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2021.11.23

「叔母との旅」を見る

加藤健一事務所「叔母との旅」
原作 グレアム・グリーン
訳 小田島恒志
演出 鵜山仁
出演 加藤健一/天宮良/清水明彦(文学座)/加藤義宗
観劇日 2021年11月22日(月曜日) 午後7時開演(初日)
劇場 サンシャイン劇場
料金 7000円

 加藤健一事務所の公演を本多劇場以外で見るのは初めてかも知れない。
 初日の芝居を見るのも久しぶりだ。なんだかちょっと嬉しい。
 「叔母との旅」という舞台は、10年以上前に見ている。(そのときの感想はこちら。

 ネタバレありの感想は以下に。

 加藤健一事務所の公式Webサイト内、「叔母との旅」のページはこちら。

 あまりよく覚えていないながら、舞台はずいぶん立体的に作られていたと思う。ちょっと上がったところが叔母のオーガスタの部屋、左手前が甥のヘンリーの家、それ以外の場所は色々に変わる。
 20人以上の登場人物を4人の俳優が演じる。
 主役のヘンリーは、4人全員が演じていたと思う。一つのセリフを次々と受け渡して行って3人が同時にヘンリーを演じていたり、その3人から次々と別の人物を演じる人が抜けて行って、誰か一人がヘンリーを演じていることもある。
 この入れ替わりの自然さがポイントだと思う。

 ヘンリー以外の役は逆にほぼ誰が演じるか固まっていて、オーガスタ叔母さんは加藤健一がほぼ演じていたし、その他の女性の役は18歳の英文学専攻の女子大生からヘンリーと相思相愛だったのかも知れないミス・キーンまで、ほとんどを天宮良が演じていた。
 オーガスタおばさんと関わりのある人物は、ワーズワースにしろヴィスコンティにしろお茶っ葉占いの老婆にしろ、清水明彦が演じる。
 加藤義宗はほぼそれ以外の役を一手に引き受けるという感じで、むしろ黒子っぽい動きをしていたように感じる。

 こうして入れ替わり立ち替わり色々な役を演じているのに、この舞台には騒々しさやバタバタした感じが全くない。
 むしろ淡々と冷静に静謐な雰囲気すら漂う。
 銀行を早期退職してダリアの花の育成だけを趣味に暮らしてきたヘンリーが、実母の葬儀で叔母のオーガスタに会い、彼女のペースにあっという間に巻き込まれて平凡な日常を失って行く。
 それは驚くし慌てるしついて行けないと思うだろうし、実際そういうことをヘンリーも言っているのだけれど、やっぱり舞台上は静謐である。

 このオーガスタ叔母さんというのがまた破天荒かつ波瀾万丈な人生を送ってきた人物らしく、厳格なヘンリーの母であるオーガスタの姉である女性とは全く違っているらしい。
 そして、最初から曰くありげな態度を繰り返していたオーガスタ叔母ではありつつ、それにしても割と早い段階でヘンリーの実母はオーガスタなんじゃないかと伝わってくる。
 「早すぎない?」と思ったけど、勘のいい人は本当に最初から想像がつくのかも知れないし、これで良かったんだろうと思う。

 そういえば、4人の衣装がどんな感じだったのか、全く記憶にない。
 ベージュやグレーの存在感のあまりないスーツだったような気がする。正しく「何にでもなれる」という感じだ。そこの小さなスカーフを手に持って振ることで加藤健一はオーガスタおばさんになるし、ステッキを持つことで清水明彦はヴィスコンティさんになる。髪飾りをつけることで雨宮良は18歳の女子大生になるし、加藤義宗に至っては小物を使いまくりの変身しまくりだ。

 海外への現金持出に制限のあった時代にオーガスタおばさんは堂々とスーツケースに入れた大量の現金をパリに持って行って金の延べ棒に変えるし、イスタンブールでは警察に踏み込まれてもその金の延べ棒を隠した特大の蝋燭に火を灯して悠々自適である。
 まぁ、後ろ暗いところありまくりの人生を送ってきた風格を漂わせ、ついにオーガスタ叔母さんは1枚の写真を南米に持ってくるようにとヘンリーに命じ、ヘンリーの方も何故か粛々と彼女の指示に従っている。

