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2023.06.11

「楽園 The Blissful Land」を見る

新国立劇場【未来につなぐもの】Ⅲ「楽園 The Blissful Land」
作 山田佳奈
演出 眞鍋卓嗣
出演 豊原江理佳/土居志央梨/西尾まり/清水直子
    深谷美歩/中原三千代/増子倭文江
観劇日 2023年6月10日(土曜日)午後1時開演
劇場 新国立劇場小劇場
上演時間 1時間50分
料金 7700円

 ロビーでパンフレット等ではなさそうな物販が行われていたけれど、チェックしそびれてしまった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 新国立劇場の公式Webサイト内、「楽園 The Blissful Land」のページはこちら。

 神社といえばいいのか、祭祀の場といえばいいのか、そういった場所が舞台上に設えられている。
 その建物の奥には、ブーゲンビリアっぽいお花が咲き誇り、今日は村の神事が行われる日のようだ。
 その一方で、村長選挙のまっただ中(確か、翌日が投票日)のようで、その選挙演説の声が時々響き渡っている。
 荘厳なのか俗なのか、その両方が混在している感じだ。

 この祭祀は村の女性達だけで執り行われているようで、世話役のような女性がまず現れ、そこに彼女の娘で離婚して戻ってきたらしい女性が加わる。
 村長の娘が「選挙運動中です」という感じの派手は色のシャツを着て登場し、一緒に準備を進める。村の民宿に嫁いできた若い女性が手伝いに加わる。
 そこに、村長選挙の対立候補になっている「区長」の妻がテレビ番組製作会社のクルーの女性を一人連れてやってくる。今日の神事の取材を受けたという彼女に、村長の娘が真っ向から反対する。
 区長の妻はどうにも弱気で頼りなく、取材に来た女性は完全に宙に浮いてしまう。
 神事を司る「司様」と呼ばれる女性が現れ、さらに神事の準備が進めば、取材に来た女性なんてもうかなり高い位置で宙に浮くしかない。

 神事では村に散在している「うがみ所」を回ってお祀りするようで、その本拠地となっているこの場所は、とりあえず誰かが留守番することになっているようだ。
 取材に来た女性は他に行くところも行けるところもなく留まっている。
 これだけモメている中で誰かと誰かが残れば、それは「ここだけの話」が展開されるに決まっている。
 そして「テレビの人」がいるもので、そのここだけの話は、よりエグい方に転んだようだ。なかなかに怖い。怖いけれど、「よくある話」でもある

 村外から嫁いできた区長の妻、同じく村外から嫁いできた民宿の嫁、取材に来た女性は同年代で、かつ、「外からの視点」を持つという立ち位置だ。
 出戻ってきた女性は、村内で育った視点と結婚して村外に出ていた視点と両方を持つというよりは、村の神事を一番信じていないかつ下手をすると莫迦にする勢いだ。
 村長の娘と、出戻ってきた女性の母親は、村で生まれて村で育って村で結婚していて、「伝統」というものへの向き合い方がどちらもかなりゆがんでいるようにも見える。
 一番ブレていないのが、「司様」なのかもしれない。

 この「司様」が格好良くて、取材に来た女性に、神事が始まる直前に「そこにカメラを仕込んだんだろう」と言う。言いつつ、気にしている様子はなく、サクサクと神事を進めるべく準備を同時進行している。
 彼女が隠しカメラを仕込んだことを知って「取引」を申し出た村長の娘とは偉い違いである。
 これが、神と俗の違いなのか。多分、そうではない。

 「司様」が格好よくて、隠しカメラを見破っておいて、「その映像をどう扱うかはあんたの問題だ」と言い捨てる。
 なかなかそう言い切れる人はいないだろう。
 ただ、パワハラや結婚やらで悩む彼女に対し、きちんとブレずに物を申せた人が司様しかいないというのはどうなのかとも思う。民宿の嫁も「正義感」が強いなかなか格好よい女性ではあるけれど、どうにも説得力が違う。

 色々な隠し事がありつつ、その「隠し事」を知っているということを隠したり見せたりしつつ、世話役の女性が倒れるという大きなアクシデントがありつつも命に別状はなく、今年も無事に神事が終わる。
 神事は終わったけれど、村での暮らしはみなずっとこの先も続いて行く。
 今日一日でばれたこととばれなかったことのバランスをまた明日密やかに素早く調整し、何事もなかったかのように多分日々は続いていくのだろう。

 選挙結果がどうなるのか、素振りすら見せてくれない。
 今日、神事に参加していた女性達は、「選挙結果」など実はどうでもいいのかも知れない。
 実は「選挙なんてどうでもいい」というのは大問題だけれども、それはそれとして、派閥などというものも選挙翌日にはもうどうでもよくなっているのではなかろうか。
 どうでもよくすることが暮らしの秘訣、という感じがした。

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