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2023.04.16

「ラビット・ホール」を見る

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ「ラビット・ホール」
作 デヴィッド・リンゼイ=アベアー
翻訳 小田島創志
演出 藤田俊太郎
出演 宮澤エマ/成河/土井ケイト
    シルビア・グラブ/山崎光
観劇日 2023年4月15日(土曜日)午後1時開演
劇場 パルコ劇場
上演時間 2時間30分(15分の休憩あり)
料金 11000円

 ロビーではパンフレット等のグッズが販売されていた。
 マスクの着用は推奨、規制退場は継続されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。 

 パルコ劇場の公式Webサイト内、「ラビット・ホール」のページはこちら。

 出演者陣に惹かれて見に行ったので、どんなストーリーなのかは全く知らないまま見始めた。
 舞台セットは、かなり裕福そうなお宅で、室内に大きな階段があり、キッチンにはカウンターがあり、見えないところにパントリーがありそうだ。
 天井は高いけれど壁が降りて来て、上演中のほとんどの時間は2階部分が隠されていた。

 最初のシーンは、宮澤エマ演じるベッカと、土井ケイト演じるイジーの姉妹の会話である。
 どうやらここはベッカの家らしく、少しばかり破天荒なイジーを常識的な姉のベッカがたびたび叱りつけたり呆れたり、そういう関係らしい。
 イジーがバーで女性を殴ったという話から、彼女が妊娠しており、産もうと思っているという話に繋がって行く。
 そうこうするうちに、成河演じるハウイーとベッカの夫婦は、最近、一人息子を事故で亡くしたばかりだと分かってくる。

 最初のうちは、ハウイーは常識的で妻思い家族思いの夫で、かなり回復途上にあり、頑なに回復を拒否しているように見えるベッカを何とかなだめ、気を紛らわさせようとしているように見える。
 見ていると、ベッカの態度にはイライラしてくるけれど、だけど、こういう状態の方が辛いんだよねという気持ちも湧く。
 辛いことがあって、それを何とかやり過ごそうとしたり乗り越えようとしたりしているときに、自分が思う方向とは違う方向でアプローチしろと言って来られるのはまだいい。実際、自分では思いつかないだろう発想が回復に繋がることもあると思う。

 でも、「こういう方向での回復を目指さないおまえは認めない」「自分が提案する(あるいは、自分には覿面に効果のあった)方法を試さないなんて許せない」「回復するつもりがあるとは思えない」という感じになってくると、話は全く違ってくる。
 イジーはその辺り、「自分は向いていない」と思っているらしく、逆に姉を追い詰めることはなさそうである。
 シルビア・グラブ演じる姉妹の母親は、ハウイーに近いけどハウイーとはまた別の「乗り越え方」を提案してくる。
 それがベッカにとっては「押しつけてくる」になっているところに救いがない。

 こうなってくるとベッカにとっては、自分にいらついている家族の方が、自分を追い詰める「原因」になってくる。
 なかなかキツい状況である。
 また、ハウイーが「息子のものはそのまま保存し、まるで息子が今も暮らしているように、彼の痕跡をそのまま残して見えるようにして感じていたい」と思っているのに対し、ベッカが「思い出すのは辛いから、息子のものは目に触れないところにしまい込みたい」と思っているところにも救いがない。
 それぞれが自分を何とか立て直そうとすることが、相手を追い詰めたり苦しめたりしている。処置なしだ。

 結局、妙な折衷案が採用されたようで、息子が気に入っていたペットの犬は取り戻したけれど、息子の思い出が詰まっている家は売ろうということになったようだ。
 そこでOPEN HOUSEをしていたところ、山本光演じる息子を轢いた車を運転していた高校生のジェイソンが「話したい」とやってくる。
 ベッカは比較的冷静だけれど、ハウイーの方は彼のそういう行動が理解できないし許せない。

 どちらが先だったか覚えていない自分がナサケナイけれど、とにかく、ベッカの元にジェイソンから「ラビット・ホール」を扱った小説が送られてくる。ジェイソンは文芸を学んでおり、そこで書いた小説を、亡くなったベッカ夫婦の息子に捧げるという献辞を入れたい、その許可を求めるという内容の手紙つきだ。
 うーん。どうなんだろう。
 この青年の行動も今ひとつ理解できない。

 イジーに「家が売れない原因」と言われてハウイーは何故か息子の部屋を片付けることに同意する。
 サクサクと捨てまくるベッカもやっぱりよく分からない。「しまっておく」のと「捨てる」ことの間には、もの凄い差があるように思うけれど、ベッカは息子のものを捨てることにも躊躇がない。
 それに、イジーの友人が目撃したというハウイーの不倫(かも知れない)レストランでのデートはどうなったのか。

 色々と解決していない問題がある筈なのに、何故かラストシーンでは夫婦二人は穏やかに会話できるようになり、家を売るのは止めようと言い合い、前向きな空気を醸し出していた。
 分からない。
 これが日にち薬ということなら、余計に分からないよと思う。
 最初のうちはもの凄くベッカに共感というか激しく同意していたし、実際に「向き合って」いなかったのはハウイーだよねと溜飲を下げたりもしたけれど、このラストシーンへのつながりがよく分からなかった。
 でも、息詰まる、緊張感溢れる舞台だった。

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