「ガラスの動物園」「消えなさいローラ」を見る
COCOON PRODUCTION 2023「ガラスの動物園」
作 テネシー・ウィリアムズ
翻訳 田島 博
上演台本・演出 渡辺えり
出演 尾上松也/吉岡里帆/和田琢磨/渡辺えり
演奏 川本悠自(コントラバス)/会田桃子(ヴァイオリン)/鈴木崇朗(バンドネオン)
COCOON PRODUCTION 2023「消えなさいローラ」
作:別役 実
上演台本・演出 渡辺えり
出演 尾上松也/渡辺えり
演奏 川本悠自(コントラバス)/会田桃子(ヴァイオリン)/鈴木崇朗(バンドネオン)
観劇日 2023年11月10日(金曜日)午後2時開演
劇場 紀伊國屋ホール
上演時間 ガラスの動物園 2時間30分(終演後15分の休憩あり)
消えなさいローラ 1時間
料金 10000円
ロビーでの物販はチェックしそびれてしまった。
「ガラスの動物園」の上演後15分間の休憩を挟み、「消えなさいローラ」が上演される。
「消えなさいローラ」は二人芝居で、尾上松也は全公演に出演し、相手役は、吉岡里帆・和田琢磨・渡辺えりの3人がトリプルキャストで演じる。私が見た回は、尾上松也と渡辺えりの二人だった。
休憩時間に、客席後方に恐らくは修学旅行だろう高校生がいたことに気がついた。
君たち、いいもの見たね、と思った。
ネタバレありの感想は以下に。
「ガラスの動物園」は以前に見たことがある。
確認してみたら、2001年と2006年に見ていた。随分と間が空いている。
「ガラスの動物園」というお芝居は「暗い」「辛い」という印象があって、テネシー・ウィリアムズの名作だし、その後もきっと何度も上演されている筈だけれど、何となく避けていたのだと思う。
今回はこの「ガラスの動物園」と、別役実が書いた「消えなさいローラ」という「ガラスの動物園」の続編に当たるお芝居を続けて上演して1公演としている。
そして、「消えなさいローラ」は二人芝居で、尾上松也は全公演に出演し、相手役は「ガラスの動物園」に出演している他3人の役者さんがトリプルキャストで演じる。
これでもか! というくらいの仕込みっぷりが楽しそうで、チケットを取った。
「ガラスの動物園」は、見ている間、「こんなに楽しい芝居だったっけ?」というくらい楽しく見た。
語り手の尾上松也演じるトムは神経質な青年で見ていてイライラしたし、自分が正義で自分の正義をカケラも疑うことなく自分の思う「慈愛深き母親」を演じ続ける渡辺えり演じる母親のアマンダが逆ギレに近い感じで怒鳴りまくるのには引いたし、常におどおどし続けるローラにもやっぱりイラつく。
それなのに、楽しい。何故だ、と思う。
舞台には、バンドネオン、コントラバス、ヴァイオリンの奏者が一人ずついて、ずっと出ずっぱり、生演奏をしてくれる。
贅沢だ。
どれも何というか哀愁を漂わせたらピカ一の楽器たちで、「ガラスの動物園」という舞台によく似合っていると思う。
一家の父親は家族を残して出て行ってしまい、アマンダとトムが働きに出て生活を支えている。
しかし世の中は不景気でアマンダは「このままではじり貧だ」と思っており、さらに、人見知りで足の悪いローラを心配している。タイプ学校に通わせていたつもりが、ローラは最初の数日(1日だけだったかも)のうちに教室で戻してしまい、その後は通っていなかったことが判明する。
ローラを自立させることは無理だと諦めたアマンダは、今度はトムに、ローラの結婚相手になりそうな青年を探して家に連れて来るように命じる。
家族のことを思っていることは分かるし、アマンダが「自分の娘時代には17人も求婚者がいた」的なことを語るのも100回も聞いたら飽きるけど許せる。
実際のところ、一家の中でアマンダが一番早く死ぬことはほぼほぼ確実で、だったら彼女がローラの「この先の食い扶持」のために必死になることは理解できる。
むしろ、「この先、自分はどうやって生きて行くか」を全く考えていないローラの方がおかしい。
なのにどうして、アマンダが悪役のようになっているのかと言えば、押しつけがましくてかつ息子のトムに全部を負わせようとしているからだと思う。
それでもやっぱりアマンダは(それほどは)悪くない気がする。だから明るいのか。
アマンダにしつこく言われたトムは、倉庫で一緒に働いている和田琢磨演じるジム・オコナを連れて来る。
彼が、ハイスクール時代の姉の憧れの人だと知っていたようでもあるし、ハイスクールでは輝けるヒーローだった彼が今はトムと同じ職場で働く「輝きを失った」人物であることに皮肉な視線を送っているようでもある。
母にしつこく言われて面倒くさくなった結果、職場でほぼ唯一言葉を交わす相手であるジムを仕方なく連れてきたという風でもある。
しかし、この人選が、辛うじて均衡を保っていた彼ら3人の生活をひっくり返したことは間違いない。
ジムは「輝いていない自分」を認識しつつ、「いつか輝ける」とも思っていて、今の表情は明るい。
端から見ていると「見栄を張りすぎだろ」とか「その自信はどこから来るんだ」とか言いたくなるけれど、一家にとっては非常に感じのいい、歓迎すべき客人だ。
ハイスクール時代のローラのことも何とか思い出し、最初はまともに顔も合わせられずにいたローラも次第にハイスクール時代の思い出を語ったり、彼女の世界の大部分を占めている「ガラスの動物たち」について熱く語ったりするようになる。
そうして「恋の始まり」のようにはしゃぐローラは、一番大切にしていたガラスのユニコーンを落として角を欠けさせてしまったことで平常心に戻り、「自分に自信を持て」と言いつつ彼女にキスしたジムが続けて「自分には婚約者がいるんだ」と語り始めたところで、はしゃいだ反動で沈み込む。
