「ジン・ゲーム」を見る
加藤健一事務所「ジン・ゲーム」
作 D.L.コバーン
訳 吉原豊司
演出 小笠原響
出演 加藤健一/竹下景子
観劇日 2023年7月8日(土曜日)午後2時開演
劇場 本多劇場
上演時間 2時間(15分の休憩あり)
料金 5500円
ロビーではパンフレットが販売されていた。
カーテンコールの挨拶で知ったところ、この公演では、久々に最前列に客を入れ、かつ、客席を使った演出も再開できたという。
良かった。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台は米国の老人ホームのテラスというかサンルームっぽいところだ。
舞台の奥が老人ホームの建物になっていて、中からは歓談の声や慰問のコーラスの歌声などが聞こえてくる。夜になれば明かりが点り、そこに人がいることを感じられる。
二人芝居だからこそ、二人以外の人の気配をさせたかったのだろうと思う。
サンルームにいる、加藤健一演じるウェラーは杖を突いている。
そこに、竹下景子演じるフォンシアがやってきて、ウェラーが話し始めるけれど、どうにも会話が弾まない。そこで、ウェラーが声をかけ「ジン・ゲーム」というトランプゲームを始める。
似たようなゲームで遊んだことはあってもジン・ゲームは初めてというフォンシアにウェナーガ簡単にルールを教えて、いざ開戦だ。
フォンシアの方はトランプを楽しみつつ、3週間前に入所したばかりということもあって、何とかウェラーと会話をしようとする。
最初のうちは、「ここではない施設に入りたかった」とフォンシアが愚痴り、二人で「毎日どうして誰も好きではないトマトシチューが出てくるのか」と食事への不満で一致する。
何故だかフォンシアが勝ち続けてしまい、彼女が勝つごとにウェラーがいらだち、彼女の話を遮ってトランプを配り、「早くやれ!」と怒鳴ったり、フォンシアが勝ち続けた最後には大きな声を出し、杖を床に叩きつけ、テーブルをひっくり返してしまう。
米国版のちゃぶ台返しだ。
老人ホームに入所し、髪が真っ白な年齢の男女二人の芝居で、客席をほぼ満席にするって凄い力だと思う。
客席の後方から「客席の年齢層が高いね」と語る声が聞こえてきて、思わず振り返って見回してしまい「確かに」と思った。
今回の客席で意外だったのは、男性の観客が多めだったことだ。それでも半分はいなかったと思うけれども、男女半々に近い客席は珍しいと思う。
ウェラーの方はベージュ系と白の衣装で、服飾に疎い私にはよく分からなかったけれど、あまり衣装の変化はなかったと思う。
逆にフォンシアは、ブルー系の小花模様のワンピースに青いカーデガンだったり、赤系の花模様のワンピースに薄いピンクのカーディガンとショールを重ねたりと、衣装替えを結構していたと思う。
彼女の服装の変化で、日数が経ったことを知る感じだ。
サンダルと靴はずっと同じで、そのサンダルが黒だったのがずっと気になってしまった。茶系の色のサンダルにした方がしっくりしたと思うのだけれど、どうだろう。
勝ち続けるフォンシアにかんしゃくを起こしたウェナー、そのウェナーにフォンシアは怒って「スタッフを呼ぶ、あなたはおかしい」と指摘し、ウェナーは「勝ち逃げは許さない」としつこくトランプに誘う。
お互い、相手が思うようにならず、売り言葉に買い言葉で意図せず相手の「痛いところ」をつつきあってしまう。
トランプで遊んでいただけの筈が、負けず嫌いとは破壊力が強いものだと思う。
確かにウェナーを演じる加藤健一はずっと「怒る」とか「怒鳴る」演技を続けていて、カーテンコールのときにはご本人が「それで息が上がる」とおっしゃっていたくらいだ。
もちろん相手が勝手に怒っていれば、フォンシアだってずっと穏やかではいられない。
だからこそ、弱みをつつきあって、お互いが生活保護を受けていることや、「お金を失った」過去を語り合うことになるのだ。
それでも、全体に軽やかな雰囲気なのは、ところどころに差し込まれる笑いのお陰だと思う。
ウェナーは、ずっと「あと1勝負」と言い続け、フォンシアは「もうあなたとはトランプはしません」「ゲームで勝って怒鳴られるなんて」「あなたは医師の診察を受けるべき。おかしい。」等々と返し続けましたが、お互いの「現状」を語らざるを得なくなり、語った結果、何だか二人は憑き物が落ちたようになります。
そして、「最後の一勝負!」を始めようとしたところで幕です。
身につまされる、でも軽やかなお芝居でした。
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