「パ・ラパパンパン」を見る
COCOON PRODUCTION 2021+大人計画「パ・ラパパンパン」
作 藤本有紀
演出 松尾スズキ
出演 松たか子/神木隆之介/大東駿介/皆川猿時
早見あかり/小松和重/菅原永二/村杉蝉之介
宍戸美和公/少路勇介/川嶋由莉/片岡正二郎
オクイシュージ/筒井真理子/坂井真紀/小日向文世
観劇日 2021年11月12日(金曜日) 午後6時開演
劇場 シアターコクーン
料金 11000円
上演時間 3時間10分(20分の休憩あり)
ロビーではパンフレット等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
始まる前はミュージカルなんだよね? と思っていて、見始めたらあらストレートプライだったのね、と思い、やっぱり歌がたくさん散りばめられているのね、と思った。
ラストシーンの演奏のインパクトがなかなかで、ちょっと上海バンスキングを思い出した。小日向文世が出演しているからだったら、我ながら単純な連想である。
松たか子演じる少女小説家(という言葉はすでに死後なのか)が、なぜだか「ミステリーを書く!」と宣言したものの、彼女の口から出てくるプロットはwikipediaの「オリエント急行殺人事件」の説明文そのままというお粗末さ。そこを神木隆之介演じる優秀で性格も良さそうな(でも幾分細かい)編集者にツッコまれ、編集長に「彼女にはもう書かなくてもいいというクリスマスプレゼントをやれ」と言われてその切なさに負け、なんとか彼女に「ミステリー」を書かせようとする。
そこが物語の始まりで、彼女が書く「クリスマス・キャロル殺人事件」が舞台上で動き出す。
舞台上で編集者が再々作家に「**も読んでいないんですか!」と驚愕かつ叱責していたけれど、恥ずかしながら、私も「クリスマス・キャロル」を読んだことがない。
それこそ知っているのはスクルージが守銭奴であることくらいで、どういう物語でどういう結末なのかも知らない。今、彼女と同じくwikipediaに教えてもらったところだ。
なので、「彼女が描くミステリーと本歌であるクリスマス・キャロルでは、どこが同じでどこが違うのか」全く分からないまま見てしまった。
本当に申し訳ない限りである。
若干の無理矢理感もありつつ、かなり上手く「本歌取り」していたことが、今頃分かった。
「一人勝ち」はしていないのに、それにしても松たか子が凄い。
どうしてこうも、口先だけで誤魔化そうとして上手く行かないダブルでダメな女の子(子! という感じが溢れていてかつ変じゃないところがまたすごい)を演じてハマりまくるのか。
やさぐれた仕草で確実に笑いを取るところも「己を知り、活用しきっている」という感じだ。
そうしてダメダメな女の子を演じつつ、異様に上手い歌声でその少し真摯な心情を歌ってしまえるのか。
踊っていても綺麗でしなやかで楽しそうだし、側転までやっていた。
ダメダメな彼女の小説に、若手編集者がダメ出しを重ねつつ、何とか結末まで持って行く。編集者は「ダメだろ、これじゃ」と思っているけれど、彼女の方が充実感というか「終わった!」感がものすごい。書き直させることもできず、作家としての彼女の終わりを予感しつつ、編集長に原稿を送る。
スクルージ殺人事件で、彼が赤ワインを飲んで倒れていたように、彼女も赤ワインを飲みながら倒れたのが先だったか、自分の小説に「違う! 彼は犯人じゃない!」とツッコみを入れたのが先だったか、そこで一幕が終わる。
彼女の書いたクリスマス・キャロル殺人事件の初稿では、スクルージを殺したのは、彼の甥のフレッドである。
フレッドは彼の母親でスクルージの妹である「フォン」が描いた絵を見たいと思っていたのに見せてもらえず、かつ、スクルージがその財産を自分にはの起こさないと決めたことを知って彼を殺した、ということになっていた。
このフレッドは実在の(というか本歌にも登場する)人物である。
昏睡状態になった彼女は、そのまま、自分が書いた物語の中に(何故かドレス姿で)入り込み、スクルージ殺害の犯人を追うべく活躍し始める。その推理をうわ言でしゃべり、編集者は彼女が昏睡状態でミステリーの続きを書いていることを知る。
原作を知らないこともあって、事故にあった編集長が7年前まで生きていたスクルージの事務所の共同経営者を彷彿とさせるというか二重写しになっていることの意味が今ひとつ分からなかった。むしろ、「この設定、必要?」と思っていたくらいだ。
それはともかくとして、ドレス姿の似合いすぎる松たか子が、物語世界の探偵を助手にしてスクルージ殺害犯を追い始める。
クリスマスの夜にスクルージを訪ねたのは、本歌では聖霊たちで、この舞台では3人の女性である。スクルージの事務所に雇われたクラチット氏にティムという足の悪い子供がいるところまでは本歌の設定どおりだけれど、この舞台ではティムは心臓が悪く「心臓が止まらない代わりに成長が止まる」という薬を飲みつつ何とか生きながらえている。
