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2023.12.17

「東京ローズ」を見る

「東京ローズ」
劇作・脚本・作詞 メリー・ユーン、キャラ・ボルドウィン
作曲 ウィリアム・パトリック・ハリソン
翻訳 小川絵梨子
演出 藤田俊太郎
出演 飯野めぐみ/シルビア・グラブ/鈴木瑛美子
    原田真絢/ 森加織/山本咲希
観劇日 2023年12月16日(土曜日)午後1時開演
劇場 新国立劇場小劇場
上演時間 2時間30分(15分間の休憩あり)
料金 7700円

 ロビーではパンフレットが販売されていた(その他にグッズがあったかどうか、チェックしそびれてしまった)。
 ネタバレありの感想は以下に。

 新国立劇場の公式Webサイト内、「東京ローズ」のページはこちら。

 太平洋戦争中に日本が連合国側向けて行ったプロパガンダ放送の女性アナウンサーは「東京ローズ」と呼ばれていて、その放送は複数人で行われていたものの、この舞台の主人公であるアイバ・トグリ以外の氏名等は明確になっていないそうだ。
 そのアイバ・トグリという日系2世の女性が、生まれ育った米国から叔母の見舞いのために来日し、来日中に太平洋戦争が始まって帰国できず、生活のために働いていた放送局でラジオ放送を担当し、終戦後、日本のプロパガンダ放送に協力したとして米国で裁判にかけられ、有罪となり、特赦を得るまでの半生を描いた物語である。

 アイバ・トグリという女性の半生を、6人の女優が彼女を順番に演じながら語るミュージカルだ。
 出演者全員がオーディションで選ばれたそうで、6/936という狭き門を突破した女優さんたちがまず凄い。
 幕開けは、アイバ・トグリの弁護士が登場してのプロローグで、その後、全員での歌とダンスが始まる。音楽は生演奏だ。
 この最初の歌が始まった瞬間、鳥肌が立った。
 これは凄いと確信させる幕開けである。

 アイバ・トグリは日系2世の米国人で、この芝居は米国で初演されたのかと思っていたら、英国人を中心とした演劇集団で初演された作品だそうだ。
 意外である。
 重要な登場人物である、放送局時代の彼女の同僚かつ指導者だったカインズ少佐が英国人だったとはいえ、この物語が日本や米国で紡がれたものではないのは、何だか残念な気がした。

 しかし、どこの国で作られた芝居であろうと、この「東京ローズ」という舞台は凄かった。
 アイバ・トグリを出演する女優全員で繋いで行くように演じるというのは、初演ではなかった演出だそうだ。なるほど、それでアイバ・トグリ以外の役を一人の女優がずっと演じることも、そちらも次々と順に演じて行くこともなかったのだなと思う。
 最初からそのつもりであれば、どちらかがやりやすいように戯曲を書いたと思う。
 なので、途中で少しだけ混乱した。

 6人の女優さんがどのシーンのアイバ・トグリを演じるかということは、声質を元に決めたのではないかなと思う。
 アイバ・トグリを演じているときは、前髪を巻き、紺色のガウチョパンツ(と言い切るには膝下丈だった)と上着を着て、若いときは三つ編み、後半は髪を下ろすようになって、それで見分けがつくようにしている。
 見た目を寄せることで、そのときのアイバ・トグリの年齢や状況や感情に合った声質の女優さんが彼女を演じるようにしていたのだと思う。
 やっぱり声って重要だよ、役者さんは声だよ、とこれまでも思っていたことを今回も繰り返し思うことになった。

 圧巻だったのは、アイバ・トグリを3人目に演じた原田真絢の休憩前の力強い歌声と、米国に連れ戻されて裁判にかけられ市民権を剥奪されるまでを演じたシルビア・グラブの演技だ。
 どちらも「ここが見せ場!」という迫力で、圧倒された。

 アイバ・トグリという女性が何故「東京ローズ」とされてしまったのかというと、「東京ローズ」という存在を追っていた記者の暴走と、彼の独占インタビューを受けることで得られる家が1軒建つほどのお金にぐらっと来て「自分が東京ローズである」という書面にサインしてしまったことが理由であるように描かれていたと思う。
 「本人がよく考えずにサインしちゃったからいけないんだよね」的な描き方になっているところがちょっと不完全燃焼だった。

 私の失ってしまった**年間にそれなりの代償があってもいいよね、という彼女の心の声は出ていたけれど、戯曲でもっと掘り下げても良かったんじゃないかしらという風にも思った。
 それは舞台としてというよりも、見ている側として納得したい、という気持ちだ。
 この舞台の「アイバ・トグリ」の解釈としては、折角合格した大学院に通いたかったのに両親に言われて渋々来日した自分、よく分からない日本の習慣を毎日のように叔母にチェックされていた自分、自分は米国人だと思って育って暮らしてきたのに米国に帰国さえさせてもらえない自分、プロパガンダ放送を逆手に取って望郷の念を起こさせる振りをして実は連合国軍を鼓舞していた自分、そういう諸々が「報われてもいいじゃない」と思ったということだと思う。
 そこをしつこいくらい訴えて! と思った。

 そして、もの凄くいい舞台だったので、いい舞台はさらに終わらせ方が難しいんだなとも思った。

 アイバ・トグリという女性のことはもちろん、東京ローズのことも事前に何も勉強せずに見に行ったので、舞台と彼女の結末を全く見通せないまま見て、ハラハラして、集中して見た。
 全員がオーディションで選ばれたという女優さんたちの演技も歌声もダンスも迫力があって美しかった。
 見て良かった。本当に見て良かった。

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