「ウェルカム・トゥ・ホープ」を見る
ラッパ屋第48回公演「ウェルカム・トゥ・ホープ」
作・演出 鈴木聡
出演 岩橋道子/中野順一朗/谷川清美(演劇集団円)/弘中麻紀
上大迫祐希/浦川拓海/ともさと衣/宇納佑
大草理乙子/熊川隆一/武藤直樹/ 岩本淳
林大樹/松村武(カムカムミニキーナ)/俵木藤汰
観劇日 2023年6月24日(土曜日)午後6時30分開演(初日)
劇場 紀伊國屋ホール
上演時間 1時間30分
料金 6000円
ロビーではTシャツや、過去公演のDVD、上演台本等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
「ウェルカム・トゥ・ホープ」とどこに招かれているのかといえば、「ホープ荘」という名の昭和な感じの3階建てのアパートである。
多分、イメージは同潤会アパートだと思う。
「希望荘」ではなく「ホープ荘」であるところに、むしろ昭和を感じる。
そこに、どう見ても「そぐわない」男女の二人連れがやってくる。
どうやらここに引っ越して来た友人の様子を見に来たらしい。
その「様子を見に来られた」のが岩橋道子演じる小林希で、彼女は起業してネイルサロンやマッサージサロン等々を経営していたところ、コロナ禍で全てを失い、家賃の安さに惹かれてホープ荘に引っ越して来たそうだ。
荷物は(多分)リモアのトランク一つである。
そして、ご近所のみなさんにコンビニで使える商品券(3000円分)を配って、あっという間に人心掌握し、友人二人からも自分でも「できる子!」「どこでも上手くやる子!」と評価している。
50歳は「子」じゃないと思いつつ、こういうキャラは岩橋道子の真骨頂だよなと思う。似合ってるし上手い。
「すべてを失った」女性が、何軒分か知らないけど一軒当たり3000円ずつも配る余裕があるのか? とか、そんないかにもバブルな洋服を何故選んで持ってきて来ている! とか、色々言いたいことはあったけど、とりあえずいいことにする。
希と友人二人は、ホープ荘の中庭で「希望じゃなくて絶望荘だ」等々と大声でしゃべりまくる。
いや、そこでそんなに大声でしゃべってたら、部屋にいる人全員に聞こえますって! とやっぱりツッコみたい。
でも、彼女らのおしゃべりに不快感を示す人はおらず、通りかかるとおしゃべりに入ったりするみたいだから、それはそれでいいのだろうと思うことにする。
いずれにしても、派手派手なお洋服の割りに、希の人心掌握作戦は大成功である。
ホープ荘の住人はバラエティに富んでいて、不倫して会社も揃って辞めたけど入籍はしていないカップルとか、健康不安を抱えて生活保護申請も考えている70代女性と彼女に求婚している4歳年下の男性、ジャズピアニスト、昭和の漫才コンビの片割れ、そして実は希の高校時代の同級生だった斎藤望もここの住人である。
ラッパ屋のみなさんの年齢も上がってきていて、その中で群像劇、舞台をどこにすれば不自然ではないのか、色々考えると、この「ホープ荘」という舞台はもの凄くよく考えられているのだなと思い至った。
バブリーなタワマンから引っ越して来て、その原因の一つがコロナ禍で、そして不動産屋がこのホープ荘の取り壊しの話を持ってくる。
立地が結構いいようで、大家さんはホープ荘を取り壊してマンションに建て替えたいらしい。
その不動産屋の若手社員と、望の娘に客演を迎えて、上手くバランスを取ってリアリティを確保している。
とはいえ、自分の職場を考えてみると、一番若くて30代前半である。実際にも、10代や20代の若者は私の目の届かないところにしかいないのだった。リアリティとか言っている場合ではない。
不動産屋の話を聞く内に俄然やる気になってきた希は、「ホープ荘存続プロジェクト」に突然熱意を持ち出し、昭和なB級グルメを売るとか、ピアノバーを作るとか、中庭で昭和の漫才ステージをやるとか、そうしてホープ荘を観光名所にしようと言い出す。
うーん、インバウンド需要をこれで取り込めるのかちょっと謎だったけど、住人達の賛同が得られ、不動産屋の若者や起業セミナーで知り合った友人達を巻き込んで不動産屋経由で「大家さん向けのプレゼン」を実施することになる。
明日はプレゼンという日、漫才コンビ復活のステージを目にし、そのまま住人たちは飲み会になだれ込み、希は「希望」を見るかのように舞台の中央で客席に背中を向けホープ荘を見上げる。
そこで幕である。
そのプレゼンを準備している経過が「夢中になって」「濃密」な時間であって、結果は問題ではないのだ、そういう感じである。
いや、色々と問題だよと言いたい。
現代のコロナ禍のオンラインだのAIだのが幅をきかせている現代の、今だからこそのおとぎ話だったかのかなと思う。
まだまだ、おとぎ話は健在である。良かった。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
客演のみなさま、すっかり馴染んでいらっしゃいますよね。
初日のカーテンコールで、挨拶の口火を切ったのは岩橋さんでしたが、最後に締めたのは松村さんでしたもん(笑)。
おっしゃるとおり、おかやまさんや福本さん、木村さん、久しく拝見していない三鴨さんにもお目にかかりたかったです!
次の公演に期待します。
今回、プラス30分あったら、プレゼンの結果が出ましたよね。
そこはオープンエンドにしたかった故の上演時間90分だったのかな、プレゼンの準備完了までというエンディングを動かさないとしてプレゼンに至るまでの主人公の苦労をあまり見せたくなかったのかしら、と思いました。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2023.07.02 09:26
姫林檎様
私も観ました!
ラッパ屋は、客演の方たちも最早お馴染みですよね……谷川さんとか松村さんとか。
抜群のチームワークと安定感。
これぞラッパ屋。
個人的には、アナウンスをしていたおかやまさんや福本さんなども拝見したかったところですが。
内容もラッパ屋らしかったですね。
ただ、前回もでしたが、90分と短かったのがちょっと物足りませんでした。
二時間は欲しいところです。
そのくらいあるともう一山来るか、山が大きくなるんじゃないかと思うんですが……。
投稿: みずえ | 2023.06.29 08:59