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2022.06.05

「ドライブイン カリフォルニア」を見る

日本総合悲劇協会Vol.7「ドライブイン カリフォルニア」
作・演出 松尾スズキ
出演 阿部サダヲ/麻生久美子/皆川猿時/猫背椿
    小松和重/村杉蝉之介/田村たがめ/川上友里
    河合優実/東野良平/谷原章介
観劇日 2022年6月4日(土曜日) 午後1時開演
劇場 本多劇場
料金  7800円
上演時間 2時間20分

 ロビーでは、パンフレットと戯曲が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 大人計画の公式Webサイト内、「ドライブイン カリフォルニア」のページはこちら。

 ”日本総合悲劇協会”のお芝居なので、悲劇である。まぁ、不幸そうな人しか出てこない。不幸そうな人しか出てこない割りに明るい。そういう感じのお芝居だったと思う。
 大体、語りを担当しているのが、田村たがめ演じる中学生男子ユキオ(幽霊)である。それだけで悲劇というものではないか。

 タイトルの「ドライブイン カリフォルニア」は、このお芝居の舞台となっているドライブインの名前である。
 立地は今ひとつ分からない。納屋の屋根にシーサーが載っていると話していたから沖縄なのかと思ったけれど、それをわざわざ話題にしていたから沖縄以外の場所ではないかとも思う。
 この「ドライブイン」が何故だかずっと「ドライブ イン」と聞こえていた。こちらも自分でも理由がよく分からないし、だからどうしたということでもない。

 そこは竹林を背負ったドライブインだ。
 阿部サダヲ演じるドライブインの主人・アキオは、どうやら毎晩、麻生久美子演じる妹のマリエと向き合い「死にたくないか」と確認しているらしい。そういうシーンから始まった、と思う。
 そして、そのマリエに対し、小松和重演じる異母兄弟のケイスケが蜂の巣からロイヤルゼリーを採る方法を話し、その中に「女王蜂の死」が含まれていたことから、アキオが異様な反応を見せる。「マリエの前で死に関わる話題はタブー」ということになっているらしい。

 で、どういうきっかけだったか忘れたけれどユキオが幽霊として登場し、舞台上では、一気に時間を遡る。
 最後に説明があったとおり、それは「成仏できない」幽霊がたどる道らしい。自分の一生を振り返っている、その振り返りを客席からのぞき見させてもらっている感じだ。

 物語は、そうして、一気にユキオが生まれる前に遡る。
 場所はずっと「ドライブイン カリフォルニア」だ。
 そして、この後は、時間軸が前後することは(あまり)なく、起こったことが起こった順に語られて行く。そういう意味では、割とシンプルな舞台だったと思う。

 シンプルな舞台に登場するのは、しかし、何とも変わった人々である。
 ユキオが遡った先の時間では、ユキオはまだ生まれていない。
 マリエがカウンターに立ち、閉店間際のドライブインで、猫背椿演じる女クリコと東野良平演じる「おもちゃ屋のヤマちゃん」が帰るか泊まるか決めるのを待っている。
 この二人、分かりやすく人妻と不倫相手である。

 そこに蜂の巣退治をしたアキオが戻ってきたり、谷原章介演じるクリコの夫・若松がやってきたり、バンドで歌っているマリエの歌を聴いていきなりスカウトしたりする。
 ユキオの物語の始まりはここにある、ということなんだろう。

 ドライブイン カリフォルニアで起こらなかったことは、概ね、語りのユキオが語ってくれる。
 14年後に戻ってきたマリエも語ってくれたところによると、マリエは上京する列車の中で恋に落ち、アイドル歌手としてデビューしたものの全く売れず、売れないまま恋に落ちた相手と結婚し、その相手は不動産業でがーっと儲けたけれど事業を広げすぎて失敗し自殺してしまう。そして、マリエは、マネージャーである若松を引き連れ、息子のユキオを連れて実家に帰って来る。

