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2023.07.02

「パラサイト」を見る

THEATER MILANO-Zaオープニングシリーズ COCOON PRODUCTION 2023「パラサイト」
原作 映画『パラサイト 半地下の家族』
台本・演出 鄭義信
出演 古田新太/宮沢氷魚/伊藤沙莉
    江口のりこ/キムラ緑子/みのすけ
    山内圭哉/恒松祐里/真木よう子
    青山達三/山口森広/田鍋謙一郎
    五味良介/丸山英彦/山村涼子
    長南洸生/仲城綾/金井美樹
観劇日 2023年7月1日(土曜日)午後1時開演
劇場 THEATER MILANO-Za
上演時間 3時間(20分の休憩あり)
料金 12000円

 初めて、THEATER MILANO-Zaに行った。
 ビルの6階に入口があり、客席数900、3階席まである劇場である。
 最前列で観劇していて、舞台がもの凄く近くて驚いた。振り返るとかなりこじんまりして見えるのも意外だ。
 声の通りのいい、いい劇場だと思う。

 ネタバレありの感想は以下に。

 bunkamuraの公式Webサイト内、「パラサイト」のページはこちら。

 「パラサイト」という映画のタイトルは知っていて、韓国映画、アジア映画で初となるアカデミー賞(の何の賞なのかは知らない)を受賞した、というくらいの予備知識はあった。
 それ以外は、ストーリーなども全く知らないまま見に行った。以前、インタビューで金田文平を演じる古田新太が「俺と(妻の福子を演じる)江口のりこからは、絶対に(息子の純平を演じる)宮沢氷魚は生まれない」的なことを言っているのを目にしたくらいである。

 その宮沢氷魚演じる純平が、舞台の狂言回しを務めていた。
 つまりは、狂言回しが必要なくらい、設定や背景の理解が必要な舞台だということだと思う。
 昭和の日本に舞台が置き換えられ、開演前から昭和のヒット曲が流れていた。・・・と思っていたけど、正確には舞台は平成6年、阪神大震災の前年の大阪に置き換えられている。

 川岸の堤防の下、堤防のために日光が届かないトタンの家に、伊藤沙莉演じる妹美姫を含め4人家族が暮らしている。
 生業は靴の製造だ。
 美姫が京都大学卒業の証明書を偽造し、それを持った純平が山手にある永井家に家庭教師として入り込むところから物語が始まる。
 家族4人の目標は「貧乏脱出」である。

 純平は、真木よう子演じる永井家の夫人に気に入られ、恒松祐里演じる娘の家庭教師を務め、引きこもりになっている夫人の連れ子の賢太郎のためだと夫人をだまくらかし、妹の美姫を「アートセラピー」の先生ジェシカとして永井家に引き入れる。
 いや、ジェシカは変だろう。
 心の中で突っ込みを入れたけれど、永井家の誰も疑問に思っていないらしい。というか、美姫も「自分の設定に無理がある」とは思っていないところが謎である。

 その美姫の(良く言えば)機転で永井家の運転手を追い出して父親の文平を後釜に据え、キムラ緑子演じる万能家政婦の玉子を追い出して母親の福子をその後釜に送り込む。
 これで、一家4人は全員、永井家に入り込むことに成功する。
 山内圭哉演じる永井慎太郎だけは、「福子が一流の家政婦」であることに疑問を持ったみたいだけれど、不倫で忙しいようで家の中のことにはほとんど関心を持っていないらしい。

 金田一家がまんまと永井家に入り込み、一家がキャンプに出かけた隙にお寿司を注文し、秘蔵されていたっぽい高そうなお酒を次々に開け、パーティに興じるところまでで一幕が終わる。
 「ここから転落が始まる」と純平が語りかける不穏な終わり方である。ぞわっとした。

 それにしても、本当にこの劇場は声の通りがいいのだと思う。
 この公演では、役者さんたちは多分、マイクを使っていなかったと思う。少なくとも、耳の際というのか、ミュージカルなどでよく見るマイクを役者さんたちの顔に発見することはできなかった。
 割と最近、マイクを使うストレートプレイも多い気がしていて、900人が入る劇場でマイクなしに逆に新鮮な気持ちになった。
 凄い。そして、気持ちいい。

