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2023.11.19

「ねじまき鳥クロニクル」を見る

ホリプロ「ねじまき鳥クロニクル」
演出・振付・美術 インバル・ピント
脚本・演出 アミール・クリガー
脚本・作詞 藤田貴大
音楽 大友良英
出演 成河/渡辺大知/門脇 麦
    大貫勇輔/首藤康之(Wキャスト)/音くり寿
    松岡広大/成田亜佑美/さとうこうじ/吹越 満/銀粉蝶
    加賀谷一肇/川合ロン/東海林靖志/鈴木美奈子
    藤村港平/皆川まゆむ/陸/渡辺はるか
演奏 江川良子/イトケン/大友良英
観劇日 2023年11月18日(土曜日)午後0時30分開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス
上演時間 3時間5分(15分の休憩あり)
料金 11800円

 初演は、チケットを取ったときには忘れていたけれど、新型コロナウイルス感染症対策のため上演中止になった回のチケットを持っていて、見ることができなかった。
 今回見られて嬉しい。
 ロビーではパンフレットの他、グッズが色々と販売されていた。一部はすでに売り切れていたようだ。

 ネタバレありの感想は以下に。

 ホリプロの公式Webサイト内、「ねじまき鳥クロニクル」のページはこちら。

 主役の「岡田トオル」を渡辺大知と成河が二人一役で演じることは知っていたものの、それ以外はほとんど予備知識なしで見に行った。
 生演奏が入ることもすっかり忘れていて、さらに出演者が歌い始めたときには驚いた。
 とはいえ、ミュージカルというほどは歌っていないし、何ならたくさん歌っているときの新感線よりも歌は少なかったと思う。

 「ねじまき鳥クロニクル」は読んでいる。
 文庫で上中下に分かれている長編をどうやって3時間の舞台にしたのだろうと興味津々だった。
 さらに、「岡田トオル」を二人一役でという仕掛けの効き方も気になる。

 そう思っていたら、幕開けは、成河が岡田トオルとは名乗らずに真っ暗な舞台に真っ黒の衣装で登場し、ライターの火を付けて自分の手を炙り始めた(ように見せていた)。
 これで相当に異様な感じが客席に漂ったと思う。客席の緊張感が一気に高まったという感じがした。

 最初は渡辺大知が一人で岡田トオルとして登場した。
 成河がそこに加わったのは電話のシーンで、電話をしている渡辺大知の岡田トオルと、鏡に映った身体の成河の岡田トオルの動きが合っていて、最初は「鏡ではない」ことに気がつかなかった。
 決して二人は似ていないのに不思議である。

 小説を読んで持つイメージは読んだ人の数だけあるのだから、その全部に共通した何かを舞台上に載せることはほぼほぼ不可能だ。
 そうと分かっていても、最初に岡田トオルが舞台上に登場したときには、違和感があった。何だろう? と思って、私のイメージの中の岡田トオルがかなり年齢が高いことに気がついた。
 何なら、自分と同い年くらいの感じで小説を読んでいたらしい。
 設定では30歳前後(もしかしたらどこかで年齢が明記されていたかも)なのだから、「わっかいなー」と思った渡辺大知の実年齢だって岡田トオルの設定より上である。
 イメージとは勝手なものである。

 休憩までは、小説のねじまき鳥クロニクルから、岡田トオル、妻のクミコ、クミコの兄の渡辺昇、猫の「渡辺昇」探しを依頼する加納マルタとその妹のクレタ、近所の笠原メイ、岡田トオルを訪れる間宮少尉が関わるエピソードを抽出していた。
 あら、赤坂ナツメグと赤坂シナモンは出てこないのかしら? 牛河さんも抹殺しちゃうのかしらと思いながら見ていた。
 見ているときは、かなりエピソードと登場人物を絞ってきたなと思っていたけれど、こうして書き出してみると結構な登場人物がちゃんと舞台上にいて、今、驚いた。

 抽出はしているものの、基本的に原作に忠実に舞台化されていて、何なら台詞もそのまま使っていることも割とあったと思う。
 原作から変えたのねと思ったのは、トオルと加納マルタと渡辺昇が会うシーンの場所が、ホテルのティールームから、オークション会場に変更になっていたのと、トオルと笠原メイがカツラ会社の調査で「はげている」人を数えている場所が街中からスイミングプールに変更されていたところくらいだ。
 多分、どちらの変更も、抽出したことで減ってしまった「空気感」を出すためのものだったと思う。

 その「空気感」を出すのに大活躍していたのがダンサーの方々で、踊るというよりも「肉体を見せている」という感じがした。
 踊っているし、格好良いし、キレッキレだった。でも「肉体を見ている」という感じがする。
 村上春樹の小説はどうしたって暴力とセックスから切り離すことはできないと思うので、舞台化するときにその生の部分を、ダンサーの動きと身体で表現したのではないかと思った。

 「肉体で」と言えば、間宮少尉が本田さんの形見分けのために岡田トオルを訪れ、岡田トオルに請われて本田さんとの出会いを語るシーンで、吹越満が逆さまになって(逆立ちではない。上手く言えない。)「井戸に落ちた」状態を表しつつ淡々と語っているシーンがかなり怖かった。
 スポットライトが当たっているのに真っ暗で、吹越満の両脇に迫る井戸を組んだ石垣が見えるようだった。
 それに近い台詞はあったけれど、ここはやはり「形見の箱の中味が空だった」ことを岡田トオルが間宮少尉に伝え、間宮少尉から「私たちを会わせることが本田さんからの形見だったのでしょう」という答えが返るというシーンは再現して欲しかったなぁとわがままなことを思ったりした。

 休憩後は、赤坂シナモンや赤坂ナツメグ、牛河らが登場する。
 しかし、休憩前にかなり小説に忠実に描いた分、詰め込むべき要素が多すぎて、かなり変えて来ていた。岡田トオルが入り込むホテルのフロントに赤坂ナツメグとシナモンを立たせ、かつ、そのホテルで岡田トオルが「治療」を行うよう変えられていた。
 なるほど、「井戸を手に入れる」関連のエピソードを丸ごと省くとそうなるのか、と今気がついた。
 牛河さんもかなりピンポイントの登場で、いやここはもっと手厚く! とまたもわがままな欲求が起きる。そんなことをしていたら、舞台が5時間とか6時間とかになってしまう。

 岡田トオルは、渡辺大知と成河がそれぞれ一人で演じたり、二人で一緒に演じたりしていた。
 その場合分けのルールを見破ろうと思ったけど、最後までよく分からなかった。「**のシーンは**が演じる」とか「**と一緒のシーンは**が演じる」とかそういうルールがあるのかと思ったけれど、どうなんだろう。

 長編小説を舞台化するって難しい。でも面白い。
 そう思った。

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