滅多に浮上しない彼女が浮上してその分だけ沈んだら、そう簡単に戻ってこれないだろうことは簡単に想像がつく。
ジムがアマンダに「これから婚約者を迎えに行かなくてはいけない」と言って辞すと、アマンダは「どうして婚約者がいる男を連れてきたんだ」とトムを詰り、家を出る準備を着々と進めていたトムは船員になるべく家を飛び出す。
そして、幕開けと同様に、何年後かのトムの語りに戻る。
トムが船員になったかどうか、はっきりと彼の口から語られることはなかったように思う。定住せず、あちこちふらふらとしていたようではあるけれど、それが「船員として」そうしていたのかはよく分からない。
そして、アマンダとローラのその後も語られず、幕となる。
なるほど、こう書いてみると「続き」を書きたくなる気分が分かるような気がする。
休憩なしで一気に2時間半、面白く見ることができた。「ガラスの動物園」は、例えば「欲望という名の電車」とか「人形の家」とかと一緒で「名作だけど苦手」と思っていたので、自分で驚いた。
そして、15分の休憩後に「消えなさいローラ」が上演される。
もうタイトルからして、「その後の母とローラは幸せではありませんでした」という感じが漂っている。
尾上松也は、最初は葬儀社の人間として登場してアマンダとローラが暮らすアパートにやってくる。
そして、渡辺えり演じるアマンダあるいはローラと話すうちに、「実は自分は探偵社の者だ」と身分を明かす。
アマンダとローラが暮らしていた筈のアパートには、人は一人しか暮らしていない。
その一人しかいない彼女は、アマンダと名乗ったり、ローラと名乗ったりする。
そこにいる人物が「ローラ」と名乗っているときはドレスを着ているだけだけれど、「アマンダ」と名乗っているときはドレスにショールが加わる。そしてそのドレスが、ジム・オコナがやってきたときに着ていた彼女の一張羅であることがもの悲しい。
つまり、彼女はローラでしかあり得ないことは最初から観客に知らされているのだ。
そして「そこに暮らしているのがアマンダなのかローラなのか」さらに言えば「そこで死んでいるのがアマンダなのか、ローラなのか」を探りに来たと言っていた探偵社の男も「あなたはローラさんですね」と断定する。
「母親の死亡届を出せ」としつこく言う彼は「誰が死んだのか」を探りに来ていたのかと思いきや、よく考えたらそんなことを探ろうとする人がいる訳がない。いるとしたら役所くらいだろう。
彼は「自分はトムが死んだことを知らせに来た」「あなた方はトムを待つ必要はない」「トムを待つ以外のことをしてもいいのだ」とローラに言う。
今は、トムが出て行ってから何年後なんだろう。母親が死んでからは3年が経っていると言っていた気がする。何十年も後のお話なのか、数年後のお話なのか。
ローラの足が治っているのは何故なんだろう。
様々に疑問が浮かび、気がつくと探偵社の男が何だか死神のように見えていた。
誰も救われない終わりだったのに、何だかこれで良かったんじゃないの、という気もして、不思議だった。
ただ、一つだけ苦言をしたい。
紀伊國屋ホールは割と舞台が高い。そして、今回のセットは、舞台奥が一段高くなっていてダイニングテーブルが置かれ、その手前中央に背もたれのあるソファが置かれている。
最前列で観劇していると、ダイニングテーブルに座っての演技は2/3くらいはソファの陰になってしまって全く見えなかった。
もう少し工夫してくれればいいのに、と思ってしまった。
| 固定リンク
「*芝居」カテゴリの記事
- 「りぼん」のチケットを購入する(2024.12.09)
- 「こんばんは、父さん」を見る(2024.12.08)
- 「フロイス -その死、書き残さず-」の抽選予約に申し込む(2024.12.07)
- 「太鼓たたいて笛ふいて」 を見る(2024.11.24)
「*感想」カテゴリの記事
- 「こんばんは、父さん」を見る(2024.12.08)
- 「太鼓たたいて笛ふいて」 を見る(2024.11.24)
- 「つきかげ」を見る(2024.11.10)
- 「片付けたい女たち」を見る(2024.10.20)
コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
「リムジン」はいかがでしたか?
そして、みずえさんは長塚圭史演出、深津絵里がローラを演じた「ガラスの動物園」をご覧になったのですね。
私が好きそうな方々なのに、私、どうして見ていないのでしょう?(笑) 謎です。
深津絵里さんは、「カムカムエブリバディ」以来、映像でも拝見していないような気がします。ぜひ舞台でまた拝見したいです。
渡辺えりさん演出の「ガラスの動物園」、本当に元々持っていたイメージと全然違う舞台でした。
改めて、演出の力って凄い! と思った次第です。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2023.11.14 20:54
姫林檎様
私は「ガラスの動物園」は、2012年に観ました。
長塚圭史演出で、ローラは深津絵里、トムは瑛太でした。
長塚さんぽいというか、重く切ない舞台だった記憶があります。
深津さんはじめ、キャストはみんな素晴らしかったですよ。
そういえば、深津さんは最近あまり舞台やりませんね。
好きな女優さんなので、残念です。
今回は渡辺えり演出ですか!
きっとまた全然違う「ガラスの動物園」なんだろうな。
「消えなさいローラ」は、存在自体知らなかったです……。
別役実さんの名前、久しぶりに聞きました。
何だか懐かしい。
私は今夜「リムジン」を観ます。
コロナ渦で中止になり、涙を飲んだ舞台なので、やっと観られて嬉しいです。
投稿: みずえ | 2023.11.13 10:46