 一幕が終わったところで、何というか見ているこちらの注目を全く逸らせない物語も戯曲も役者さんたちも凄いと思った。
 あらゆる意味でクオリティが高いってこういうことか! と思う。
 何かもう、休憩時間の段階で「見て良かった」感が凄かった。

 そして二幕が始まり、金田一家が永井邸を貸し切ってパーティをしているところ、クビになった筈の玉子が雨の中をやって来る。
 必死の様子の玉子を招き入れると、彼女は台所に突進し、そこには地下室があり、彼女の息子と父親が暮らしていたことが分かる。彼女が必死だったのは、この二人に食べ物を届けるためだった。
 息子が多額の借金を負い(そういえば、借金の理由は最後まで明かされなかったと思う)、借金取りから逃れるために、この家に一番詳しかった玉子が地下に匿ったようだ。

 最初は「警察に通報する」と強気だった福子だけれど、美姫が口を滑らせて「家政婦と運転手と家庭教師とアートセラピスト」が家族であることがバレ、彼らが策を巡らして永井家に入り込んだのだと察した玉子の反撃が始まる。
 みのすけ演じる玉子の息子とも争いになり、玉子に縋られた福子が玉子を振りほどき、玉子は壁に頭を強打して出血してしまう。
 「助けてくれ」と言う息子に、文平が「それはできない」と返し、キャンプに行った筈の永井一家も帰宅し、金田一家は玉子を見殺しにしてしまう。

 何かもう、色々とツッコみたい。
 直接に暴力を振るった福子が全く戦きもしていないのは何故なのか、どうして文平が落ち着き払っているのかとか、言いたい。
 自分の立てた「計画」の計画外の成りゆきに動揺する純平や、玉子の命がどうなるかを察して動揺しているのに正面から向き合おうとしない美姫の方が、見ているときは違和感があったけど、今となっては自然にも思えてくる。
 要するに、急展開過ぎる。

 そして、阪神大震災である。
 金田一家の家は火事で燃えてしまい、しかし、山手にある永井家には大震災の影響は全く見られない。建物にも影響はないし、家族の心情としても「大震災は他人事」と捉えているようで、何の影も落としていない。
 美姫はそのことへの怒りで一杯のようで、もう玉子のことなど忘れ去っているようにも見える。それはどうなのか。

 永井家では、夫人の連れ子である賢太郎の誕生日パーティが開催され、家政婦と運転手として金田夫婦は相変わらず永井家におり、家庭教師とアートセラピストとして兄妹は招待されている。
 永井家に入った純平は一番に玉子たちがいる筈の地下室に食べ物を持って行き、ベッドに寝かされている玉子とその父親を見つけたところで、息子の反撃に遭う。
 そのまま息子はパーティ会場に乱入し、福子と美姫を刺し、混乱した文平は慎太郎を刺して殺してしまう。
 阿鼻叫喚そのものだ。

 ここで幕かと思ったら違った。
 地下室でバットで殴られて倒れた純平が回復し、行方不明の父親を心配し、永井家を見張っているときに、時々壊れていた玄関の照明が実はモールス信号を送っているのだと気づく。
 文平が地下室に潜み、玉子の息子が使っていた無線機を使ってモールス信号で家族に手紙を送り続けているのだ。
 「何も知らないドイツ人がこの家を買った。冷蔵庫にキムチが入っているのが有り難い」という渾身の台詞が凄いと思う。この一言で語られたことの何と多いことか。

 そして、父からの手紙を読み取った純平が、再びの家族団欒を夢見たところで幕である。
 場所は永井家のリビングである。
 家族ゲームのように横一列に家族がダイニングテーブルに並んでいる。
 楽しげにしているけれど、そこで何が話されているかは分からない。

 二幕が特に、読み解こうとすると滅茶滅茶に難解だと思う。
 読み解けていない自信がある。
 しかし、何というか、「力」に溢れる芝居を見たという確信が間違いなくある。そういう舞台だった。

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