 警察やCIAや、オーガスタ叔母さんの恋人かつ執事であったらしいワーズワースや、様々な怪しげな人々と知り合ってオーガスタ叔母さんと再会したヘンリーは、一度は「(自分を慕ってくれる)ミス・キーンと結婚し、イギリスで穏やかに暮らす」という選択をしかけたにも関わらず、結局のところ何が決め手になったのか分からないまま、オーガスタ叔母さんとともに南米に残り、ヴィスコンティさんの商売を手伝い、14歳の少女と結婚することを諾う。
 おかしいだろー! 気づけー!とヘンリーに言いたいけれど、そんな声が届くはずもない。

 ヘンリーがミス・キーンよりもオーガスタ叔母さんを選んだのは彼女が実の母親だからなのか、ワーズワースがオーガスタ叔母さんのお屋敷の庭で亡くなっていたことがあっさりと流されてしまうのは何故なのか、オーガスタ叔母さんの言い分はともかくとして犯罪か犯罪スレスレの商売に手を出すことにヘンリーに躊躇はないのか等々、特に最後のヘンリーの決断には分からないところしかない。
 でも、多分、この芝居のポイントはそこではない。

 それならポイントはどこかと言われると困るところだけれども、日常からの脱出というか、非日常への夢や憧れや現実というか、日常はこんなにも簡単に捨て去られるということか、非日常はこんなにも魅力的で人生を壊すけれども非日常なしには生きている甲斐がないということか、そういうことなんじゃないかという気がする。
 10年以上前に見てはいるものの、結末すら記憶になくて、かなりギリギリまで私はヘンリーは最後には日常を選ぶのじゃないかと思ってハラハラしながら見ていた。

 ふと、この芝居を女優4人で上演しようとかいう企画はどうだろうと思った。
 その場合、配役も全部男女逆にしておじさんと姪の話にすると何だか味わいが全く変わる感じがするので、やはり女優さんにヘンリーやワーズワースやヴィスコンティを演じて欲しい。
 そんなことを妄想してしまうくらい、面白かった。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 若干の危なっかしさがありつつ、本日、「イモンドの勝負」を見ることができました!

投稿: 姫林檎 | 2021.12.08 22:26

姫林檎さま

いえ、私と姫林檎さまとでは、観劇数が違いますから……。
それに私も、内容は全然憶えてないんです。

チケット取ってあるのに行けないというのは、一番悲しいパターンですね。
イモンドの勝負が無事観られるよう、陰ながらお祈りしています。
観られましたら、ここで語り合いたいです。

投稿: みずえ | 2021.12.06 10:40

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 みずえさん、2012年にご覧になったお芝居をちゃんと記憶されているのですね。素晴らしい!
 私はまーったく覚えておらず、自分で書いた感想を読んで、「ふむ、そういうお芝居だったのか」と思ったくらいです(泣)。

 青山円形劇場は閉鎖になっちゃっていますよね。
 今の時期になると青山円形劇場で上演されていた「ア・ラ・カルト 役者と音楽家のいるレストラン」を思い出しますし、また円形劇場で見たいなぁ、と渇望します(笑)。

 「イモンドの勝負」は、チケットは確保しておりますが、見られるかどうか・・・。
 実は昨夜も芝居のチケットを確保していたのですが、仕事がどうしても抜けられず、見ることができませんでした・・・。悲しすぎる。
 どうか無事に見られますようにと祈っているところです。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2021.12.04 10:13

姫林檎さま

この舞台、私は2012年に青山円形劇場で、段田安則・浅野和之・高橋克実・鈴木浩介バージョンのを観ました。
このときも、四人でいろんな役を回していましたね。
台詞も、前の人に被せるような話し方をしていました。
そういう舞台なんでしょうね。
それがすごく印象的で、内容はほとんど憶えておりません……。
そういえば、青山円形劇場はもうないんでしたっけ?
好きな劇場だったので残念です。

ところで、私は今夜、ナイロン100℃の「イモンドの勝負」を観ます。
姫林檎さんもご覧になるのでしょうか?
だったら嬉しいのですが。

投稿: みずえ | 2021.12.01 11:12

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