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2024.03.09

「マティス 自由なフォルム」展に行く

 2024年3月7日、国立新美術館で2024年2月14日から5月27日まで開催されている「マティス 自由なフォルム」に行って来た。
 平日に行った甲斐があって、時間指定制ではなかったけれど、かなりゆったりめに見ることができた。
 また、3日後、NHK「日曜美術館」で「マティス 色彩の冒険 南仏・タヒチへの旅」が放映される。その前にというのもタイミングが良かったのだと思う

 「色彩の道」という最初のセクションでは、「マティス」と聞いて浮かべるのとは違うイメージの絵画が多かったと思う。
 何というか、「その前」のフェルメールみたいな感じといえばいいのか、「らしさ」を獲得する前、時代が求めていたというその時代に普通だった技法で描いた絵という感じがする。
 それでも「マティス夫人の肖像」など反対色で彩られており、「フォービズム」の走りらしい。
 「フォービズム」は「野獣派」などと訳されているそうで、うーん、別に「野獣」という感じはしないけどなぁと思う。むしろ、柔らかい感じすらある。
 その時代に与えたインパクトは野獣級、という意味だと思えばいいのかも知れない。
 そうして、少しずつ色彩が明るく鮮やかになって行く。

 マティスは自らの「アトリエ」を愛していたらしい。この美術展でも一つのセクションを構成している。
 自分の好みのものをコレクションし、実際に絵に描き込んでもいる。
 その「コレクション」していた物と、そのコレクションが描き込まれた絵が並んで展示されていて楽しい。
 肘掛け椅子は、流石に食卓の椅子ではないにしてもそれほど強烈な変わった椅子ではないけれど、マティスの手にかかると画面にはみ出すほどの「椅子が主役」の絵になり、こちらこそ強烈な色彩で描かれている。

 買った物だけでなく、マティスは自身が作った彫像もアトリエに保管していたらしい。
 絵画も彫像もシリーズ物というのか、同じテーマでいくつもの作品を作っていたようで、同じタイトルの作品が二つ三つと並べて展示されているのを見るのが面白い。
 どんどんデフォルメされていったり、ところどころに飾られているアトリエ内部やマティス自身が写されたモノクロ写真の中から、目の前にある彫像を探すのも楽しい。

 そういえば、途中にマティスと彼のモデルを務め後年には助手にもなったリディア・デレクトルスカヤの二人の写真があった。
 マティスというと、ミュージアムショップにも並んでいた「ジヴェルニーの食卓(原田マハ著)」のイメージが強く、あの小説にも登場していたリディアという女性と同一人物かしらなどと思ったりした。

 「舞台装置から大型装飾へ」というセクションでは、「ナイチンゲール歌」というバレエの映像が流れていた。
 マティスは、舞台装置の依頼も受けていて、「ナイチンゲールの歌」というバレエでは衣装も手がけたという。
 衣装の中でも「ナイチンゲール」の衣装は鳥の頭が付いていて、かなりユーモラスである。踊っている姿はさらに楽しい。
 横13mを超えるバーンズ財団の装飾壁画も引き受けていたそうで、その下絵のパターンが次々と現れる動画が壁に映し出されていた。同時に、そのうちのいくつかの下絵は元の大きさで展示されていて、これも楽しい展示の方法だと思う。
 色が付いたりモノクロだったり、ポーズが少しずつ変わったり、試作を重ねている様子が窺える。計算もしつつ、実際に「手を動かして試してみる」タイプの画家だったのかなと思う。

 タペストリの原画や、実際に織られたタペストリも展示されていて、「パペーテ タヒチ」と題されたブルーの地にグレーで海の生き物が浮かび上がるようなタペストリがちょっと欲しくなった。
 その前に「パペーテ オーストラリア」(だったと思う)と題された下絵も描かれていて、しかし技術的な問題でタペストリにはならなかったなどという解説を読むと、ぜひそちらの下絵も見てみたいと思う。

 展覧会のタイトルにもなっている「自由なフォルム」というセクションに入ると、「マティス」と聞いてイメージする強烈な色の切り絵の世界が広がる。
 おぉ! これこそがマティスだよ! と思わせる、切り絵の数々だ。
 特に青を使って人や波を表現した切り絵は、「ザ・マティス」という感じがする。
 何となく切り絵はそのものずばりの形に切り抜いていると思っていたので、ピースを組み合わせるように貼り合わせて形を作り、その重ね方で濃淡やでこぼこもできていると分かったときには、大げさに言うと衝撃だった。

 このセクション以降は写真撮影が可とされている。
 そうなるとやはり「花と果実」のインパクトは強烈だ。
 幅の違う5枚のキャンバスに描かれていて、白地に明快な色の切り絵が規則的に並んでいて、いかにも南仏という感じがする。開放的で温かくて穏やかだ。くっきりとして、南国リゾート風でもある。
 その絵が縦4m、横8mで広がっている。この絵を発注した人は、本当に自宅に飾ることがあったのかぜひ知りたいところである。

 最後のセクションは、マティスの遺作ともいうべきヴァンス礼拝堂がテーマだった。
 壁面に描かれたタイル絵のやステンドグラス、司祭たちが着る制服、そもそも外観も内装もマティスがデザインし、指示したらしい。
 その礼拝堂内部が再現されていて、ステンドグラスを通して入ってくる光が動くところまで見ることができる。
 いつか現地に行ってみたいと思う。
 そういえばシャガールの絵をステンドグラスにした南仏の教会に行ってみたいと思っていたことを思い出した。せめて教会の名前くらい思い出すところから始めなくては、と思った。

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