逆バージョンである。
 シェイクスピア劇の登場人物は、その大半が男性で、だからオールメールシリーズの方が自然に見えるのかなと思っていたら、意外なことに、こちらの方が自然に見えた。

 それはもちろん、例えば一人称が「俺」なのは言われる度に気になって、ここはすべて「わたし」で良かったんじゃないかと思ったし、シナやディーシアスがずっと独特の「男っぽい立ち方」をしているのも、そこまで極端にしなくてもと思っていた。
 でも、やっぱり全体的に自然に見えた。
 シルヴィア・グラブ演じるジュリアス・シーザーを始め、元老院の人々を演じている女優陣が全員赤のロングドレスだったことも、逆に、その「自然さ」に貢献していたと思う。

 舞台を見ているときは今ひとつ分からないなぁと思っていたけれど、ブルータスたちがジュリアス・シーザー暗殺を企てたのは、シーザーが共和制を敷いていたローマで、独裁者として君臨しつつあったから、であるらしい。
 それは確かにジュリアス・シーザーが織田信長的に平気で部下を足蹴にするような感じに描かれていたけれども、「高潔」と言われるブルータスが暗殺を決意したほどの理由はもうちょっと分かりやすく教えてください、と思う。

 見ているときは、松本紀保演じるキャシアスがかなり個人的な恨みからジュリアス・シーザー暗殺を企てていて、そこに吉田羊演じる人望があって市民に慕われているブルータスを巻き込んで、自分達の正当性を高め、暗殺後の自分達の支配を安定させるため、力の限りブルータスを自陣営に巻き込んだ、という風に見える。
 この説得に当たったキャシアスが何しろ迫力があって、対峙するブルータスももちろん負けまいと力を込め、この二人のやりとりはほとんど台詞が頭に入って来なかったくらいだ。

 ジュリアス・シーザーもブルータスも、妻を演じた役者さんたちの方が背が高いのは何かを狙ったのかなぁと思ったり、キャシアスの計画どおりジュリアス・シーザーとともにアントニーも殺してしまっていたら歴史は変わっていただろうなぁと思ったり、アントニーの「ジュリアス・シーザーを悼む」演説の狙いはやっぱりシーザーの仇討ちというよりは権力掌握にあったのかなぁと思ったりした。
 この辺りは、解釈や描き方でいくらでもバリエーションが増えそうである。

 ブルータスは、ジュリアス・シーザー暗殺の際、最初の頃は彼を手にかけようとして動けず、最後の最後に止めを刺した、という風に描かれる。これも言ってしまえば「建前を最後まで守った」弱さとして描いていたようにも見える。
 「建前」ではなくブルータスの本音だったとしたら、それはあなたに権力掌握ができた筈がないよという気がする。吉田羊が演じることで、ブルータスという人の清潔さとともにそういう線の細さのようなものが強調されていたように思う。

 松井玲奈演じるアントニーの演説でローマ市民の支持は一気にブルータスから離れて逆に「打倒! ブルータス」となって暴徒と化し、ブルータスやキャシアスは「我らが英雄を卑怯な手段で殺した簒奪者」に転落して、二人を含む暗殺者たちはローマを逃げ出す。
 続くアントニー達との戦いでもブルータスはキャシアスの戦略案を却下し、自分が思ったとおりに戦場を設定し、そして敗北する。
 いや、キャシアスが先頭に立っていたらこの暗殺は成功していたし、やっぱりその後の歴史も変わっていたんじゃないの? と思う。

 もっとも、アントニーだってジュリアス・シーザーの追悼演説から、シーザーの親族であるオクタヴィアスと組んで一時的に実権を握った辺りまでがピークで、キャシアスとブルータスを倒し彼ら二人の死を見届けた後、オクタヴィアスが戦いの勝利宣言をした段階ですでに拳をブルブルと震わせていたから、明智光秀ばりの三日天下である。
 そして、幕だ。

 幕が下りたとき、「誰も幸せになってない結末だな」と思った。
 もしかして、シェイクスピアの時代には、観客はこの結末を見てオクタヴィアスがローマ帝国の初代皇帝となる第一歩を踏み出したのだと感銘を受けたのかなぁとも思う。

 そして、見終わったときには、見れば分かるのだけれども、女優のみによって演じられた舞台だということ忘れていた。
 シュっとした舞台だったと思う。

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