「いつぞやは」を見る
シス・カンパニー公演「いつぞやは」
作・演出 加藤拓也
出演 平原テツ/橋本淳/鈴木杏
夏帆/今井隆文/豊田エリー
観劇日 2023年9月16日(土曜日)午後2時30分開演
劇場 シアタートラム
上演時間 1時間45分
料金 9000円
ロビーでの物販などチェックしそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
最初に客席から橋本淳が飴を配りながら登場し、それが「(多分)劇団主宰が自分の劇団の公演のときにいつもやっていること」というシーンだったものだから、そして、私がこの作品の作・演出の加藤拓也を知らなかったものだから、最初に登場したこの人が加藤氏で、本当に客席に語りかけているのだと勘違いした。
何というか、間抜けである。
しかし、何となくそう思ったのは、怪我で降板した窪田正孝に代わり劇団ハイバイの平原テツが出演していたからということもあると思う。
ハイバイの岩井秀人が割とやりそうな感じだったのだ。
それはともかくとして、初手から完全にやられていたということだと思う。
始まりがそういう感じだったから、平原テツ演じる「いっちん」が、最初に登場した橋本淳演じる「まっつん」のところにふらっと現れて、自分が大腸がんであると告げ、自分の人生を脚本にして欲しいと頼み・・・、という展開に、眩暈を感じるというか、ぐるっとする感じが漲る舞台だったように思う。
今井隆文演じる「さかもと」が劇団をやっていた頃の仲間を集め、何故か確信ありげにいっちんに「舞台をやりたいんだろう」と突きつけ、そして本当にこの場面を居酒屋を会場として上演する、という入れ子構造というか、箱庭的な造りになっている。
入れ子構造の舞台というのは実はオーソドックスな手法のような気もしていて、むしろ、ストレートに時間軸に沿って時間が戻ったりメタだったりしない脚本の方が最近は少ないのかもしれないとも思う。
この舞台は、逆にそういう手の込んだ眩暈感を前面に押し出して、よくある手法の裏側を突こうとしているようにも感じた。
舞台セットが白一色で、壁に沿って箱ベンチのような段差があり、テーブルと椅子を出演者が出したり片付けたりして場面転換していることも、そういう作戦の一環という雰囲気が濃い。
つまるところ、見ているときはずっと「この舞台の作り手は若い人なんだろうな」と思っていた。
あと、窪田正孝と平原テツとは、体格からして全然違う。多分、年齢も結構違うのではないかと思う。この配役変更で、この舞台を見て受ける印象はかなり違ったものになっているんじゃないかなということもずっと思っていた。イメージできる訳ではないけれど、平原テツのイメージと存在感と「象徴しているもの」は強烈で、舞台の雰囲気を一変させるパワーがあったのではなかろうか。
物語の舞台は、前半は東京、いっちんが郷里である青森に帰ってからは主に青森でお話が展開する。
青森に戻ってから鈴木杏演じるえりな(という名前だった気がするけど違っているかも)が登場し、東京での劇団仲間を演じていた夏帆と豊田エリーが登場しなくなる。まっつんとさかもとがそこそこ登場しているから、物語的に舞台的にも、そこに意味があるという感じが漂う。
ただ、青森編になってから私がずっと気になっていたのは「いっちんが大麻を栽培している」ということで、壁に隠すように栽培スペースが用意されているのだけれど、あるときからずっとその栽培スペースが開けっぱなしになっていて、経験と耐性があるっぽいえりなはともかくとして、例えば彼女の母親とかにバレたらどうするんだろうと、そっちでドキドキしてしまった。
最終的にはそんなことはなくて、その大麻の栽培スペースは何というか「象徴」としてずっとそこにあったらしい。
「やりたいことは思いつかない」と言っていたいっちんが、青森に帰り、彼女と半ば一緒に暮らすことで「猫が飼いたい」とかやり残したことを思い出し、さかもとがまっつんに話すという形で、えりなと結婚したことが語られる。
それは、いっちんが「お金がかからないことでやりたかったこと」の最大のものだったのだと思う。
まっつんが「舞台をやるためにいっちんは抗がん剤治療を止めたんじゃないか。抗がん剤治療を続けていたら助かっていたのではないか」と言っても仕方がないことを言っているときに、一緒にいたさかもとに電話が入り、いっちんが亡くなったことが伝えられる。
そうして、多分、まっつんが「脚本に書こう」と思ったところで幕である。
やはり、若さを感じる舞台だった。
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