「海をゆく者」を見る
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ「海をゆく者」
作 コナー・マクファーソン
翻訳 小田島恒志
演出 栗山民也
出演 小日向文世/高橋克実/浅野和之/大谷亮介/平田満
観劇日 2023年12月23日(土曜日)午後1時開演
劇場 パルコ劇場
上演時間 3時間(20分間の休憩あり)
料金 10000円
今回は再再演に当たり、私は2009年の初演を見ているようだけれど、全く記憶に残っていない。
当時書いた感想を読んだら、随分と暗くて登場人物たちが怒鳴りまくっている、見るのに辛い舞台だと思っていたらしい。
ロビーではパンフレットや、パルコ劇場開場50周年記念グッズなどが販売されていた。
私の2023年の観劇はこの舞台で締めくくりである。
ネタバレありの感想は以下に。
この「海をゆく者」はアイルランドの作家が書いた戯曲で、日本では、今回も出演している小日向文世、浅野和之、大谷亮介、平田満4人に吉田鋼太郎を加えた5人で初演、再演と上演されている。
今回、吉田鋼太郎の役を高橋克実が引継ぎ、他の4人は続投である。
5人の中では高橋克実が一番若く、5人の平均年齢は73歳らしい。
しかし、平均年齢73歳には見えない。
「飲んだくれのおじさん達」の舞台に見えて、「飲んだくれのおじいさん達」の舞台には見えないところがまず凄いと思う。
姿勢も綺麗だし、動きにもキレがあるし、滑舌もよくて台詞も聞きやすいし、ベテランの味と渋さが前面に押し出された贅沢な布陣である。至福だ。
物語はクリスマスイブの夜からクリスマスの朝までがメインだ。
高橋克実演じるリチャードと平田満演じるシャーキーの兄弟の家だ。普段はリチャードが一人で住んでいるけれど、リチャードの目が見えなくなり、弟のシャーキーが彼の面倒を見るために少し前に帰ってきたらしい。
そこに、浅野和之演じる眼鏡を失くしてほとんど目が見えていないアイヴァンは昨日もリチャードの家に泊まって二人で飲んだくれ、クリスマスイブにも、妻のカレンが怖いとまたやってきている。
リチャードとアイヴァンの二人はずっと飲んでいるし、リチャードは「クリスマスまで風呂に入らない」と宣言して相当に臭そうだし、アイヴァンはリチャードの目が見えないのをいいことにこっそり自分だけたくさん酒を飲んで悦に入っている。
シャーキーは飲むと性格が変わってもの凄い乱暴者になるらしく、ここ3日ばかり禁酒しているらしい。しらふだ。しらふの時のシャーキーは、ぶっきらぼうではあるものの普通に見える。
普通に見えていたのに、リチャードが電話で大谷亮介演じるニッキーを家に招いた途端に、もの凄く機嫌が悪くなり、物言いも乱暴になる。
ニッキーが、シャーキーが付き合っていた女性と今現在同棲だか結婚だかをしていることが気に入らないらしい。
ニッキーは気のいい男ではあるらしく、リチャードの社交辞令混じりの招待を受け、クリスマスイブの夜に小日向文世演じるロックハートという男を連れてやってくる。
この辺りまでが一幕である。
自分が以前に書いた感想からどうにも理不尽な感じがする苦手な舞台なのではないかと思っていたけれど、見ていたときはずっと「意外と明るい」と思っていた。
怒鳴り声ばっかりだし、怒鳴るような会話ばかりだけれど、不快じゃないし、聞いていて辛くはならない。
舞台上にいる人々がいい人だとか善人だとかお友達になりたいとかは全く思わないけれど、舞台として苦手ではないと思った。
不思議だ。
演出が明るい方に笑いを挟むように変化しているのか、見ている私が年を取ったからか、両方なんだろうと思った。
ロックハードは一人だけ、三つ揃いのスーツを着て、ウールのコートを着込み、何だか紳士風の見た目である。なのに、何だかカクカクした動きをしていて変な感じだ。
リチャードは働いていないようだし、シャーキーも勤め先のことを聞かれると言葉を濁しているし、家の様子もどう見ても裕福ではないけれど、クリスマスの買い物だと言って購入する酒類リストを作るときに全く躊躇いがないところが謎である。
彼ら兄弟の懐事情を是非知りたい。
ロックハートは実は悪魔である。
