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「冬のライオン」
作 ジェームズ・ゴールドマン
翻訳 小田島雄志
演出 森新太郎
出演 佐々木蔵之介/葵わかな/加藤和樹/水田航生
永島敬三/浅利陽介/高畑淳子
観劇日 2022年3月9日(水曜日) 午後1時開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス
料金 9500円
上演時間 2時間40分(15分の休憩あり)
ロビーでは物販コーナーもあったけれども、チェックしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
「冬のライオン」が元々はブロードウエイ作品で、映画化もされていることも見終わってから知った。そうだったのか!
ウィキペディアによると、「冬のライオン」は史実に基づいているというよりは、人々が持つイメージに基づいている、という感じらしい。
ある年のクリスマス、佐々木蔵之介演じるイングランド王のヘンリー2世は、ずっとどこかに幽閉している妻のエレノアを息子3人と暮らしている(らしい)城に呼び寄せ、そこに隣国のフランス王フィリップも招き、自身の後継者問題を片付け、ついでに自分の愛妾としたフランス王の姉を自分の息子に嫁がせるという先代フランス王との約束を果たせないなら土地を返せと要求するフランスとの関係を修復しようとしている。
長い。
当然のことながら、コトはそう上手くは運ばない。
そもそもヘンリー2世の性格が悪そうである。領土を広げ、息子のうちの誰か一人に自分の築き上げた王国を譲り渡すことが人生の目的だ、くらいのことを言っている。
つまりは、王国と領土と権力への妄執がひどい。
そのヘンリー2世の妃は、どうやら先代フランス王から略奪したらしい。そこまで情熱的に出会って結婚した二人らしいのに、高畑淳子演じる王妃との夫婦仲は最悪だ。
そもそも、一緒に暮らしていない。暮らしていないどころか、幽閉している。その割に「クリスマス休暇」とか言って牢から出しているところが意味不明である。
彼女がいなければ、この芝居のというか、この日のヘンリー2世一家の出来事はほぼ起こらなかったんじゃないかというくらいだから仕方がない。
こうした夫婦の息子たちだから、息子たちだってなかなか癖が強い。
加藤和樹演じるリチャードは、エレノアのお気に入りである。彼は、上の兄が亡くなって自分が長子であり、ヘンリー2世の後継者は自分であるべきだと考えている。どうやら戦争は得意らしい。エレノアも権謀術数の限りを尽くして、このリチャードを王に据えようとしている。
一方で、ヘンリー2世は、末子のジョンを溺愛している。しかしどうにも溺愛の方法を間違えたらしく、浅利陽介演じるジョンはどうにもだめそうな気配しかない。
永島敬三演じるジェフリーは、父からも母からも期待されず愛されず、王位継承という話題になっても自分の名前が決して出てこないことに拗ねまくっており、「悪魔」と呼ばれるような策謀好きに育っている。
この3人は、なぜか現代人っぽい衣装を着ている、兄二人はスーツだし、ジョンはどこかのロック少年のような格好をしている。
ヘンリー2世とエレノアはそれっぽい格好をしているし冠もつけている。葵わかな演じるアレーも分かりやすくドレスを着ているしティアラをつけることもある。それに比べると兄弟3人の格好は対照的だ。
水田航生演じるフランス王フィリップが、スーツに冠というこれまた半端な衣装になっていて、この辺りの目指すところが今ひとつ分からなかった。
対照的といえば、どこまでも生真面目に演じる葵わかなと、どこまでも崩さなかった加藤和樹のリチャードは、「端正」を担っているように見える。
エレノアの高畑淳子はもう彼女にしかできないオーバーアクトで笑いを生んでいたし、悪魔のようなジェフリーを永島敬三はとことん笑顔で演じている。ジョンのだめさ加減と、フィリップの無駄にプライドが高い感じも含め、こちらは「曲者」を担っているように見える。
その両極端の演者を佐々木蔵之介が緩急自在に行き来し、まとめあげている。
それにしても、多分劇中の時間は24時間くらいしかないのに、権謀術数の限りが尽くされ、裏切るし裏切られるし、あちこちで駆け引きもあるし、本当のことを言っている人は一人もいなさそうだし、嘘をついていたつもりが本当にせざるを得なくなったり、とにかく「真実」というものがどこにも見当たらない人々だしやりとりである。
こんなに殺伐とした駆け引きを延々と続けなければならないのに、どうしてみんな「王」になりたがるのか謎だ。いいことなんか何もなさそうじゃないかと思う。
エレノアとアレーは、もちろん「王」になりたがってはいないものの、「王に愛される女性」にはなりたがっている。
これも、ロクなことはなさそうだよなぁと思う。「王に」ではなく「ヘンリーに」だとしてもだ。
まぁ、ヘンリーは強引だし気分屋だしいばりんぼだしあんまりいいところはなさそうだけれど、魅力的なことは認める。少なくとも「王になりたい」という息子たちの野望よりは分かりやすい。ついでに書くと「手にしたものを失いたくない」というヘンリー2世の気持ちは分からないけど理解はできそうな気がする。
とにかく、誰を信じていいのか、誰のどの台詞が「本当」でどの言葉が「嘘」なのか、最初から最後まで本当に分からなかった。
途中からは「分かろう」という気持ちは放棄して、とにかく行く末を見守るだけの気持ちになった。
そうすると一々だまされた気分になって、見ているだけなのに辛いような気持ちにもなった。
ヘンリー2世は、息子たちがそれぞれフランス王フィリップと組んで自分を裏切ろうとしていたことを知り、とりあえず3人とも地下に閉じ込める。
アレーは、ローマ教皇にエレノアとの離婚と自身との結婚を認めさせに行くというヘンリー2世に対し、自分との子供が欲しいのなら息子たちをこの先二度と地下から出すなと条件を突きつける。
エレノアは地下にいる息子3人に短剣を差し入れし、地下室からの脱出を唆すが、息子たちはヘンリー2世を殺害しようと計画し始める。
そこへ、アレーを伴ってヘンリーがやってくる。
恐らくは終身刑を息子たちに告げようとして来たのだけれど、息子たちが自分を殺そうとしていると知り、戦い、圧倒的な強さを発揮するものの息子たちを殺すことはできず、3人とも地下から逃げ出して行く。
伴っていたアレーも追い出す。
地下の空間に残ったのは、ヘンリーとエレノアの二人だけだ。
何故だかしみじみと語り始めたこの夫婦がたどり着いたのがどこだったのか、私には結末がよく分からなかった。
仲直りをしたとは思えないのだけれども。敢えて言うと、休戦協定が結ばれたのか?
結末がどうあれ、とにかくぎゅっと何かが詰め込まれた人間不信な人たちが集まる濃いお芝居だった。
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