ティムにこの薬を提供している何とか財団も、多分、「クリスマス・キャロル」には登場しないし、その創立者夫人であるエリザベスも登場しないのだと思う。
フレッドが登場する以上は本歌にもスクルージに兄弟がいることは確実だけれど、その兄弟が妹で絵を描く人で絵の具を飲んで若さを保ったために若くして死んだというのは舞台だけの設定なのだと思う。
スクルージの若い頃に恋して別れた女性がいたことは原作どおりだけれど、その女性にエリザベスという名前を与え、スクルージの妹とのエピソードを加え、エリザベスに復讐するためにスクルージが守銭奴になったというのも舞台だけの設定なのではないだろうか。
本歌取り、難しい。
そして、「クリスマス・キャロル」では(多分)名前も出てこない存在だったエリザベスはこの物語の影の主役だし、彼女を演じた筒井真理子は影の主演だと思う。
さりげなく堂々と大人の(そしてかなりダメな類の)女が美しかった。
筒井真理子は登場して一目で「筒井真理子だ!」と分かった一方で、小日向文世のスクルージはだいぶ舞台が進むまで分からなかった。情けない・・・。多分、スクルージが帽子を取るまで「誰が演じているんだろう?」と思っていたような気がする。
坂井真紀に至っては、幕が下りてしばらくたってから彼女がクラチット夫人であることに思い当たったという体たらくだった。本当に分からなかった。今でも「えー!」と思っている。
そして、原作のスクルージは改心したけれども、舞台のスクルージは死んでしまっている。
しかし、彼を殺した「犯人」は存在せず、夜半に訪ねてきたエリザベスに暖まってもらおうと家中にある燃えるものを暖炉にくべた結果、妹フォンが描いた絵も(それは、エリザベスが「見たい」と訪れた絵でもある)燃やされ、その絵を描くのに使われた絵の具に含まれた毒が部屋中に充満し、そしてスクルージを殺したことが、作者によって見出される。
救いがあるんだかないんだか分からない。
しかし、そういう「悪人はどこにもいない」「悪気がなくても人は人を傷つけることができる」現実を描くしかないと、作家の彼女は決心する。むしろ、そのことが「救い」のようにも思う。
そこで描かれていることはかなり辛いけれども、芸達者としか言いようのない出演者陣の渾身の「悲劇にはしまい」という熱演で全てがひっくり返り、「クリスマス・キャロル殺人事件」は登場人物たちが苦さを感じる前に幕となる。
スクルージはどうして妹の絵を誰にも見せようとしなかったのかとか、何とか財団の広告塔として使われていたらティムは引っ越ししようが何しようが成長していないことがバレバレだったんじゃないかとか、編集長は何を象徴しようとしていたのかとか、回収されなかった伏線やご都合主義すぎる設定ががあるような気もしつつ、謎が残っている分、最後までがーっと集中して笑って楽しんだ。
面白かった!
そして、見終わってもずっと頭の中で「The Little Drummer Boy 」が鳴り続けている。
見てよかった!
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
「笑い」といえば、私は大東さんが(多分)藤原竜也さんのマネをして、舞台上の周りの人たちが肩を震わせ笑いを堪えているシーンが印象的でした。
印象的だと言いつつ、どんな成り行きでマネが始まったのか、覚えていないのですが・・・。
いつもとは違う感じもありつつ、やはり楽しかったです。
もうとにかく、見てよかった! と思いました。
いまだに私の頭の中で「ラパンパン」と鳴っています。
みずえさんもクリスマス・キャロル未読だったのですね。
仲間がいて嬉しい!
「クリスマス・キャロル」を最近読んだ仲間にもなれるよう、私も本を探してみようと思います。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2021.11.19 23:24
姫林檎さま
私も昨日観ました。
作者が違うせいか、松尾スズキっぽくなかったですね。
いつもある毒やグロっぽさがなかった。
ところどころ(主に猿時さんのシーン)雰囲気あった程度でした。
猿時さんといえば、彼が面白く演じている場面はアドリブだったんでしょうか。
大東さんなんかは、明らかに笑いをこらえていましたね。
そして、小日向文世さんは声でわかりましたが、坂井真紀さんは、休憩中に出演者の名前を見て、消去法でわかったくらいです。
筒井真理子さんは艶っぽくてさすがでした。
神木隆之介くんも、かなり頑張ってましたね。
大人計画の面々は相変わらず(褒めてます)だし。
しかしなんといっても松たか子さん! 素晴らしい!!
最後に歌も聴けて大満足です。
いい舞台でした。
私もクリスマス・キャロル未読なんです……この舞台を観て、とても読みたくなり、図書館で予約しました……。
投稿: みずえ | 2021.11.18 12:45