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2021.12.16

「徒花に水やり」を見る

千葉雅子×土田英生 舞台製作事業VOL.2「徒花に水やり」
作・演出 土田英生
出演 田中美里/桑原裕子/千葉雅子/土田英生/岩松 了
観劇日 2021年12月16日(木曜日) 午後2時開演
劇場 ザ・スズナリ
料金 4500円

 ロビーでの物販状況はチェックしそびれてしまった。
 ほぼ満席だったのではないだろうか。嬉しい。

 ネタバレありの感想は以下に。

 MONOの公式Webサイト内「徒花に水やり」のページはこちら。

 セットはちょっと前はいい暮らしをしていたんだろうなぁという感じのお宅の、応接間といった部屋である。
 畳に絨毯が敷かれ、刺繍のソファセットが置かれ、シャンデリアが下がっている。
 そこで交わされる千葉雅子と桑原裕子演じる姉妹の会話が「やっぱりコーヒーメーカーで入れたコーヒーは美味しい」「豆は安い豆なんだけど」というところから、多分、今は裕福という暮らしではないんだろうなぁと思う。

 この姉妹は、さらに下の妹が訪れるのを待っているところらしい。
 そこに、土田英生演じる長男もやってきて、やっぱり下の妹が訪れるのを楽しみにしているようだ。
 田中美里演じる下の妹がやってきて、どうやら、彼女たちは四人兄弟で、父親は小さな組の組長だったけれど、父親の死と同時に解散、母もすでに亡く、一人だけ母親が違う下の妹は生まれてすぐに母親を亡くし、養女に出され、兄弟4人が再会したのはつい最近のことらしい。

 このシチュエーションを以て「ごく普通の家族の会話劇」と評する土田英生は強者だと思う。
 いや、でも、長く生き別れになっていた兄弟が出会った後、しかも下の妹はヤクザや組といったことは全く知らずに裕福な家庭でお嬢さんとして育てられてきていて、いわば「すれて」いない。
 このすれていない下の妹が長男や長女は可愛くて仕方がない。次女ももちろん可愛いと思っているけれど、長男や長女の「扱いの違い」にちょっと釈然としない思いも持っている。

 そう考えると、背景はともかくとして、大人になった兄弟の会話としては確かに「ごく普通の家族の会話」なのかなと思う。「ごく普通」は「家族」ではなく「会話」にかかっているんだろう。
 その下の妹が、結婚を前提にお付き合いしている相手として20歳以上も年上の男を連れてくる。あっという間に長男の擬似恋愛が終わって擬似失恋状態になっているのが可笑しい。
 この長男が「七ならべ」を「七ならぶ」と覚えていたり、長女が「七ならびよね」とさらに間違えたりするのが切なくも可笑しい。
 そういう切ない笑いを呼ぶセリフの応酬が続く。

 それはともかく、岩松了演じる下の妹の婚約者である、男性が極端な人見知りで、初対面の人とはほとんどしゃべらない。
 しゃべらない相手に奮闘していた兄弟のうち、長男がふとしたことに気づく。確認し、この男が、兄弟の父親に横領の罪を擦りつけた男であることが分かる。
 長男は復讐を叫ぶし、長女はそれを止めようとするし、下の妹は大混乱だし、一番落ち着いているのは次女である。
 そういえば、この婚約者の職業は話題に上っていたし、次女がスナックを開いているらしいことは分かったけれど、長女と長男の生活の糧は何なんだろう?

 「お兄ちゃんが探しているから連絡してこないで」という下の妹が発したLINEを長男長女が見てしまい、あっという間に「可愛い妹」は「裏切り者の妹」に変わってしまう。
 「信じて」と理由も状況も説明せずに信頼を要求するこの下の妹にイラっとしたけれど、ここは観客席の大勢として下の妹に同情的だったんだろうか。私は、こいつ、嫌な感じの女だなと思って見ていた。私の性格が悪すぎなんだろう、多分。

 結局は、下の妹のとりなしで四兄弟の(何だか嘘っぽい)絆が取り戻せたところに、件の男が戻ってきて、しかも拳銃を所持している。「ここで私のことをもう忘れてくれれば何もせずに消える」と勝手な言い分を主張するこの男にもイラっとするし、この男が当然のように下の妹に「君は僕と一緒に来るよね」「カフェはどうするの? イタリア留学は?」とお金で縛る気満々なのもイラっとする。
 というか、この男、かなり気持ち悪くないか? と思う。
 そして、この場面に拳銃は必要だったんだろうか?

 この「拳銃で命を狙われた」騒動で四兄弟の(やっぱり少しばかり胡散臭い)絆はさらに固まり、4人は、今まで一枚も撮ったことのない家族写真を撮る。
 そして、夕食はもう少し後でいただくことにして、長女と長男は遊んだことのないらしいトランプのババ抜きを始める。
 4人で撮った写真を舞台上で再現し、幕である。

 なんだか文句みたいなことばかり書いてしまったけれど、でも、切なくて笑えて涙がこぼれた。
 4人の中では、上の妹に「何が楽しくて生きてるの?」と真顔で聞かれる長女にめちゃくちゃシンパシーを感じた。彼女は「ずっと壁に止まっている蛾みたい」と評されて怒っていたけれど、側から見てずっと停滞しているような生活を送っている時点で近しいものを感じるし、妹の暴言がある意味で当たっているだけに腹立たしいという気持ちもよく分かる。
 長女にシンパシーを感じたせいか、彼女が上の妹に「遠足のお弁当を作ってあげて」とか「自分が高校生のときに小学生の妹の授業参観に行って」とか若干恩着せがましいことを言っても全く持って許せてしまう。我ながら勝手なものである。

 やっぱりちょっと普通ではない家族の普通の会話だったよ、と思った。
 1時間35分が短く感じた。

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