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ミュージカル 「おとこたち」
脚本・演出 岩井秀人
音楽: 前野健太
出演 ユースケ・サンタマリア/藤井隆/吉原光夫
大原櫻子/川上友里/橋本さとし
演奏 pf.佐山こうた/b.種石幸也
観劇日 2023年3月25日(土曜日)午後1時30分開演
劇場 パルコ劇場
上演時間 2時間40分(20分の休憩あり)
料金 11000円
ロビーではパンフレット等が販売されていた、と思う。
場内でのマスク着用は「お願い」になっており、終演後のいわゆる規制退場は続行されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
(今確認してみたら)2014年にストレートプレイ版の初演を見ていた。ほぼ10年ぶりにミュージカルとして再演ということになる。
何しろ10年近く前だし、私の記憶力だし、幸せだったりいい話だったりハッピーエンドだったり、そういうお話ではないということは覚えていて、かつ割とダメダメな感じの男4人の人生が語られる芝居だということも覚えていた。
というところに、開演前から「2幕の途中に暴力的な音声・・・が2分流れる場面があります。そういった場面が苦手な方は遠慮なく耳を塞いでください」というようなアナウンスが入って、何ごとかと思った。こんなアナウンスを聞いたのは初めてだ。
そして見終わった今でも「必要だった?」と思っている。本当に苦手なら出るなりそれこそ耳を塞ぐなりするし、アナウンスするならむしろチケットの購入前にした方がいいのではないか。
劇場でアナウンスすることで、必要以上に緊張してしまったように思う。
途中からは、我ながら穿った見方だとは思うけど、客席に緊張感を持たせるための演出か? と思ってしまったくらいだ。
初演を見たことがあったし、だいぶ初演の記憶が曖昧になっているとはいえ、私が持っている岩井秀人さんのイメージからしても大団円のハッピーエンドではないだろうと思っていた。
ただ、ミュージカルにすることで、だいぶ全体的な雰囲気が軽く明るくなっていたように思う。
そのままぶつけるには世相から考えて厳しいという判断だったんだろうか。
4人の男達のうち、ユースケ・サンタマリア演じる山田は、大学を卒業して最初に入った(多分)イベント系の会社がブラックでメンタルを崩しかけ、転職した会社では電話で苦情対応を行う部署に配属になって、そのまま勤め続けることになる。思えば、4人の中では一番、普通な感じで人生を送っていたということになるのではなかろうか。
その分、客席に近いというところもあって、最初の語りは「山田」から始まっていた。
最初に退場してしまったのは、藤井隆演じる津川である。
戦隊もののヒーローとして活躍した津川は、しかし酒に溺れ、テレビでも舞台でもお酒で仕事をぶち壊し、自宅で火事を出したが九死一生を得て以来、宗教に嵌まるようになる。
そして、その宗教で「大切」と言われて預かっていた「水に弱い」珠をトイレに落とし、混乱ついでに流してしまい、自殺に追い込まれてしまう。
ユースケ・サンタマリアも藤井隆も「おっ?」と思ったくらい歌が上手かったけれど、鈴木を演じた吉原光夫が頭一つ抜けている感じだった。
何しろ声量が凄い。迫力である。
その迫力そのままに、製薬会社のMRとして努力し成功し、彼の基準で優秀ではない自分の息子が許せずにどんどん追い詰め、追い詰められるようになる。
藤井隆演じる息子と上手く行かず、妻も息子の側に立ち、家に居場所がないまま若者が出入りするゲームセンターでもめ事を起こして殺されてしまう。
山田と森田は、鈴木が息子に言葉でも実力でも暴力を振るってきたことを、鈴木の葬儀の場で息子に録音データを聞かされて知ることになる。アナウンスが注意喚起していた場面がここだ。
何というか、この場面にあれだけ繰り返してのアナウンスが必要だと主催者側が思ってしまうほど、今の世の中は(と大きくまとめていいかどうか分からないけれど)緊張しているのだなと思う。
何というか、ついに劇場にまで、と思ってしまう。私の中では、劇場という場所は様々な表現に寛容というか、劇場に足を運ぶ人というのは受け止められる人が多いというか、そういう風に思っていたので、何だか上手く言えないけれどもショックだった。
そしてこの舞台の最後を締めたのは、橋本さとし演じる森田だったと思う。
この森田は、最後まで生業がよく分からなかったし、若い頃はとんでもなく適当に不倫していたし、夫の不倫と適当すぎる言い訳を聞かされた妻がどうして離婚しようとしなかったのか本当に謎な人だけど、山田が自分が82歳であることも忘れてしまった後も彼は生き延びている。
がんを患った奥さんが「(夢にうなされて)家族を全員呼んでいた」と言うときに、絶対に名前を呼ばれないくらいダメな男であり夫だったけれども、何故か何となく許してあげたくなる感じがあった。
森田の不倫相手や鈴木の妻を演じた大原櫻子のアニメ声っぽい歌声も、森田の妻を演じた川上友里のドスの聞いた感じの歌声も、両方とも格好良かったと思う。
声がいい、声が通る、表情豊かな声ってやっぱり素晴らしいよと惚れ惚れした。
彼女たちが演じている女性たちには、ほぼ共感できなかったけれども、それはそれ、これはこれである。
おとこたちが4人、それぞれに心暗くなる人生を歩んでいて、なのに不思議と見ているこちらが暗くならない、不思議な舞台だった。
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