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2022.06.12

「奇人たちの晩餐会」を見る

「奇人たちの晩餐会」
作 フランシス・ヴェベール
翻訳 岩切正一郎
演出 山田和也
出演 片岡愛之助/戸次重幸/水夏希/原田優一
    野口かおる/坂田聡 /大森博史
観劇日 2022年6月11日(土曜日) 午後1時開演
劇場 世田谷パブリックシアター
料金 11000円
上演時間 2時間30分 (15分の休憩あり)

 ロビーではパンフレットが販売されていた、と思う。
 ネタバレありの感想は以下に。

 「奇人たちの晩餐会」の公式webサイトはこちら。

 舞台は最初から最後まで戸次重幸演じるピエールのマンションである。
 パリ在住らしいので、それっぽく言うと「アパートメント」になるのかも知れない。いずれにしても、お金のかかっていそうなお部屋で、バーカウンターがあり、絵画が無節操に壁に掛けられている。
 ピエールはシャワーを浴びていて石けんを取ろうとしてぎっくり腰になったらしく、水夏希演じる妻のクリスティーヌに「今日の晩餐会はキャンセルしろ」「あんな悪趣味な集いはやめろ」「今日は私と一緒に家にいて欲しい」と懇願されている。

 この「悪趣味な晩餐会」というのが、ピエール言うところの「奇人達の晩餐会」で、それぞれが「奇人(莫迦)」だと思うゲストを連れて集い、誰が一番の奇人(莫迦)なのかを後でこっそり論評して決めるという、まぁ、趣味の悪いかつ外聞の悪い集いである。
 クリスティーヌが毛嫌いするのも当然だ。
 こういう集いを「わざわざやる」というところが、ピエールの「嫌な奴」というか「傲慢さ」を如実に表していると思う。

 ディナーをキャンセルしないピエールに愛想をつかしてクリスティーヌは出て行ってしまう。
 しかしそのピエールも大森博史演じるアルシャンボー教授に絶対安静を言い渡され、諦めて自分の「ゲスト」である片岡愛之助演じるフランソワに連絡を取ろうとするけれども、すでに彼は家を出てしまったようで通じない。
 そして、フランソワがピエールの家にやってきてしまったところから、彼の不幸というか受難が始まる。

 ぎっくり腰でピエールがまともに動けないというところがポイントである。
 そして、フランソワが今で言うところの(当時もあったのか。覚えていない。)「空気が読めない」タイプであるところも重ねてポイントである。
 それにしても、「空気が読めない」ということが、ここまで人に莫迦にされなくてはならないことなのか、釈然としない。この戯曲は1998年にフランスで書かれたそうだけれど、その時代のフランスはそういう「空気」だったんだろうかと思う。

 それと同時に、それはピエールの「自分は気の利いた頭のいい人間である」という傲慢さは分かるし、「奇人達の晩餐会」は悪趣味極まりないと思うけれど、そんなに嫌な奴なのかなと思って見ていた。
 そう思えたのは、この後のピエールの受難ぶりがなかなか激しくて、酷い目に遭い続けるからだ。

 妻のクリスティーヌから「もう帰らない」という電話が入り、ピエールは必死に彼女の居場所を探ろうとする。
 しかし、カッコつけのピエールは素直に誰かに助力を求めることができない。まぁ、自分が親友の恋人を奪い取って妻にして、その原田優一演じる元親友・ルブランに「僕の妻がいるか」と真っ正面から聞けない気持ちも分かる。
 で、フランソワに電話をかけて探ってもらおうとするのだけれど、その期待をフランソワは見事に裏切って、余計なことを言ったり、肝心なことを言わなかったり、事態をどんどん悪い方に転がして行く。

 しかし、その「悪い方」というのは、「ピエールにとって都合が悪い方」というだけのことだから、そうそう「悪い」訳でもないんじゃないの? と思う。何というか、「間が悪い」だけなんじゃないの? と思う。
 実際、ルブランに「妻に出て行かれてしまった」ことは察知されてしまったけれど、そのルブランは何故だかピエールの家にやってきて、何故だかピエールに助力し始める。
 このルブランだって、相当に「空気を読まない」タイプで、ますますフランソワはそう悪くないんじゃないかという気持ちになる。

