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2024.01.20

「シラの恋文」を見る

シス・カンパニー公演「シラの恋文」
作 北村 想
演出 寺十吾
出演: 草なぎ剛/大原櫻子/工藤阿須加/鈴木浩介
    段田安則/西尾まり/明星真由美
    中井千聖/宮下雄也/田山涼成
観劇日 2024年1月20日(土曜日)午後0時開演
劇場 日本青年館ホール
上演時間 1時間45分
料金 11000円

 日本青年館ホールには久々に行ったと思う。前回いつ行ったのか思い出せないくらいだけど、「前より綺麗になったよね?」と思った。改装したんだろうか。
 ロビーではパンフレットが販売されていた。
 ネタバレありの感想は以下に。

 シス・カンパニーの公式Webサイト内、「シラの恋文」のページはこちら。

 そこはサナトリウムに作られた畑で、背後には山、目の前には海が広がっている、らしい。
 タイトルとフライヤーの印象から、勝手に古い時代の話で新作ではないと思い込んでいたら、「SNS」とか「COVID19」とかといった単語が聞こえて来て、現代の話だったのか! と驚いた。
 過去8年間、サナトリウムを生きて出て行った人はいないという台詞もあったような気がして、それも「古い時代の話」と思った原因の一つだと思う。
 現在、耐性菌の問題があるのはその通りだと思うけれど、結核は服薬で確実に治る病気である。

 そんなことはともかくとして、物語は、草薙剛演じる志羅(シラ)がギターを下げ、テンガロンハットを被っていたか手にするかしてやってくるところから始まる。
 やってきたそこは畑で、段田安則演じる院長や鈴木浩介演じる医師、田山涼成演じる患者らが畑仕事に勤しんでいる。
 そこに、大原櫻子演じる小夜たち二人の若い女性がやってきて、シラと小夜の二人は目が合った瞬間、動かなくなる。

 自分でもよく分からないのだけれど、何故かこの舞台を見ているときは「昨年末に見た”海をゆく者”に段田安則が出演していた」と思い込んでいて、「こんな短期間で違う舞台に出るなんて凄すぎる!」と勝手に思っていた。実際は、段田安則は「海をゆく者」には出演していない。「シラの恋文」は12月9日に京都で上演が開始されている。
 しかし、3月から始まる「リア王」の主演は段田安則である。パワフルだ。

 ここまで書いてきて思ったけれど、明星真由美演じる新型コロナで3歳の子供を亡くした女性がいたり、患者たちは「確実に迫っている死」と隣り合わせで暮らしているし、西尾まり演じるcovid19の対応で疲れ果て薬を止められなくなっている看護師が働いていたり、新型コロナウイルス感染症の影が色濃く落ち、舞台の背景は非常にシビアである。
 それでも、やはりこの舞台はファンタジーなんだろう。

 シラが子供の頃に見たテレビドラマに登場した少女剣士を演じた女優と小夜がそっくりだという話をすると、小夜本人はもちろんのことサナトリウムにいる人たち全員が「小夜はその女優の生まれ変わり」説を信じている。
 物理学を学んだ落語家が「恋は輪廻転生だ」というような恋愛論を日頃からぶちかましているからなのかも知れない。
 このテレビドラマの映像が舞台の背景で流されていて、「お金掛けてる!」と思った私は本当に情緒がない。そして「今から40年前だったらほぼほぼカラーテレビだったよ」とも思っていて、やはりこの舞台の世界は現代日本とは似て非なる世界という設定だよなと思ったりもした。

 サナトリウムにいる男性の半分くらいは、小夜のことをかなり本気で好きであるらしい。
 その辺りの機微が今ひとつ分からず、サナトリウムに若い女性がいること事態が珍しいという設定か? とか、小夜という女性がもの凄く魅力的という設定か? とか、小夜に向いている矢印だらけの恋愛模様をかなり疑わしい目で見ている自分に気がつく。
 小夜自身はシラを気に入っているようなのに相思相愛というか恋人同士っぽくならないところは不幸だろうけれど、この状況はある意味でファンタジーだよねと思わなくもない。

 「剣術」が基礎教養的な扱いになっている世界であるのか、小夜は木刀(竹刀ではなく木刀に見えた)を持ち歩いているし登場シーンの半分くらいは袴姿だったし、シラも何故か「ナントカ流剣法」の達人らしかったし、院長も医師も何故だか剣術の達人だったし、その彼らの太刀筋をシラはあっという間に見抜いて解説してしまう。
 何故だ! と思ったけれど、ここは多分「何故だ!」と思うところではないのだと思う。

 殺陣のシーンも結構あったし、歌のシーンも結構あった。
 草薙剛がギターを弾き語りしたり、草薙剛のギターを伴奏に大原櫻子が歌ったり、二重唱するシーンもあったと思う。
 なにより、舞台は出演者全員で歌うシーンで幕を閉じている。
 ファンタジーっぽさはそういうところからも醸し出されていたと思う。

 そこは「今の現実と似た違う世界」であるということか、某国の潜水艦が深海に潜ってcovid19を持ち帰ってしまったということになっていたし、その後、その某国が国力が弱った日本(というところだけ現実にやけに即している)に戦争を仕掛け、開戦する。
 シラは入所した後喀血もしているようだけれど、院長曰く「死を恐れていない」らしく、その理由は語られないまま兵士募集に応募し、戦死してしまう。
 その戦死の報は、実は誤診でサナトリウムにいた小夜の元に届き、彼女はサナトリウムから出て行く。
 そこで幕である。

 シラノ・ド・ベルジュラックに着想を得た戯曲らしさが一番出ていたのは、やはり、シラが恋文を代筆するシーンだ。
 元々、シラはゴーストライターという設定である。
 多分、この「恋文を代筆」というモチーフが重要であって、設定などをそのまま使おうとはしていないのだと思う。この舞台の場合、シラと小夜は曲がりなりにも両思いだし、シラが代筆するのは小夜はもとよりシラよりもずっと年上のサナトリウムの院長の恋文である。
 やっぱり、どうして小夜はここまでモテるのか。

 そういう些末なことは抜きにして、現代日本っぽいけど現代日本ではないどこか、でももしかしたら今後現代日本が辿るかも知れない世界のお話で、そういう危うさの上で色々なことを考えたり感じたり「しやすく」してもらっているんだろうなと思う。
 それはそれとして、もう何度でも声を大にして主張する。聞きやすく通る声としゃべり方を持った役者さん達が演じる舞台は至福である。
 私自身は上手くできていないけれど、ファンタジーを楽しみ、そしてファンタジーに潜む恐怖を感じるべき芝居だったと思う。

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