「ショウ・マスト・ゴー・オン」を見る
シス・カンパニー公演「ショウ・マスト・ゴー・オン」
作・演出 三谷幸喜
出演 三谷幸喜/尾上松也/ウエンツ瑛士/新納慎也
小澤雄太/今井朋彦/小林隆/藤本隆宏
シルビア・グラブ/峯村リエ/秋元才加/井上小百合
中島亜梨沙/大野泰広/荻野清子/浅野和之
観劇日 2022年12月26日(月曜日) 午後1時30分開演
劇場 世田谷パブリックシアター
料金 11000円
上演時間 2時間30分(15分の休憩あり)
ロビーではパンフレット(1500円)が販売されていた。
元々24日昼公演のチケットを持っていて、(確か前日に)公演中止のメールが入ったときはかなりショックだった。
三谷幸喜が主演の鈴木京香の代役を務め、26日に追加公演を行う、チケットの発売は25日10時からという情報を得てチャレンジし、無事に見ることができた。とてもとても嬉しい。
ネタバレありの感想は以下に。
そんな訳で、主演の鈴木京香の代役を演出の三谷幸喜が務める公演を見た。
本当に見られて良かったと思う。
この芝居は東京サンシャインボーイズの代表作の一つで、当時(28年前だそうだ)もかなり評判だったと思う。残念ながら見ることはできなかった。
やはり、大人気である。私が見た追加公演もほぼ満席のように見えた。
舞台は、シェイクスピアの「マクベス」を上演している劇場の舞台裏である。
昨日、舞台監督が叱って殴ったスタッフが出勤してこないし、社長からよく分からないお客さんに舞台袖から舞台を見せてやってくれと言われるし、演出家は秋葉原で道に迷って到着しそうもないし、パーカッションの担当者が(理由は忘れたけど)来ていないし、舞台裏を見たいと作家がやってきてずっと居座るし、ピアノの担当者は滅茶滅茶声が小さいし、主演男優のワガママで役者がどんどん下ろされたみたいだし、欠勤したスタッフの代わりにその父親がやってきたけど誠意はあるけど要領を得ないし、何か言われると「今やるところでーす!」と返す女性スタッフはアロンアルファで発泡スチロールでできた小道具を壊しちゃうし、次の公演の舞台セットが運び込まれてきて邪魔だし、よく分からない担当のスタッフは何かというと「謙信餅」を食べさせようとしているし、主演俳優は何故か出番直前に超弱気になるし、トラブルの種がてんこ盛りである。
こんなにてんこ盛りで舞台は最後まで上演できるのか。
だからこその「ショウ・マスト・ゴー・オン」である。
上演前からこれだけドタバタなのだから、開演後だってドタバタの追い打ちがない訳がない。
そこを、舞台監督を中心に、その都度「何とかして舞台を最後まで上演する」ために知恵を出し合い、失敗を重ねて傷を大きくしたり、そこをさらに何とか繕ったりして行く。
舞台を降板させられた役者が陣中見舞いに現れたり、主演男優が舞台で倒れそうになり医者が呼ばれたり、壊れた小道具を作ってもらうために伝説の小道具担当者(らしい)七右衛門が呼ばれたり、戯曲が直されまくっていて作家が怒ったり、そもそも劇作が主演男優の名前にすでに書き換えられていたり、もうとにかくてんやわんやである。
その中で、舞台監督は一人、不動の佇まいで、落ち着いている。落ち着いているというよりは淡々として、少し興奮して善後策をそこら辺りにいる人に伝え、にわかチームワークで乗り切って行く。
どうやら私生活で同棲している恋人に振られそうになっているらしいのだけれど、そういう片鱗も見せつつも、揺るがない。
「とにかく一度幕を開けた舞台を最後まで務める」ことが自分の役割だとわきまえ切っている。
三谷幸喜の代演で、千秋楽も近いし、そのこと自体を逆手にとってコメディにがっと振るのかと予想していたら、それは見事にいい方に裏切られ、何というかもの凄く正統的に代演を務めておられ、それが意外なくらいハマっていたことに驚いた。大拍手である。
唯一、「代演だから湧いたのだろうな」と思ったのは、舞台監督がトラブル処理のために舞台に出ていったスタッフが戻って「初舞台を踏みました!」と興奮して喜んでいたところに、「裏方が舞台に出るなんて恥ずかしいことだ」といった叱責の言葉を投げたところで、すっかり代演に慣れきっていた私は客席がどうして沸いたのか一瞬分からなかった。
女優の代役をしていることで、恐らくはニュアンスが異なることもあったと思う。それほど台詞はいじっていないと想像するけれど、彼の同棲相手が若い男の子で、彼の今の恋人が部下の女性スタッフだったと判明するシーンで、敢えて何も変えずに行ったのだと思われ、鈴木京香が演じる場合とでは印象が変わるよなと思ったことは覚えている。
また、「舞台になんか出られない」と弱気になる主演男優をハグして勇気づけるところなども、多分、雰囲気が変わったのじゃないかなぁと思う。
しかしそれは「効果」として成立していたと思う。やっぱり凄い。
舞台はトラブルを解決したり大きくしたりそれを解決したりしつつ、「謙信餅」も無事にはけ、終演を迎える。
劇場の目の前にあるドーナツ屋で買われたとおぼしき差し入れたちも役者に配られる。
スタッフの父親は「ここはいい職場だ。明日は息子を来させる」と言って帰って行く。パワハラで訴えられなくて何よりである。しかし、今なら暴力ではなく叱責した次の日から出てこなくなるスタッフは設定として十分リアルだったと思う。
舞台監督が、別れた恋人の今の恋人が誰かを察し、「謙信餅」の賞味期限がすでに切れていることにスタッフが気づき、幕である。
正しく「ショウ・マスト・ゴー・オン」だった。
面白かった。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
そして、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
みずえさんは「ショーマストゴーオン」をオリジナルメンバー(?)でご覧になったのですね。それはかなり貴重なことだったのでは・・・。羨ましいです。
三谷さんは淡々とした演技がハマっていて、「これはこれであり!」な感じでいらっしゃいました。ふふふ。
今年はもっとたくさんのお芝居を観たいものでございます。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2023.01.09 17:08
姫林檎様
明けましておめでとうございます。
今年もこのブログを楽しみにしております。
去年は数本コロナで休演になり、涙をのみましたし、そもそもコロナ前ほど公演数が多くない気がしますが、何とか今年はもっと観たいと思っています。
ショーマストゴーオンは、私も観ました!
全員そのままのメンバーでした。
三谷幸喜さん、多くの代役をこなしてらして、大変だったでしょうね。
ラストにまさかの主演女優の代役とは。
元々サンシャインボーイズでの公演では、あの役は男性(西村さんかな)だったそうなので、男性でももちろんおかしくないでしょうが、そう、終盤に彼氏が出てくるんですよね!
そこをどうするのか気になっていたんですが、変えずにやったんですか……なるほど……。
とにかく面白い舞台でした。
大河も終わりましたし、これからもっと三谷さんの公演が観たいですね。
投稿: みずえ | 2023.01.06 09:02