 とはいえ、ピエールのイラつきもよく分かって、自分を有能だと思っている人間が、自分が有能ではないと思っていない人間に仕事を頼むというのは、なかなかに面倒くさいことなのだろうなぁと思う。自分でやりたいけどやれない。そしてまた、フランソワの外し方がかなり予想外であって、歯がゆいというか、「なんでこんな簡単なこともできないんだ!」というピエールの叫びも分かる。
 「間が悪い」ことが決定的に物事をダメにすることってある。
 しかし、「間の悪さ」を決定的にダメにしているのは、ピエールがそれまで(多分、上手に)繕ってきたことを明るみに出してしまっているからで、繕わなければならないようなことをしてきたピエールの責任と言えば責任だよなぁとも思う。

 見ているときは、「別にピエールが意地の悪い人間という訳でもないんじゃない? この舞台では、ピエールがただ悲惨な目に遭っているだけじゃん」と思っていたけれど、こうして思い返してみると、我ながら随分と色々なことを思っていたのだなぁと思う。
 不思議な舞台だ。

 ピエールは、クリスティーヌの居場所を探るために、坂田聡演じるフランソワの同僚のシュバルの協力を仰ぐ。フランソワとシュバルは国税庁の職員で、ピエールはシュバルに脱税で目を付けられてしまう。
 また、フランソワの間違い電話が原因で、以前にピエールが付き合っていた野口かおる演じるマルレーヌというちょっと変わった女性にピエールが妻に逃げられたことが伝わってしまい、彼女に再び(なんだろう、多分)つきまとわれることになる。
 そして、そのマルレーヌとクリスティーヌとを取り違えたフランソワによって、クリスティーヌにピエールがマルレーヌと浮気していたことが伝わってしまい、クリスティーヌは一度は戻ったピエールの家から再び出て行ってしまう。

 何というか、ピエールもフランソワもマルレーヌも相当極端に描かれていて、シュバルも相当変わっていると思うけれど陰が薄いし、クリスティーヌがひたすら普通の女性に見える。
 アルシャンボー教授だって、かなり変わっていたと思うけれど、立ち位置としては「洒脱」なのかなぁと思う。しかし、アルシャンボー教授を演じているのが大森博史だと随分後になるまで気がつかなかった。というか、配役を見た後の今でも「そうだったかな?」と思っている。当たり前なのかも知れないが、役者さんの化け方って凄いと思う。

 踏んだり蹴ったりのピエールは、マルレーヌによって「奇人達の晩餐会」について知ったフランソワから追求され、堂々と開き直る。
 この開き直ったピエールの台詞の数々は確かに「嫌な奴」全開だったよなと思う。
 それでも、交通事故に遭ってもピエールを拒否するクリスティーヌにフランソワが電話をかけ、彼女にピエールの「今」を淡々と伝える。一度は「これもピエールの作戦でしょ」と疑ったクリスティーヌも、フランソワの真摯さに感化されたようだ。

 ここで終われば感動の幕切れだけれど、もちろん、そうではない。
 その直後にかかってきたクリスティーヌからの電話にフランソワが出てしまい、クリスティーヌは「やっぱりピエールの差し金だったんじゃない!」と電話をたたき切り、ピエールはそれまでの大感謝の念から一転、フランソワを責め始める。
 そこで、幕である。

 恐らくとことんコメディにできる戯曲だと思うけれど、とことんコメディにするのに躊躇する戯曲でもあると思う。
 今回は、躊躇したバージョンの上演だったんじゃないかという気がする。
 その分、笑う代わりに色々と考えてしまった。詰まるところ、自分にはピエール成分とフランソワ成分のどっちが多いだろうと考えて落ち込んだ。そこを笑い飛ばせない自分は、空気が読めない嫌な奴なんだろう、しかしそれを自覚している分彼らよりは救いが(多分)ある、そう思うことにした。

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