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イキウメ「人魂を届けに」
作・演出 前川知大
出演 浜田信也/安井順平/盛隆二/ 森下創
大窪人衛/藤原季節/篠井英介
観劇日 2023年5月20日(土曜日)午後1時開演
劇場 シアタートラム
上演時間 2時間
料金 6000円
ロビーで物販があったかどうか、チェックしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台の床には、恐らくは照明でぶち模様というのか、模様が描かれていて、やけにその印象が強い。
割と前方の席で床の模様がしっかり見えていたということは、トラムの客席が高い位置にあるか、舞台の床が八百屋になっていたか、どちらだろう。
舞台奥に壁があり、その中央に出入口が切られている。
舞台は屋内らしく、あちこちに毛布が積まれている。
すでに忘れてしまっているところが情けないけれど、オープニングは、その後の本編と直接のつながりがある内容ではなかったと思う。
かなり不確かな記憶によると、客演の藤原季節が登場し、テーブルに座って独白をしていたのではなかったか。
幕が下りたときに「あぁ、オープニングは回収されなかったなぁ」と思った記憶があるので、少なくとも、ものすごく分かりやすい解決は示されていなかったと思う。
その場所は、(どんな場所か全く知らないけれどイメージとして)コミューンのような感じだ。
森なのか山なのかに囲まれ、とにかく人里離れた場所で、電気も水道も来ていない。
自給自足で暮らし、みなに「お母さん」と呼ばれる篠井英介演じる人物が中心となっている。どうやら彼女が森で行き倒れになった人々(3~4人の男性である)を連れ帰って看病し、連れて来られた人々は元気になっても己の意思でそこに留まっているようだ。
そこに、安井順平演じる刑務官が杖をつき、リュックを背負ってやってくる。
彼は、死刑執行された人物の「遺品」を、彼が「お母さん」と慕うあなたに届けにやってきたのだと言う。
彼が持ってきたのは、黒い、両掌を合わせたくらいの大きさの物体で、死刑執行の瞬間、死刑囚の体から飛び出てきた「魂」なのだと刑務官は主張する。
その「魂」がしゃべるのだと言い、その声を聞いた受刑者が不安定となってしまうので刑務所長らに厭われ、届けに来たものらしい。
まぁ、変である。
刑務官がどういう職業なのか全く知らないものの、何というか、オカルトという世界からかなり遠いところの職業ではないかと思う。
その刑務官が「魂を届けに来た」と言う。その場にいる人々は、馬鹿にするでもなく、驚くでもなく、ごく淡々と、というよりは無関心に彼の話を聞いている。
「お母さん」は、刑務官が主張する「魂の声」を聴こうとするけれど、特に聞こえないようである。客席にいる我々にも聞こえない。
一方、刑務官の同僚というか「民間の協力者」と紹介された人物も、実はここにやってきている。彼は刑務官が見込んだとおり公安の刑事である。
これまた「公安警察」についてテレビドラマで描かれるようなことしか知らないけれど、それはともかくとして、彼は最初のうち頑なに「公安」であることを隠そうとする。
ところが、一度うっかりぽろっと「公安だ」と認めて以降は、「お母さん」に向かって、拳銃乱射事件等を起こした何人かの人物がみなここで暮らしたことがあり、「お母さん」を「お母さん」として慕っていたのだと語る。
「お母さん」は、公務員であったパートナーが自殺したという過去を持つ。彼は、文書偽造を命じられ、それを苦に自殺している。
公安の男は「お前は国を恨んでいる筈だ」「だからここでテロリストを養成しているのだろう」と詰め寄る。
もちろん「お母さん」は笑って取り合わない。
笑って取り合わなかったお母さんだったけれど、公安の男に「あなたはそもそも男だ。お母さんではない」と言われたときだけ、貼り付けていたような笑顔が消え、無表情になり、反応しなかった。
むしろ自然に華麗にスルーしていた。
そして、その事実がこの後何かに繋がっていた訳でもなかったところが謎である。
また、刑務官の男の息子が行方不明となっており、「お母さん」の元にいる一人の若者に息子の姿を重ねている。
刑務官は、「お母さん」の元にいた人物が起こした拳銃乱射事件の際に膝を撃ち抜かれたのだと伝える。
ここに集まっている人々が、集まっていた人々も含め、緩く、激しく、繋がっていることが段々と明らかになってくる。
テロリストかどうかはともかく、ここにたどり着いた人が心のどこかを失っていて、その欠けたところに「お母さん」の何かがすっぽり嵌っているのではないかと思わせられる。
どう考えても、そういう風に芝居に誘導されていると思う。
公安の男は、一度は町を目指して失敗して連れ戻されたけれど、再び「町に戻る」とこの場所を出て行く。
ここにいた若者の一人は、「そろそろ出て行こうと思う」と言う。
彼の壮行会(?)として力のつくものを食べようということになり、「お母さん」は、刑務官が持ってきた「魂」を鍋に入れる。
もちろん、「魂」なのだと大事にわざわざ持参した刑務官はもの凄く焦るし止めようとする。
それに対して、一人が「火を通せばたいていのものは食べられる」とあっさり言うのが可笑しい。魂なのに。仮に魂ではなかったとしても、死者の体から出てきたものなのに、それを「食べる」ということに躊躇というものがない。
そうして、「鍋料理」の調理を始めたところで幕である。幕だったと思う。
長めの暗転があり、終演である。
「魂」とか「絶対に出られない森」とか、イキウメの舞台でなかったらすんなりとは受け入れられないような設定が普通に思えてしまうところが、流石の「イキウメ」である。
今回、(恐らくは珍しいことに)男優のみの舞台だったけれど、設定もあって「お母さん」を演じた篠井英介を含め違和感がない。
むしろ、森本学園の事件を彷彿とさせるエピソードが入っていたことが意外だと感じた。
刑務官の彼は、これからしばらくその場所に留まるという。
この芝居の前の時間とこの芝居の後の時間も覗いてみたいと思った。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
そして、オープニングについてお教えいただきありがとうございます。
やっぱり私、ぜんっぜん覚えていませんでしたね・・・。
篠井英介さんは「はまり役」という感じでしたね。
はまり役というよりは当て書き?
藤原季節さんは多分初めて拝見したと思うのですが、おっしゃるとおりの好青年な印象と、でもこの人ちょっと危ういのでは? という印象と、両方を自然に見せてくださっていたと思います。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2023.05.28 15:23
姫林檎さま
私は昨夜観ました。
マスクをつけていない観客も多く見受けられ(私は着用してました)、退場も待たされませんでしたし、通常に戻っていましたね。
オープニングは、浜田さんの独白でした。藤原さんは、お金を受け取った傍観者で、そのお金はずっと壁に貼り付けてありましたね、最後まで。
ただ、確かに本編との繋がりは「?」でしたが……。
私は今回、篠井さんの起用がメインだったのではないかと思うほど、彼の役のハマり具合が見事だったと感じました。
女優がいないんだなと思いながら観に行って、ああ、篠井さんが女性役を演るのかと思っていたら、まさかの「実は男」発言!
ああ、だから自殺した人は「パートナー」で、夫ではないんだ、入籍できないからか、と気が付きました。
そしてその、女だと思わせて実は男という設定含め、篠井さんは素晴らしかったと思います。
もちろん、いつものイキウメ団の安定感は言うまでもなく、藤原さんも、どこにでもいる青年といった印象を生かして、前川ワールドに溶け込んでいましたね。
次回作も楽しみです。
投稿: みずえ | 2023.05.26 09:14