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2022.05.21

「関数ドミノ」を見る

イキウメ「関数ドミノ」
作・演出 前川知大
出演 浜田信也/安井順平/盛隆二
   森下 創/大窪人衛/温水洋一
   小野ゆり子/太田緑ロランス/川嶋由莉
観劇日 2022年5月20日(金曜日) 午後7時開演
劇場 東京芸術劇場シアターイースト
料金  5800円
上演時間 2時間10分

 やはり「規制退場」より「分散退場」の方が言われたときに受ける印象が柔らかいと思う。
 「分散退場」で統一されるといいなぁと思う。

 ネタバレありの感想は以下に。

 イキウメの公式webサイト内、「関数ドミノ」のページはこちら。

 「関数ドミノ」は今回が4演目だと思う。少なくとも、私が見たのは4回目だ。
 前回見たのは5年前で、「ドミノ幻想」という言葉や、最初のきっかけが交通事故だったこと、「ドミノ1個」という現象などは覚えていたけれど、ストーリーは見事なくらい忘れ果てていて、我ながら驚いた。
 自分で書いた感想を読み返してみたところ、直近の2017年版よりも、2014年版の方が印象が似ていた。

 過去3回見たときの感想はこちらである。
 2009年
 2014年
 2017年

 今回は、安井順平演じる真壁の独白で始まり、独白で終わる。
 この一連の物語は、治療を受けている真壁の一人語りであり、回想であった、のかも知れない。
 それにしては真壁に寄ったところがなくて容赦ないので、真壁の一人語りはただの箱というか枠で、そこで起きていたことを見ている感じなのかも知れない。

 というようなことを思うような雰囲気のある芝居である。
 金輪(こんりん)総合病院前で起きた交通事故が、この物語のきっかけである。
 イキウメの芝居はしばしばこの「金輪」という町を舞台にしている。どんな町かは分からないけれど、割と不思議な現象が集中する町みたいだ。
 交通事故ではあるけれど、車にぶつかられた筈の歩行者は無傷、彼にぶつかりそうになった車の方が大破し、助手席に乗っていた運転者の娘が重傷を負っている。

 この交通事故が不可解で、温水洋一演じる保険会社の調査員横道が、事故の原因究明に当たっている。原因究明というよりは、事実を明らかにしようとしている。
 病院前の昼間の出来事ということで目撃者は複数おり、どうにも手の打ちようのなくなった横道は目撃者全員を集めて証言の整合性を確認しようとするが、全く進展はない。
 小野ゆり子演じる実は真壁の元妻だった精神科医・大野と、大窪人衛演じる事故の被害者になるはずだった若者・陽一と、その兄という濃い関係者が抜けたところで、真壁が「これはドミノという現象だ」と言い出す。

 真壁の主張(本人言うところの「仮説」)によると、浜田信也演じる陽一の兄・左門森魚が「ドミノ」であり、「ドミノ」とは願ったことが何でも叶ってしまう(ただしそのスパンは長い)という存在である、らしい。
 最初は「あの人、変でしたよね」と言っていた目撃者たちも、そのうち、真壁の言葉に巻き込まれて行く。
 流石、元コンサルタントである。

 しかし、最初は「ちょっと気の弱そうな好青年(何故かおじさんには見えない)」だった真壁が、周り他少し「その気」を見せるとどんどんイヤな奴になって行く。
 真壁が話しているのを聞いていると、「いや、それおかしいでしょ」としか思えないことを言っているのに、今、私があの場にいたら真壁にまともに反論したり、論破したりできる気がしない。
 何故なんだろうとずっと考えていた。
 大野医師が言うように、「妄想は感染する(伝染する、だったかも」からなのか。

 盛隆二演じる土呂はHIV陽性である。彼が森魚に接触し、友人になり、森魚から「治るといいと思う」という言葉を引き出す。
 その後、HIV検査を受け、陰性が確認される。
 この場合、真壁たちは「森魚が本心から望んだから叶った」と考える。

 一方、森下創演じる新田は、森魚に懇願して重傷で意識の戻らない娘の見舞いに来てもらう(ちなみに、2014年版では、重傷なのは新田の「妻」だった。娘の方が似合う年齢になってきたんだなと思うと感慨深い)。
 そして、治るといいですね、という言葉を聞き出すが、同時に「意識が戻っても辛いだろうな」とも言う。
 そして、治療の甲斐なく、新田の娘は亡くなってしまう。
 真壁は、「森魚が死んでもいいと思ったから亡くなったんだ」と解釈する。

