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パルコプロデュース2022「凍える」
作 ブライオニー・レイヴァリー
翻訳 平川大作
演出 栗山民也
出演 坂本昌行/長野里美/鈴木杏
観劇日 2022年10月22日(土曜日) 午後1時開演
劇場 パルコ劇場
料金 10000円
上演時間 2時間30分(20分間の休憩あり)
ロビーではパンフレットが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
最近はほとんどの芝居でそうな気がするけれど、この舞台でも幕は下がっていなかった。そのうち「幕」のない劇場ができたりするんだろうか。
舞台上には、少し斜めに引っ張った感じで十字に床を上げて白い通路が作られている。十字の通路で仕切られた舞台の床は黒く塗られ、左手前は長野里見演じるナンシーの居場所、右手前は主に坂本昌行演じるラルフの居場所、十字の通路には鈴木杏演じるアニータがいることが多かったと思う。
三人芝居だ。
幕開けは、よく分からないアニータの独白から始まる。
スーツケースを引いて今まさに家を出るところという感じだ。旅行に行くのではなく、引っ越すらしい。しかし、引っ越す割りに旅行に行くような出で立ちである。
何というか、ほとんど錯乱状態に見える。いきなり正座してみたり、鞄に頭を突っ込んで叫んでみたり。よく分からない。
アニータが出かけて行くと、舞台に向かって左側の壁に番号とシーンのタイトルが映し出されていることに気がついた。
私の席も舞台に向かって左側(座席番号の小さい方)だったので、最初は壁に映し出されているこの文字を見逃していたのだと思う。
ナンシーは、一家4人で暮らしている、らしい。最初は「ボブ」と「イングリッド」と「ローナ」の3人が彼女の子供なのかと思ったけれど、少ししてボブは夫なのだと分かった。彼女にとっては、どうもほぼ「子供」と一緒だったらしい。
ナマイキなイングリッドに辟易して、ローナにおばあちゃんの家までのおつかいを頼んだところで暗転だ。
そしてラルフが出てくる。
登場からしていきなり異様だ。異様というか、不穏な雰囲気をまき散らしている。いや、こういう人の近くに行きたくないよ、という感じに変である。変というか、不穏だ。今にも怒鳴り出したりしそうな感じがある。
そのラルフが、小さな女の子に目を留め、「こんにちは」と話しかける。「優しそうにしよう」という意思がバレバレの怪しさだ。
しかし、照明で作られた(と思ったけど違うかも知れない)足跡で表された女の子は、コイツに付いて行ってしまう。
割と開演から近いシーンで、アニータが飛行機でブランデーをがぶ飲みしつつ意味が分からなすぎるメールを書いているシーンがあった。
意味が分からない。
そして、アニータが打つ画面の文字がそのまま、左側の壁に映し出され、やはり見にくい。どうして正面奥の壁に映してくれないのだろうと思う。
ローナが行方不明になって数ヶ月が経ち、ナンシーは行方不明の子供を追う会を立ち上げたか加入したかで、講演活動に没頭しているらしい。
そして20年後、ラルフが逮捕され、過去の罪を自供し、彼が誘拐して殺害した子供の中にローナが含まれていることが判明する。
この辺りまでは3人が代わる代わる独白するシーンが続き、会話はほとんどない。
ナンシーはその場にはいない娘や夫との会話を再現したり独白したり、ラルフは女の子に話しかけたりするもののほとんど独白していて、アニータはイギリスの大学で研究発表をしている。彼女はあまり独白していなかった、気がする。
3人芝居で、その3人の間で会話がほとんどなく、でも芝居である。
そこが凄い、ような気がする。
そこまでくっきり分かれていたかどうか分からないけれど、休憩後の二幕では、アニータが自分の研究発表の一環としてラルフとの面接を重ねるようになり、ナンシーはボブとは別居か離婚かしているようだけれど娘のイングリッドと会話が成立するようになっている。
アニータの研究の趣旨は「悪意のある殺人は罪だが、病による殺人は症状である」というものである。凶悪犯の多くは脳に器質的な問題があり、そしてその器質的な問題は肉体的及び精神的な迫害によって生じると彼女は語る。
そうすると、子供の頃に親からの虐待を受けていたラルフが子供達を殺したことも「症状」であるということになる。
ナンシーは、もちろん娘の命を奪ったラルフを憎み続けている。
しかし、娘のイングリッドから「許しましょう」と言われ、最初は反発したものの、次第にラルフを「許せる」と考えるようになり、ラルフとの面会を望むようになる。
ナンシーから面会できるよう手配してくれと望まれたアニータは、ナンシーのためではなくラルフのために面会を許可しない。
しかし、何がどうなったのか、アニータの判断にも関わらず、ナンシーとラルフの面会が成立する。
ナンシーは茶系のスーツを着ている。そういえば、アニータはほぼ黒のパンツスーツ姿だ。
ナンシーとラルフの間に会話が成立する。アニータとラルフの間よりもむしろ会話が弾んでいるように見える。少なくとも、アニータが聞き出せなかったラルフの子供の頃の話を、ナンシーは引き出すことができている。
そして、彼女の、心からの「許します」という発言が、ラルフをさらに混乱させて行く。
そして、アニータとナンシーは、自殺したラルフの葬儀の場で再会する。
ナンシーが「彼が自殺したのは私と会ったからか」と尋ねると、アニータは「そう思います」と肯定する。
そこは覚えているのだけれど、この舞台がどう終わったのか、何故か覚えていない。
そこに救いはないけど絶望のなかったような気がする。扱われているテーマから想像できるほど、この舞台は暗くない。
アニータが最初の頃に打っていたメールが、10年来の共同研究者宛のものだと分かる。その共同研究者の妻と電話で話すシーンが真ん中くらいにあってそこで仄めかされていたものの、ここで、共同研究者が交通事故で亡くなる2日前だか3日前だかにアニータが彼と寝ており、それで恨み言めいたメールを送ったところ、そのときにはすでに彼が死んでいたということが語られる。
ナンシーは、ラルフからもアニータからも「誰にも言っていなかったこと」を引き出したということだろう。
その説得力は、やはり長野里美だからこそだと思う。この芝居の要はナンシーだし、長野里美だと感じた。
最初に登場したアニータが20年後のアニータで、次のシーンでは20年遡ってローナが誘拐されたときに戻り、ラルフとナンシーはそこから時が動き出すけれど、アニータはずっと20年後にいるというのが分かりにくい。
そこも含め、難解というか自分は分かっていないなと感じるところが多かった。
ラルフがずっと左足の腿を気にしているのは何故なのかとか、刺青への拘りに理由があるのかとか、アニータの最初のシーンでの混乱や研究発表のときの動揺の理由は何なのか(デイヴィッドとの関係だけでは説明がつかない気がする)とか、現象として分からないことも多かった。
でも、3人の存在感が拮抗している濃密な時間を堪能した。
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