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「新ハムレット」
作 太宰治
上演台本・演出:五戸真理枝
出演 木村達成/島崎遥香/加藤諒/駒井健介
池田成志/松下由樹/平田満
観劇日 2023年6月17日(土曜日)午後2時開演
劇場 パルコ劇場
上演時間 2時間40分(15分の休憩あり)
料金 11000円
ロビーではパンフレットや原作本、ブックカバーなどが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台に幕はない。
そもそも、幕をきちんと下ろしている舞台の方が珍しいような気がする。私が劇場で見る場合、確実に幕が下りている舞台は歌舞伎くらいなのではなかろうか。
舞台上、左手前から右奥に向かって上り坂になった坂道が設置され、左手前は何段か太めの階段になっている。
八百屋の舞台をちょっと回転させた感じだろうか。舞台奥に向かってはけていくのは地味に大変そうである。
ハムレットを演じる木村達成だけはずっとピンクのジャージっぽい、パーカとスエットっぽい格好をしている。
他の出演者たちはグレーを基調にした衣装を身につけていて、ハムレット側の人物は緑がアクセントカラーになり、クローディアス側の人物は赤がアクセントカラーになっている。
そこに何故ハムレットが全身ピンク色なのか。意図が掴めなかった。
太宰治は「家族の普遍的な物語として」シェイクスピアの「ハムレット」を戯曲形式に近い形で小説に仕立て直したという趣旨の前書きを「新ハムレット」に残しているそうだ。
その前書きの部分を役者が代わる代わる読み上げることで舞台は始まる。
そういえば、パロディは「原作」を知っていなくては楽しめないのだった。
「ハムレット」の芝居は恐らく複数回見たことがある筈だけれど、「分かっているか」と問われれば分かっていない。そしてあらすじすら記憶が曖昧である。
この「新ハムレット」が「ハムレット」とどこが違うのか、どの辺りが「翻案」なのか、最後まで確信が持てなかった。
とりあえず「ここは”ハムレット”とは違う」と上演中に思えたのは、ポローニアスを殺したのがハムレットではなくクローディアスになっていたこと、川に身を投げたのがオフィーリアではなくガートルートになっていたこと、オフィーリアが妊娠しているという設定が加わったこと、ハムレットが父王の幽霊を見ていないことになっていたこと、くらいである。
しかも、これらも私の原作の記憶が合っているかどうか、全く自信がない。意味がない。
また、「クローディアス」がもう少し分かりやすく悪役っぽかったと思うけれど、平田満演じるクローディアスは、少なくとも登場からしばらくの間は結構いい人そうに見えた。そこも翻案か? と思ったくらいだけれど、ここはクローディアスを演じる役者さんによって、「ハムレット」が上演される場合でも変化があり得るように思う。
だめだ。よく分からない。
そういう違いを見せつつ、基本的にはハムレットの設定と進行を守って舞台は進んでいたと思う。
ストーリーというところとは違うのかなと思ったのは、「新ハムレット」では、舞台上に役者が1対1で対しているシーンが多いように感じた。
二人芝居を組み合わせて舞台を進めている感じと言えばいいのだろうか。
舞台をかなり大きく使っていて、舞台上に二人しかいないと少し淋しく感じたくらいだった。もっとギュッとしていてもいいかなと思う。
逆に、二人芝居が連続していると、登場人物たちの思惑の違いだったり、勘違いだったり、嘘のつきようだったりが際立つように感じた。
やはり、パロディは元の物語が知れ渡っていてなんぼである。
自分の無知を棚に上げて言うと、「ハムレット」は有名なんだろうか。もちろん有名なのだけれど、意外と細かいところは覚えていないものではなかろうか。
そうすると、太宰治は何故「ロミオとジュリエット」ではなく「ハムレット」を選んだのだろうという気もする。「家族の物語」を書きたいのなら「リア王」という選択もあった筈だ。
歴史もの(「ヘンリー5世」とか)は有名さで落選するだろうし、普遍的かというところで「夏の夜の夢」は選ばれないだろうとは思う。
対象を四大悲劇に絞ったとして、主な登場人物が「家族」で、場所があまり動かないから「ハムレット」だったのか。
最初の頃の「語り」によると、「ハムレット」を3日間の物語に作り直しているらしい。その短くて連続した日々を舞台にしたのは「ロミオとジュリエット」を意識したのか? 考え始めると面白い、ような気がする。
まずは太宰治の「新ハムレット」を読むべきだろうか。読める自信があまりないけれども、凄くがんばれば読めて、色々と考えることが増えるのではないだろうか。
小説から、この戯曲はさらにシーンや台詞を絞っている筈だ。どういう風に切り取っているのだろう。
そういうことをつらつらと想像するきっかけをくれた舞台だった。
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