 要するに、森魚の「本心」は後付けなのだ。
 というような反論を必死に芝居を見ながら考えてしまった。
 それくらい、何というか、取り込まれてしまったし、反論して論破しなくちゃいけないような気持ちになった。

 弟から「(兄である森魚がお膳立てした予備校に正社員として入社する話を断り)NPOで働き、近い将来独立する」と宣言されたときの「俺の本心をやっと分かってくれたか」という返しや、HIVの検査結果が陰性だった土呂に向かって「奇跡を起こしたのは僕ではなく土呂さん自身だ」と言っている様子に何となく違和感というか、キャラが変わったような感じがあるなぁと思っていたら、それは、「伏線」だったらしい。

 保険調査員の横道は、「左門森魚はドミノである」という仮説を証明した(と思い込んでいる)のにネガティブ思考しかせず、ちょっと不快と言いたいくらいにひたすらドミノ認定した左門森魚を貶めた言葉しか発さない真壁に向かい、「どうして仮説が証明出来たのに喜ばないのか」「しかし、自分はその仮説は採らない。自分は真壁がドミノだと思う。その証拠に、真壁が仮説の証明として取り組んだ数々は全て実現し、証明までしてしまっている」と語る。

 大野医師の説得には全く耳を貸さなかった真壁が、横道のこの考え方は何故かズシンと受け止め、哄笑し始める。
 「ドミノだったのに莫迦みたいだ」と嘆き続ける。
 「一人にしてくれ」と叫んだ瞬間、他の出演者たちが照明から外れ退場したのは、多分、本当に突然「一人になった」ことの象徴だと思う。
 森魚の理性的な台詞は「左門森魚はドミノである」という仮説は崩したけれど、「どこかにドミノがいる」という仮説には何の力もなかったようだ。

 真壁は「消えてしまいたい」とも叫ぶ。
 そして、一度照明が落ち、再度、そして最後に真壁の独白が始まる。
 見ていたときは、「ドミノである真壁が望んだけれど、真壁が消えることはなかった。良かった。」と思ったけれど、今思い返してみると、「真壁が消えてしまった」後で真壁の魂か何かが語っているという解釈もできそうである。
 いや、そもそもここで私はどうして「ドミノ」の存在を前提としてモノを考えているのか。おかしいだろう、自分、と思う。

 職場で嫌なことがあって見始めたときはかなり悶々としていたけれど、終わる頃には完全に「ドミノ理論が存在している世界」の住人であるかのような気持ちになっていた。
 気がつくと、それくらい集中していた。
 イキウメ、ありがとう、と思った。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 そうですね。イキウメといえば、「関数ドミノ」か「図書館的人生」か「太陽」か「散歩する侵略者」という感じがします。
 あっという間に4作品も挙げてしまいましたが(笑)。

 私は、観たお芝居のことをすぐ忘れてしまうので(ナサケナイ・・・)、割と再演の公演も観ています。呆れるくらい覚えていなかったり、何ていうことのないシーンだけ鮮明に思い出せたり、なかなか楽しいです。
 前に観たときとつい自分の中で比べてしまうところが難点かも。

 せっかく楽しみにされていた公演が中止となってしまい、残念でしたね。
 出演される予定だった役者さん始め、公演に携わっていらした方の残念な悔しい気持ちも察するに余りあります。

 本当に、自然に気楽にお芝居を観られる日常が恋しいです。

 またどうぞ遊びにイラしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2022.05.28 11:55

姫林檎さま

私は2014年版を観ました。
この作品は随分再演されているんですね。
それだけ前川さんにとって思い入れのある作品なんでしょう。
私は基本的に再演ものは観ないのですが、役者が違うようですし、受ける印象も違うんでしょうね。
不思議な話なのに、妙にリアリティがあって、観終わった後、ドミノ現象について調べた記憶があります。
イキウメの作品は、ありえない話といっていいのに、なぜか説得力があって引き込まれてしまいますね。
そこが好きです。

話は変わりますが、先日ラッパ屋のリーディング公演を2作品取っていたのに、関係者に感染者が出て、全公演中止になりました。
とても残念でしたが、主催者側はどんなに大変だったことか。
そして、近々とある公演を観るのですが、やはり感染者が出て、初日が延びるそうです。
私の取った日は何とか大丈夫そうでホッとしましたが、一体いつまでコロナに振り回されるのでしょうね……。

長々と失礼しました。

投稿: みずえ | 2022.05.24 14:47

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