「イモンドの勝負」を見る
ナイロン100℃「イモンドの勝負」
作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演 大倉孝二/みのすけ/犬山イヌコ/三宅弘城
峯村リエ/松永玲子/長田奈麻/廣川三憲
喜安浩平/吉増裕士/猪俣三四郎/赤堀雅秋
山内圭哉/池谷のぶえ
観劇日 2021年12月8日(水曜日) 午後1時開演
劇場 本多劇場
料金 7600円
ロビーでは、パンフレットのほか公演DVDの先行予約も行われていた。
劇場での感染対策はもはや通常のことになりつつある。
ネタバレありの感想は以下に。
「ネタバレあり」などと書いてはみたものの、ネタバレのしようがない、という感じではある。
ナンセンスコメディだったかどうかはよく分からないけれど、一貫した物語とか時間軸とかはなかったような気がする。
アルジャーノンなのか? とか、「(いつなのかは分からない)近々に開催される国際的なスポーツ大会」ですか、とか、アブストラクションとか、ダーティペアのムギとか、連想するイメージは色々と出てきたけれど、元の発想がそれだったのかは不明だ。
主人公は大倉孝ニ演じる「きむらたもつ」という人物で(配役表の入ったちらしの束をもらいそびれてしまったので漢字が分からない)、登場時点では30代後半で、彼が親に捨てられたり孤児院に入ったり孤児院から戻ったら家には娘がいたり彼の母親の愛人が賭け事に勝っても「負けた」と言い張る人物だったり、彼自身が「絶対に勝負に負けない男と書いてきむらたもつです」と自己紹介していたり、日本のスポーツ選手が全員宇宙船に吸い込まれてしまって彼が日本代表選手に(じゃんけんの勝負で!)選ばれたり、「薬が切れたのかな」とひたすら薬を求め続けたりする。
多分、彼の言動の多くには風刺が織り込まれていると思うのだけれど、ちらっと「あれ?」と思うことは多くても考えている暇もなく舞台はどんどん動いていて追いつけない。
きむらたもつとは別に、山内圭也演じる緑のトレンチコートの探偵が登場し、探偵は「石平石平」という政府高官を名乗る人物を尾行した挙句、彼から探偵の依頼を受けるのだけれど、図書館で話を聞こうとしたものだから周り中から沈黙を求められて果たせず、彼の依頼内容が書かれているらしい「石平石平の四つの隠された依頼」という感じのタイトルの本を探そうとして、山の麓にある元研究所の現孤児院に辿り着く。
探偵なので多分探偵をしていると思うのだけれど、どう見聞きしても彼の探偵としての腕は悪い。悪いというよりもない。
で、探偵の彼がたどり着いた孤児院が、きむらたもつが入っていた孤児院であった、ということになる。
かつ、この探偵の父親は、きむらたもつの母親の愛人だから、二人は義兄弟になるのか? ならないのか? という関係である。
多分、話の軸はこの二人だと思う。
客演の赤堀雅秋が、きむらたもつの母親の愛人や、きむらたもつに薬を渡す400歳の老婆などなどを演じていて、彼が暴力的でない役を演じているところを見るのは久しぶりか初めてかだよ、と思ったりしていた。こちらのイメージで、ふっと暴力が生まれそうな雰囲気を勝手に感じ、勝手に身構え、全く身構える必要はなかったよ、というシーンがいくつもあった。
逆に、犬山イヌコ演じる孤児院院長と、池谷のぶえ演じる孤児院副院長の掛け合いは、予想通りの噛み合わない掛け合いが可笑しく、その可笑しさが繰り返されるところも徹底して狙っている可笑しさで、安定の可笑しさだった。
掛け合いが全く噛み合っていないのに安定しているところが何だか凄すぎる。
まとまったストーリーがあるのかないのか全く分からない感じで、なのに嫌な感じもなく、混乱することもない。
どうして混乱する印象がないのか、謎である。
謎といえば、「イモンドの勝負」というタイトルは、劇中で3回くらい口にされていた。漢字までプロジェクターで投影されていたと思う。なのに、「よく分からないメモ」みたいな感じで扱われていて、結局、意味が語られることはなかった。ここは「きっと意味はなくて、音とか語呂とかで選ばれたんだろうな」と思いたい。
暗くなる照明の中、きむらたもつにスポットが当たって、ぼそっとカメラなどないのにカメラ目線の感じで一言呟いて、幕が閉じられる。
このとき、この一言に確実に笑ったのに、彼が何と言ったのかなぜか全く覚えていない。
セリフが言い終えられた瞬間、笑ったら忘れてしまったような気がして、とても気になっている。
波に揺られてたゆたっているようなお芝居だった。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
おかげさまで、無事に「イモンドの勝負」を劇場で観劇することができました。
ご心配いただいてありがとうございます。
半ば無理やり行ったもので、翌日の仕事ではだいぶ酷い目に遭いましたけれども(笑)。
プロジェクションマッピング、凄いですよね。
役者紹介のところが好き。
投影される映像と役者さんの動きがバッチリ合っているところが気持ちいいです。
そして、このお芝居に出演されていた方はみなさん声が良くて、セリフがまっすぐに客席に届いて、それがとても嬉しい。
役者さんややっぱり声よ! と引き続き主張してゆきたいと思います(笑)。
このお芝居の登場人物の中で一番「普通」だったのは、大倉さん演じるきむらたもつだったかも知れませんね。
彼だけは狂気を放っていなかったような気もします。
でも、彼とは決してじゃんけんの勝負はしたくないなぁと思いました。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2021.12.11 19:04
姫林檎さま
無事観劇できたのですね。良かったです!
この舞台、そもそも「イモンドって何?」と首を傾げるところから始まり、結局その謎は解明されることなく終わりましたね。
これがナンセンスコメディーというものでしょうか(笑)
ケラさんの舞台の魅力は、私の中ではまず2つあり、台詞の面白さとプロジェクションマッピングの素晴らしさです。
どちらも役者さんの力量がないと、この魅力は半減しますね。
皆さん、ケラ歴が長いので、さすがでした。
特に、姫林檎さまも指摘した、イヌコさんとのぶえさんの台詞の掛け合いはお見事!
犬山イヌコさんは、誰と組んでも、あの声とテンポで客を魅了しますね。
そして大倉さんは、ほんとにこういう人なのかもと思わせるくらいハマっていました。
みんな変人なのに(まともな人は一人もいませんでしたね)、説得力のある演技で、とても楽しかったです。
投稿: みずえ | 2021.12.10 14:44