牢屋なのか拘置所なのか、そういった場所でロックハートとシャーキーは出会い、カードで勝負し、勝ったシャーキーは服役を免れられるようにしてもらったことがあるらしい。
そのロックハートは何故か再びシャーキーの前に現れ、再戦を希望し、自分が勝ったらシャーキーの魂をもらうと宣言した、っぽい。
実はこの辺り、恐らくは台詞がキリスト教の背景を前提としていたらしくて、耳に入っているのに全然聞けていなかった。
もう少し私にキリスト教の素養があればちゃんと聞けたのだと思う。何しろ登場しているのは悪魔だし、クリスマスイブの出来事だし、善人ではなさそうだけど一応クリスマスには教会のミサに行くような男と取引しようとしている。
ストンと落ちて理解するには、下地というものが必要である、気がする。
目が見えないリチャードは眼鏡が見つからないままのアイヴァンとチームになり、5人で酒を飲みながら延々とポーカーをやっている。
ポーカーをやりながら、何故かロックハートがアイヴァンを追い詰めたりもしている。謎だ。アイヴァンが追い詰められた「過去の出来事」はシャーキーは多分関係がなくて、なのにどうして悪魔がアイヴァンを突然にいたぶり始めたのか謎である。
大体、悪魔はある程度人間達を自分の思うままに動かしたりしゃべらせないようにしたりできるらしい。言葉でいたぶってどうするのか、意図が見えない。
というか、ポーカーに参加する意図も見えなければ、シャーキーの前に現れた理由も分からない。
ただ、ポーカーの勝負でロックハートが勝ったら、シャーキーの魂をいただく、という取引が何故かいつの間にか否応なく成立している。
何故だ。シャーキーの良心なのか。
結局、ロックハートの勝利でポーカーは終了し、シャーキーが自分の魂をロックハートに渡すことを決心する。
そうして二人が家を出ようとしたとき、アイヴァンが眼鏡を発見し、最後のポーカーの勝者がロックハートではなくリチャードとアイヴァンのコンビであったことが判明する。
ロックハートはシャーキーの魂を諦め、うちひしがれた様子でリチャード兄弟の家を後にする。
何だかよく分からないまま、大団円で暗転だ。
シャーキーは決してロックハートに勝ったわけではないのに、ロックハートとシャーキーとの賭けの結果がシャーキーの勝ちとで魂を取られずに済んで、それでいいのか。契約どおりだったのか。
つまらないところが気になる。
そして、そもそもシャーキーは何故魂を取られなければならなかったのか。取られるか否かを決定するのがポーカーの勝ち負けだったのは何故か、シャーキーの魂が少なくとも奪われずに済んだのは何故なのか、全くよく分からない。
クリスマスの奇蹟ということでいいのか。
その「奇蹟」を呼び込んだ理由は何なのか。
顛末には全くもって納得が行かないけれど、何故か「そういうのもありだよね」という感じがする。
不思議な、何故か暖かい感じのする舞台だった。
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コメント
みずえ様、あけましておめでとうございます。
そして、コメントありがとうございます。
みずえさんはあまり再演をご覧にならないのですね。
私はどうだろう。見たことがあるかどうかはあまり気にせず、そのときに「見たいな」と思ったら見ているかも。見ていても忘れちゃってることが多いですし(泣)。
この舞台にこの役者陣、本当に「隙なし!」という感じの舞台でした。
今年もたくさんの舞台に出会えますように!
今年もよろしくお願いいたします。
投稿: 姫林檎 | 2024.01.09 21:27
姫林檎様
コメントが遅くなりました!
私はこの舞台、2014年版を観ました。
吉田さん(今回は高橋さんですね)と平田さんが、冒頭からだんだんイメージが変わっていくのが面白かったです。
小日向さんは、こういう役上手ですよね。
活舌いいし、素敵でした。
振り幅の大きい役者さんだと思います。
でも、私はなんといっても、浅野さんの役が大好きでしたよ。
私はあまり同じ公演を観ないタイプなので、今回は観なかったのですが、やっぱり観ればよかったかなと、姫林檎さんの感想を読んで思いました。
改めて、今年もよろしくお願いします。
姫林檎さんのブログを楽しみにしています。
投稿: みずえ | 2024.01.09 18:47