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2023.10.09

「燕のいる駅」を見る

「燕のいる駅 ツバメノイルエキ」
作・演出 土田英生
出演 和田雅成/高月彩良/小沢道成/奥村佳恵
    佐藤永典/尾方宣久/久保田磨希
観劇日 2023年10月7日(土曜日)午後2時開演
劇場 紀伊國屋ホール
上演時間 1時間45分
料金 9000円

 ロビーでの物販などチェックしそびれてしまった。
 ネタバレありの感想は以下に。

 「燕のいる駅 ツバメノイルエキ」のページはこちら。

 10月初旬の3連休、劇団☆新感線の「天號星」のチケットを押さえていたところ、まさかの公演中止で大ショックである。
 それでも芝居は見たいと、以前から気になっていたものの体調等々を鑑みて見送っていた「燕のいる駅」のチケットを取った。
 こういうこともある。

 「燕のいる駅」は、土田英生作演出で最初はMONOではなく、外部公演のために書き下ろした作品だったようだ。
 MONOでも上演し、再演を重ね、小説化し、さらにその小説を元に映画化もされている。
 サイトにある土田英生のコメントを読むと「今回の上演が最後」のつもりであるらしい。
 「世界の終わり」と「新型コロナで人が消えた街」が重なったという。何となく分かる。

 「燕のいる駅」は、タイトルのとおり駅が舞台となっている。
 「日本村四番」というその駅は、島ひとつを占めているらしい「日本村四番」という地域(というか村)の唯一の外部への窓口兼出入り口となっているようだ。
 この村(島)から出て行くためには、ここで電車に乗るしかない。
 電車が走っている訳で、隣の島か陸地と橋が渡っていることは確からしい。

 突然テレビが映らなくなり、電話も無線も通じなくなり、昨日、次々と日本村四番の住人たちは電車にのって村(島)から出て行った。そして、最後の電車に乗ろうとしていた何人かが、結局来なかった電車に乗れず、村(島)に残り、他に行くところもなく駅でたむろしている。
 駅員が二人、駅の売店かカフェで働く女性が一人、村(島)に営業というより行商に来ていた男性二人、女性が昔家庭教師をしていたという女性は弟と駅で待ち合わせをしており、そしてあと一人、その昔「教祖」として世界の終わりを語っていた女性がいる。

 あまり明確には語られないものの、そもそも「日本村四番」が存在する世界は複雑で、日本が支配するそこは、日本人以外は著しく差別されているようだ。
 日本人でない人々は、「日本人でない」ことを示すバッチを常に身につける必要があり、かつ、そのバッチにも「ランク」があるらしい。
 軽い言い方になるかも知れないけれど、結構ハードな世界だ。

 「高島くん」と呼ばれる駅員は、その辺りのことを知ってか知らずか、というよりも、認識はしているけれど理解はしていないというのか、「考えても仕方がない」と思っているのか、全てを他人事として捉えているのか、とにかく暢気かつのんびりしている。
 最初のうち、駅に集う人々は「世界が終わる」とは考えていなくて、ただ、連絡が取れない、電車も来ない、世界がどうなっているのか全く分からない、何もできないという状況にいる。
 そうなると、電車が来ず何の説明もされないことにイラついている本多さんという営業二人組の上司の態度の方が普通な感じもする。
 でも舞台上の世界では、その上司だけがイラついており、何だか嫌な人に見えてしまうのが気の毒である。

 世界が終わると思っていないからか、取り残されても取り越された人々は何だか普通である。
 島なのだから電車が来なければ生活用品だって入手しづらくなるだろうし、そもそも村にいるのは10人未満で、不安とか色々あるはずだと思うけれど、どうにもそういう緊迫感がない。
 弟と待ち合わせをしていたのにその弟が来ないという下川辺さんだけが、イラつく営業上司にイラついて言葉が悪くなっているものの、それだけだ。
 どんだけ人間ができている人たちなんだと思う。
 高島くんの影響なのか。

 先輩駅員であるローレンコさんが、「世界の終わりを語っていた教祖」である女性を見つけ、話し、そして彼女にやっと語ってもらったところでは、彼女は「詐欺師」として逮捕されたものの彼女自身としては真実彼女が見たものを語っており、それは「世界の終わり」なのだという。
 変な形で変な色の雲で空が覆われ、人々は耳が聞こえなくなり、そして次々と深い眠りにつく。
 世界は静かで、動くものはない。
 世界は終わる。

 彼女が語ったことで、駅に集っていた人々も次々と耳がおかしくなり、眠くなり始める。
 ここに集っていた人々は猫のようで、耳がおかしい、眠くなったと気づくと、気づいた順に駅を離れ始める。
 ある者は「村を見に行く」と言い、ある者は「弟を探しに行ったゆきちゃんを探しに行く」と言い、ある者は「ゆきちゃんを探しに行った戸村さんを探しに行く」と言い、営業二人はこの島を出るべく線路に沿って歩き始める。

 戸村さんが「絶対に一緒にやろう」と言っていた燕の巣の修繕を高島くんが「やってきます!」と言ってホームに出て行ったところで、このひたすら暢気で物を考えてなさそうだった若者も戸村さんの生存を諦め、自分が生き延びることも諦めたんだなと思う。
 最後に駅の待合室に残されたのはゆきちゃんだ。
 そこで幕である。

 「日本村四番」とかゆきちゃんの弟がやっていたこととか、先輩駅員の降り積もらせて来ていた思いとか、色々と要素がありつつ、その辺りは自然に「そこにあるもの」として語られ、前面に押し出されてくることはない。
 そこにあるのは、ある意味、平和な情景だ。
 何とも穏やかでハードなお芝居だった。

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