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2022.09.25

「阿修羅のごとく」を見る

モチロンプロデュース「阿修羅のごとく」
作 向田邦子
脚色 倉持裕
演出 木野花
出演 小泉今日子/小林聡美/安藤玉恵/夏帆/岩井秀人/山崎一
観劇日 2022年9月24日(金曜日) 午後1時開演
劇場 シアタートラム
料金 8000円
上演時間 2時間

 ロビーでは文庫サイズのパンフレットが販売されていて、そのサイズ感に買いたくなったけれど、1500円の文庫本って高いという気もして買いそびれてしまった。
 ネタバレありの感想は以下に。

 大人計画の公式Webサイト内、「阿修羅のごとく」のページはこちら。

 「阿修羅のごとく」はドラマも映画も見ていない。タイトルだけ、向田邦子が書いたということだけ知っている。
 今回の舞台では、シアタートラムの真ん中に舞台を設定し、四方から客席が囲む形になっていた。私の席は南側で、一応「メイン」の側と言っていいと思う。座席数が一番多い。
 真ん中の舞台は1mくらい高くなっていて(もうちょっと低かったかも知れない)、正面には階段がつけられ、両脇はスロープになっている。
 出演者陣は舞台上はもちろんのこと、しょっちゅう、この舞台の周りを歩いていた。

 これという舞台セットはなく、四隅に小さなテーブルが置かれ、電話が載っている。
 電話は3台がダイヤル式の黒電話で、1台が10円を入れてかける赤電話(と、公衆電話のことを昔呼んではいなかっただろうか)だ。舞台の上で日付や年をすぐに特定できるようなことは言われていなかったと思うけれど、概ねのことは伝わる。時代を感じる。
 そして、シーンごとに「枠だけ」といった形に組まれた直方体を使って、ダイニングテーブルやベッドや公園のベンチや引き戸などなどが作られていた。元々がテレビドラマということもあるし、結構、暗転は頻繁だったと思う。

 正方形の舞台の上、かなり高いところに屋根の形が木材っぽいもので組まれている。
 最初は「土俵ね」と思っていて、途中で「やっぱり能舞台だったかしら」と思い直し、最後の頃には「やっぱり土俵かなぁ」と考えていた。
 単純に一軒家の屋根だったのかも知れない。

 舞台上に現れる登場人物は限られている。
 主な登場人物としては、70代の父、60代半ばの母、結構大きくなった息子がいる未亡人の長女、夫と娘と息子がいる専業主婦の次女、独身で司書の三女、新人王にトライしているボクサーと同棲している四女、三女が依頼した興信所の担当者、父親の不倫相手の女性、長女の不倫相手の男性、くらいが挙げられると思う。
 結構、多い。

 しかし、この舞台では、父と母、父の不倫相手の女性は出てこない。
 正確に言うと、母は倒れる瞬間だけ舞台上にいるけれど、サングラスをかけショールをすっぽりと被っていて顔はほとんど見えないし、台詞もほとんどない。
 今回の舞台に当たっての脚色における最大のポイントはここだと思う。主要登場人物を登場させない。

 舞台上には、小泉今日子演じる長女、小林聡美演じる次女がいて、次女の夫と長女の不倫相手を山崎一が演じている。安藤玉恵演じる三女、夏帆演じる四女がいて、三女が依頼した興信所の担当者と四女の同棲相手を岩井秀人が演じる。
 女優陣も、一人二役、三役とこなしている。
 舞台でなければなかなかできない脚色だと思う。

 ただ、元のドラマも映画も見たことがないので、その工夫に感心というか感動するところまで行かない。
 元ネタを知らないと、捻りはそのまま分かりにくさに直結してしまうと思う。今回の私はまさにこれだった。
 一番分からなかったのが、母が倒れて四姉妹が病院に集まり、次女の夫、次いで父親が現れたシーンである。次女の夫は、父親から「私が渡しておきます」と言って祝儀袋を受け取る。
 いや、だからそれは誰から誰に当てた、何を祝うお金なんですか! と聞きたかった。「結婚」という言葉は出ていたと思うけれど、とにかくここが分からなくて、???以外の何も頭に浮かばなかった。