 ドライブイン カリフォルニアはその時点ですでにかなり寂れていて、売りというか華やぎは、ケイスケが語る「写真家の女性との4日間の恋」だけという惨状である。
 アキオは、川上友里演じるマリアという見るからに水商売の女性と付き合っており、しかし、どう見ても「マリエが呪縛なって」いて、「マリエがいるんだったらその身代わりなんて必要ない」状態にしか見えない。

 流行っていないドライブインだけど、河合優実演じるエミコという10代の女の子がアルバイトしている。彼女には嬰児の子供がいて、その子の父親である元教師から「大検の資格を取るまで」と家庭教師をしてもらっている、らしい。
 この二人、結婚したままだったか、離婚したんだったか、そもそも結婚してないのだったか、どうだっただろう。覚えていない。とにかく、そういう関係の二人である。

 赤ちゃんの人形を乗せたベビーカーがずっと舞台上にあるという絵もなかなかシュールだ。この赤ちゃんの泣き声が流されることがなかったことが余計にシュールな感じを生んでいたようにも思う。
 今、思ったけど、赤ちゃんの泣き声がなかったことと、赤ちゃんの母親であるエミコが「今まで一度も泣いた(泣けた)ことがない」ということと、何か関連があったんだろうか。

 さらに、このドライブインの床下には、村杉蝉之介演じる、アキオとマリエとケイスケの父親であるショウゾウが隠れ暮らしている。
 (生きているときの)ユキオは人の声は聞こえず、しかしラジオの音は聞こえるらしい。そのユキオにショウゾウの声は届いており、最初、私は「ショウゾウは幽霊なのでは?」と思っていた。しばらくして生きている人間と分かり、ユキオが「障害を持った人の声だけは聞こえるんだと分かった」と説明してくれた。
 併せて「ケイスケおじさんの声は聞こえないから、ケイスケおじさんの足は別に悪くない」ということも説明してくれた。この辺りにも、ケイスケがこのドライブインに居着くようになったきっかけの「闇」がある。

 この中で、一番「闇」がなさそうなマリアですら、彼女自身はともかくとして、彼女の祖母マリエが視力コンテストで優勝し、そのことにあやかってショウゾウがマリエの名前を決めたという因縁を持っている。
 そして、アキオは、「マリエ」という名前に(というか「マリエ」自身に)執着があり、似た名前の女としてマリアを選んだ、ということらしい。
 ぐるっと回っている。

 そして、昔、アキオが「マリエと同じ名前だった」から拾ってきたレントゲン写真に鍵のようなものが写っており、そのレントゲン写真はマリアの祖母のものであり、そこに写っている鍵をマリエは祖母からもらっており、その鍵は竹林の中にある納屋の鍵であるらしい。
 そして、その鍵を開け、きっかけとなった悲劇が明かされ、そしてまた悲劇が起きる。
 ・・・ということだと思う。

 ラストシーンは、ユキオの葬儀の日である。
 ドライブイン カリフォルニアに集った人々が、火葬場に行こうとしている。
 ケイスケとクリコは北海道で新生活を始めており、この場にはいない。
 何故か、ショウゾウとマリアは夫婦のように寄り添っている。
 ユキオは「自分の死は、自殺ではなく事故だ」と語り、しかしもちろん、その声は母のマリエを始めとするこの場にいる人々にも誰にも伝わらない。
 エミコは、ユキオの死を悲しみたいと涙を流そうと泣こうとし、「でも泣けなかったら」と目薬を取り出して差す。
 そこで、幕である。

 概ね、悲劇だ。
 でも、何故だか舞台はずっと明るい。軽みがある。
 どんなに悲劇が起ころうと、悲劇に負けようと、しかし、悲劇に潰されてはいない。電車の音が「死んでもいい」と聞こえたとしても、でも、生きている。
 そういうお話だったと思う。

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