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2023.04.30

「サンソン−ルイ16世の首を刎ねた男−」を見る

「サンソン−ルイ16世の首を刎ねた男−」
作 中島かずき
演出 白井晃
出演 稲垣吾郎/大鶴佐助/崎山つばさ/佐藤寛太
    落合モトキ/池岡亮介/清水葉月
    智順/春海四方/有川マコト/
    松澤一之/田山涼成/榎木孝明
観劇日 2023年4月29日(土曜日)午後0時30分開演
劇場 東京建物BrilliaHALL
上演時間 2時間30分(20分の休憩あり)
料金 13500円

 ロビーではパンフレットやグッズが販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 「サンソン−ルイ16世の首を刎ねた男−」の公式Webサイトはこちら。

 2021年の初演時は、新型コロナウイルス感染症の拡大が重なり、東京で数公演を上演したのみで、大阪公演は完全に中止となったそうだ。
 そのときは、チケットを確保していなかったと思う。
 2023年に再演されることになり、今回はチケットを確保できて見ることができた。

 タイトルのとおり、フランス革命時代のお話で、稲垣吾郎が演じたサンソンという死刑執行人は実在の人物だそうだ。そして、デュ・バリー夫人と恋仲だったことや、そのデュ・バリー夫人やルイ16世、ロベス・ピエールらの死刑執行を行ったことも史実だという。
 全く知らなかった。
 タイトルからしてフランス革命を背景とした舞台であることは予想していたものの、この舞台は「フランス革命を背景とした」舞台ではなく、「フランス革命を描いた」舞台だった。

 幕開けは、サンソンの裁判のシーンである。
 死刑執行人という職業を疎まれ、貴族の夫人と食事を共にしたことを罪だと告発された彼は、死刑執行人という職業の必要性を説きその裁判に勝利する。
 国家が死刑を決定し、その国家に命じられて死刑を執行する。
 それのどこがいけなのか、何を恥ずべきだというのか、戦争で戦う軍人と何ら変わるものではないと主張する。

 しかし、同時にサンソンは「死刑」に疑問を持っており、父親の親友であった将軍の斬首の際には手元を狂わせ、父親を殺した罪で八つ裂きにされそうになった若者を助け、貴族も庶民も苦しみを与えずに死刑を執行すべきと説き、それを可能とするために断頭台による執行を主張してその開発にも携わる。
 死刑執行人なのになのか、死刑執行人だからなのか、どちらかというと後者のような気がする。

 最初のうちはサンソンを中心に回っていた舞台が、いつの間にか「フランス革命」という時代そのものを描くように変わって行く。
 群像劇になったというか、登場人物の一人一人の物語が丁寧に描かれ広がり、「刑の執行」を通じて時代の流れが加速して行ってはいけない方向に走り出して止めることも止まることもできなかった市民の熱狂が描かれているように見える。
 その象徴としてサンソンはあり、心服していたルイ16世の処刑を実行もするし、一時期は死刑廃止論者であったにも関わらずルイ16世の死刑を主張したロベス・ピエールの死刑も執行することになる。

 彼自身の立場や主張は置いておいて、職務に対しては忠実かつ中立で、だからこそ相反することを実行せざるを得ない、ということになる。
 もっとも、ルイ16世の処刑のときは、ナポレオン・ボナパルトに王の救出を懇願して果たせなかったりしているから、決して中立とは言えないのかもしれない。

 死刑を廃止することはできなかったけれども、苦しませずに死刑を執行しようとして断頭台を導入した結果、サンソンは3000人近い死刑執行を行うことになり、開発を主導した教授の名は「ギロチン」と断頭台の名前として後世まで残ることになる。
 断頭台の刃についてアドバイスし模型まで作ったルイ16世は、その断頭台で処刑される。
 皮肉な連鎖である。

 ロベス・ピエールやサンジェストがどうして処刑されることになったのか、そこが余り描かれていなかったのが残念である。
 ロベス・ピエールやサンジェストが処刑されるシーンでは、少し唐突感があったように思う。
 また、サンソンが医者として治療に当たっているシーンも、死刑執行人という職業から人体の構造に詳しいというのは少しステップが足りなくて、(ウィキペディアによると)サンソン家では死体の解剖も行っていたということを示してあると得心しやすかったかなと思う。

 中島かずき作・白井晃演出というのはなかなかない組み合わせなのではなかろうか。
 かなり真面目かつ正面から「フランス革命」を描いた舞台を、見事にエンターテイメントとして成立させていたと思う。

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