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2022.09.24

「天の敵」を見る

イキウメ「天の敵」
作・演出 前川知大
出演 浜田信也/安井順平/盛隆二/森下創/大窪人衛
    瀧内公美/豊田エリー/大久保祥太郎/髙橋佳子
    牧凌平/澤田育子/市川しんぺー
観劇日 2022年9月23日(金曜日) 午後2時開演
劇場 本多劇場
料金 6800円
上演時間 2時間20分

 ロビーでは過去公演のDVDが販売されていた。
 ネタバレありの感想は以下に。

 イキウメの公式Webサイトはこちら。

 割と最近に見たように思っていたら、「天の敵」の初演は2017年で、それ以来の再演だった。
 「天の敵」の元になった(のだと思う)「図書館的人生vol.3」は2010年である。
 イキウメの公演は、私の印象よりも少ないらしい。もっとしょっちゅう見ているような気がしていた。

 設定などの大きな枠組みは初演と大きくは変わっていないのではないかと思う。長谷川卯太郞役の浜田信也と、彼にインタビューする寺泊満役の安井順平らの、劇団の俳優陣は全員、初演から続投である。
 一方で客演の顔ぶれはがらっと変わり、かつ、「アシスタント」という役が増えていた。男女一人ずつ、まさに「アシスタント」という感じで、長谷川と、瀧内公美演じるパートナーの恵が開催している料理教室のアシスタントであり、ちょっとした物を片付けたりといった舞台を整えるという意味でのアシスタントも務めていた。
 舞台上でうるさくならず、邪魔をせず、しかし、何となく「雰囲気」を醸し出していた。凄い。

 寺泊は難病に罹患しており、あと数年の命と言われている。
 寺泊の妻は、そんな夫を何とかして助けようとインターネットで検索しては様々な民間療法を試しまくり、今は、恵と長谷川が開いている菜食の料理教室に落ち着いている。
 そんな妻の様子と、自身が健康食品や薬害などの医療系を得意とするジャーナリストということもあり、長谷川のインタビューにやってきた。

 この寺泊という人物がインタビューを申し込み、そして寺泊自身が病を抱えていたことから、この「天の敵」という物語は動き始める。
 何しろ「人生という、死に至る病に効果あり。」である。
 このコピーが凄すぎる。その通りだけれど、なかなかそう思えるものではない。

 122歳にもなると長谷川という人物はやはりどこか佇まいが変わっていて、寺泊が挑発しようとしても全く乗ってこない。
 そして、ごく穏やかに、そしてどことなく胡散臭く、ここでは橋本と名乗っている彼は、寺泊の一撃必殺の質問に真正面から答えることで見事返り討ちにする。
 曰く、「自分は長谷川卯太郞の孫ではない。長谷川卯太郞自身である。」
 そして、自分の人生、料理教室を開いた経緯、そして「不老不死」の秘密を語り始める。

 舞台転換はなく、舞台セットは常に恵と長谷川の料理教室のアトリエである。
 隣に温室があって作物を育て、外はすでにジャングルのようになっていてやはり植物を育てている。
 壁一面に棚があり、漢方に使われているのだろう食品が並んでいる。温室の他にも緑がたくさん飾られている。
 そして、そのセットが、様々なときの様々な場所に変わる。場面の切り替えは、フラッシュのような光で示される。

 「もう寿命が分かっている」けれども「恐らくこいつは自分が助かると分かっていても飲血はしない」と見定めたからこそ、長谷川は己の半生を語り、恵との写真を長谷川に撮影してもらい、そして、自分と同じように飲血を始めた知り合いを太陽の下に連れ出そうと決心し、「殺されなくては死なない」と諦めて見ないようにしていた「自殺」という手段を選ぶことを決める。
 やはし、この、恵との写真を撮ってもらうシーンが切ない。
 しかし、今回の恵は、多分、長谷川の死を乗り越えられるような感じがする。

 イキウメの芝居によく出てくる「時枝」という謎の男がこの「天の敵」にも、「完全食」を探すというテーマを持ち、即身仏になるという男として現れる。
 イキウメの芝居は彼を通してゆるく繋がっている、のかも知れない。
 また、「飲血」により太陽の光を浴びると火傷して死んでしまうという設定は、「太陽」を思い起こさせる。
 何というか、裏テーマというか統一テーマというか、隠されたリンクがあるように思うけれど、まだよく分からない。

 今回、二人が写真を撮ってもらうシーンよりも、寺泊が、血液の入った冷蔵庫を開け、しばし葛藤して固まり、しかし血液を取り出そうとはせずに冷蔵庫を閉めるというシーンがより印象に残った。
 「寺泊、止めとけ!」と思ったけれど、死期が数年後に迫り、その前に自分の意思で動くことができなくなると分かっており、3歳の子供がいて、飲血をすれば病が直ると聞いてしまったら、「飲血」の誘惑は果てしなくでかいと思う。よく思いとどまった! と思う。
 不老不死など手に入れたところでロクなことにはならない。

 いつか必ず死んじゃうからこそ人生は生きるに値する。
 カッコ良く言うと、そういうことなんだと思う。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 みずえさんも初演をご覧になっていたのですね。
 結構前に上演されているのに、印象と記憶に残るお芝居ですよね。
 私は不死はもちろん、不老もちょっとイヤです(笑)。

 イキウメの次回公演は来年の5〜6月の予定でしたでしょうか。
 楽しみです。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2022.09.27 21:50

姫林檎様

私も初演は観ました。そしてやはり、「太陽」に似ているなと思いました。
そうそう、これにも「時枝」出てきますね。
彼はいつも気になります。

観ていて、「不死」にはなりたくないけれど、「不老」は魅力だな、老けない容姿は欲しいかも、と考えたことを思い出しました。

私は基本的には再演は観ないので、イキウメの新作上演が楽しみです。

投稿: みずえ | 2022.09.27 14:34

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