「ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-」を見る
劇団チョコレートケーキ「ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-」
脚本 古川健
演出 日澤雄介
出演 浅井伸治/岡本篤/足立 英
伊藤白馬/清水緑/青木柳葉魚
林竜三/緒方晋/橋本マナミ
観劇日 2023年7月16日(日曜日)午後2時開演(千秋楽)
劇場 シアタートラム
上演時間 2時間5分(約20分のアフターアクトあり)
料金 5000円
見終わってから気がついたら、千秋楽だった。
千秋楽公演を見たのはもの凄く久しぶりな気がする。アフターアクトが2本だったことも納得だ。
ネタバレありの感想は以下に。
ウルトラマンシリーズが爆発的に流行り、シリーズが何作かテレビ放映された後、ウルトラマン80が放映されるまでの端境期を思わせる架空の日本で、ウルトラマンをパクったような特撮ものの子供向け番組を製作している会社が舞台である。
とにかく予算が足りなくて、会社からは「怪獣に変身しない低予算回を作れ」と言われ、岡本篤演じる本編監督の松村は、大学時代の映画サークルの後輩でシナリオ作家になった、伊藤白馬演じる井川を呼び出す。
というところから始まったと思うのだけれど、その前に、真っ暗な舞台にひそひそ声の台詞が入っていたように思う。最後の最後で「だからあの会話が!」と思ったけれど、始まったときは特に気にも留めていなかった。だめである。
それまで子供向け番組も特撮番組も書いたことのなかった井川は、「特撮」を愛するオタクかつ社員たちの協力を得て、ウルトラマンではないユーバーマンで「怪獣が出なかった」回をオマージュする方向で書き始める。
それは、ユーバーマンのときにも意識されていただろう「差別」の問題をさらに鮮明にかつ意識的に取り上げた台本である。
「テレビ局には好まれない」と予め局の担当者に確認を取り、また、「大物ゲスト」である橋本マナミ演じる女優・森田杏奈の提案もあって(どうやら普段はやっていないらしい本読みを行い、足立英演じる新人俳優の下野に色々と教える形を取りつつ、彼らの意図や問題意識が説明される。
上手い。
監督自身は「差別があるとただ語るだけで問題は解決しない」と考えているようで、ことあるごとに大学時代の後輩でもある井川に「意味はない」と繰り返す。
一方、森田は「差別」というものに意識的で、台本の意図や監督のスタンスを真っ正面から確認して行く。
演じる橋本マナミがことさらに「きちんと」「堅い」感じをオーバーアクトしているのが似合っている。
下野も「何も分かっていない若者」でありつつ、素直に知ろうとする姿勢がスタッフや共演者陣の共感を得ているようだ。
浅井伸治演じる、ワンダーマンの主演俳優の佐藤も、ベテランらしく、下野を育てようとしているようだ。
こちらも、ことさらに姿勢良く勢いよく「正義の味方を演じる品行方正すぎる役者」をオーバーアクトしていて、それがハマっている。
そうすることで、目線が彼なのでこの舞台の主役と言えるだろう脚本家の井川信平の普通っぽさを際立たせているように見える。
彼の「当事者ではないけど、寄り添って考えたい」という姿勢の大切さだったり、それが普遍的となることの「素晴らしさ」が、一つの到達地点として考えられているのだなと思う。
そうして「ワンダーマン」15話を作る過程と、「ワンダーマン」15話自体の物語が交錯していく。
「ワンダーマン」15話で描かれるのは、正義の味方ワンダーマンの活躍ではなく、ワンダーマンではない宇宙人の登場人物が日本の排煙がもくもくと上がる工場を抱えている都市で、一方的に「地球人」に排除され、彼を「金本さん」として見ていた地球人がそれ故に周りの地球人に排除される姿である。
そのストーリーと、そのストーリーを放映させまいとするテレビ局と、自分が責任を取って退職することでそのまま放映させることに決めた監督と、この業界から干されるぞを脅される脚本家と、でも「このまま放映して欲しい」と望む役者と、同じように望みつつ「大人の対応が必要だ」と主張する役者の思いや考えが交錯して行く。
何というか、あざといくらいの鮮やかさだ。
そして、そういうあざとさにこちらは弱いのである。狙われているところが分かるように思うのに、それと涙腺とは別の話なのだ。
結局、本編監督がワンダーマンシリーズの監督を降り、会社を辞めることと引き換えに、井川が書いた脚本がそのまま放映されるという「落としどころ」に釈然としないものが残る。
でも、多分、そういう「釈然としなさ」もよくあることで、しかしよくあってはいけないことなのだと思う。
しかし、モヤモヤする。うー、モヤモヤしすぎる。
最後の、監督と脚本家との電話の会話が、説明しすぎのような気がしつつ、説明されなかったら分からなかった私なので文句も言えない。
井川の語る、「ワンダーマン15話のラストシーン」は確かにロマンティック過ぎるのかもしれないと思う。
シリーズものとしては、ワンダーマンがまた流浪の旅に出るところで次回に続くのがお約束というものである。ロマンティック過ぎるラストシーンは、使われなかったのかもしれないし、没になったシーンなのかもしれないと思う。
泣きすぎると頭が痛くなるんだよなぁ、でもスッキリしたなぁ、それなのにモヤモヤは残っているんだよなぁと思いながら劇場を後にした。
見て良かった。
千秋楽だからだったのか、本編監督とワンダーマン役の俳優を演じた役者さんたちが、自分の演じた役の「ある日のワンシーン」を演じる「アフターアクト」があった。
それぞれ10分ずつくらい。「アフターアクト」というのは初めて見た。
どの役にも背景があり性格を持ち物語がある。面白かったし、「ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-」という芝居を見る助けにもなってくれたと思う。
こちらも、見られて良かったと思った。
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