 で、そのままお葬式のシーンに変わってしまう。
 四姉妹と次女の夫と興信所の男が喪服に着替え、一列に並んだところで幕である。
 その直前が母が倒れて病院に運び込まれたシーンだったのだから、それは確率として母のお葬式だろうとは思う。しかし、ここで(私の聞き漏らしや見逃しかも知れないけれど)、母のお葬式であるということをはっきりと示されてはいなかったと思う。
 「母が倒れたことにショックを受けた父が死んだ」可能性だってある。

 そんな感じで、この舞台の終盤、分からないことを考えてぼーっとしているうちに芝居が進み、いつの間にか幕が下りていた。

 長女と次女はもの凄い勢いで衣装替えをしていたけど三女と四女はほぼ同じ衣装で通したのは何故だろうとか、小泉今日子が姉で小林聡美が妹ってちょっと違和感があるなとか(ネットで検索したら、実年齢は小林聡美が一つ上のようだった)、つまらないことも気になりつつ、恐らくは一番「阿修羅」を背負っていただろう母親の顔を見せないのは、やはり勿体なかったと思う。
 この母が新聞に投書する際に「三人姉妹で、専業主婦で、匿名希望」を名乗り、自分を心配する娘になりきって書いているのだけれど、四人姉妹を産んだのに己を三姉妹だと名乗るところにめちゃくちゃ闇を感じる。
 三姉妹と書いてあるのを読んで「ここで一人外されたのは自分だ」と早合点で思い込み、次女が書いたものと思い込んで電話で一方的に文句をつける四女よりも、ずっと母の闇の方が深いではないか。

 何しろ「阿修羅のごとく」である。「阿修羅」とは何かということを私が誤解しているのかも知れないと思いつつ、「阿修羅」を見せなくてどうすると思う。
 何というか、この四姉妹はそれほど裏があるように見えない。顔で笑って心で泣いてとか、怒りを封じ込めて穏やかに微笑んで見せるとか、そういう表裏があったり、隠しごとはしているけれど、その「裏」とか「隠しごと」がずっと赤裸々に描かれていて、闇を感じさせないようになっていると思う。

 時代の違いもあるだろうと思いつつ、しかし、今、昭和を舞台にした芝居でしか表すことのできない「阿修羅」をもっと見たかった。

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コメント

 みずえ様、こちらもコメントをありがとうございます。

 みずえさんはテレビドラマをご覧になっているのですね。
 鬼気迫るドラマだったのですね・・・。
 「流石、向田邦子」と言いたいところですが、私はお名前を知っているだけで、向田邦子作品は見たことがないように思います。
 また再放送されることがあるでしょうか。

 ですので、比較はできないのですが、恐らくはこの舞台は、さっぱり系というかあっさり系の「阿修羅のごとく」になっていたと思います。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2022.09.27 22:05

姫林檎さま

この舞台、私は迷った挙句に観ませんでした。
これはシーズン2まであったドラマで、私は全部再放送で観たのですが、キャストは豪華だし、とても面白かったです。
キャストを替えて映画でもやったようだけど、そちらは観ていません。
かなり長い話なので、映画や舞台だと相当端折ることになり、恐らくドラマで観た自分は物足りなく感じるだろうな、と思ったのです。
実際、ドラマで観たときは、阿修羅を感じる、といったらいいのか、女の業というものが怖いほど描かれており、それは男女間に限らず、姉妹間での嫉妬や葛藤もあったかと思われます。
機会がありましたら、ドラマをご覧になってほしいです。
キャストの方々はほとんど鬼籍に入ってしまいましたけどね……。

投稿: みずえ | 2022.09.27 14:25

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