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2024.03.10

「御菓子司 亀屋権太楼」を見る

MONO第51回公演「御菓子司 亀屋権太楼」
作・演出 土田英生
出演 尾方宣久/奥村泰彦/金替康博/高橋明日香
    立川茜/土田英生/水沼健/渡辺啓太
観劇日 2024年3月9日(土曜日)午後2時開演
劇場 ザ・スズナリ
上演時間 2時間
料金 4800円

 ロビーでは、パンフレット、上演台本、手ぬぐいなどのグッズのほか、京都の和菓子屋さんに作っていただいたという劇中に登場する和菓子が販売されていた。
 購入しそびれてしまい、ちょっと残念に思っている。

 ネタバレありの感想は以下に。

 MONOの公式Webサイト内、直近の公演情報のページはこちら。

 舞台はモザイクのような背景と両脇に斜めに壁が設置されている。
 何というか漆喰風だ。
 そのモザイクのようになった壁から椅子やテーブルが出てきたり、ドアだったり、看板がくるりと回って出てきたり、何とも遊び心に満ちた舞台セットだ。
 基本は屋内だと思う。

 場面転換では、その舞台セットを役者さんたちがキビキビした動作かつ能面のような表情で息を合わせて動き整えて行く。
 ワンシチュエーションで場所が変わらない舞台を続けてきたMONOが場所が移動し、時も飛ぶ舞台を上演するに当たり、せっかくだからその場面転換や時の移り変わりをショーアップして意味あるものにしようと企んだのだな、という感じがする。

 時の経過は、舞台奥に「1年6ヶ月後」とか「さらに1年6ヶ月後」といった感じで表示される。
 「1年後」ではないのは、タイトルにもなっている「御菓子司 亀屋権太楼」の店の前に大きな梅の木があり、目白がやってきたり蝉が鳴いたりして季節を表したいからではないかと思う。
 逆に、時間の経過だけでなく季節の移り変わりも伝えたくて「梅の木がある」という設定になったのかも知れない。
 どちらにしても「梅の花が咲いた」という描写がないところは美学だよなと思う。

 「御菓子司 亀屋権太楼」が「江戸時代から続いてきた」という経歴詐称、亡くなった父親からの事業継承、兄弟のお互いへのコンプレックス、新業態のカフェと何十年も和菓子を作って来た「伝統」とのバランス、兄の店乗っ取り、「みつはら」地区出身である従業員達の葛藤、トルコ料理屋と偽装結婚、15年続けていたアルバイト社員の退職、経営不振から倒産まで、「1年6ヶ月後」が続いてもはや何年経ったか分からない、「町の和菓子屋さん」の歴史が語られて行く。
 濃い。

 この和菓子屋さんがどこにあるのかは示されない。でも多分和菓子屋であるところ日本で、かつ、いつもちょっと不思議な日本語を使う登場人物たちが今回はあまり癖のある言葉遣いをしていない。
 一人称が「わっち」であること以外は、特にそこに特徴を出そうとはしていないように聞こえる。
 舞台が割と現実の日本に近くて、時代も割と特定されていて、現実にそのまま起こっているような事件が舞台上でも起きるから、ファンタジー色を薄めにしているのかなと思う。

 劇団員がお一人産休育休を取得中ということで、いつもより一人少ない8人で物語が紡がれて行く。
 当て書きされ、それぞれ「いつもの」キャラクターを演じているのに、どの舞台でも「別人」がそこに現れてくるのが不思議だ。
 人のいい誰かや、理屈っぽい誰か、抜けてるっぽい誰かに、ちょっとひねくれている誰か、怪しいだれかに、気の強いお嬢さんたち、いい人っぽい若者達が役どころや組む相手によって、様々な「役」に枝分かれして行く感じがする。
 分かれた先には別人が立っていて、今そこにある世界の住人になっている。

 MONOが舞台に乗せる世界は、概ね、不穏な気がする。
 今回だって、「和菓子屋さん」と言えばほんわかしてそうに見せつつ、様々な問題が生じて浮き沈みが激しく、舞台の終わりでは「御菓子司 亀屋権太楼」は(恐らく倒産して)建物もなくなっていて、最後に残された梅の木も伐採されるところである。
 「御菓子司 亀屋権太楼」にいた人々が今どうしているかも語られることはない。

 ただ一人、アルバイト歴15年で辞めていった青年が45歳になり、解体業に就き、その梅の木の伐採に参加しようとしていることだけが示される。
 他の人たちはどうなった!
 舞台に向かって叫びたくなったけれど、もちろん答えはない。その語らなさ、さっぱりさも美学だなと思う。

 2時間ガッツリ集中した舞台だった。

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