« 「Riverdance Japan 2024」のチケットを購入する | トップページ | 「イノセント・ピープル」を見る »

2024.03.16

「骨と軽蔑」を見る

KERA CROSS 第五弾「骨と軽蔑」
作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演 宮沢りえ/鈴木杏/犬山イヌコ/堀内敬子
    水川あさみ/峯村リエ/小池栄子
観劇日 2024年3月16日(土曜日)午後0時30分開演
劇場 シアタークリエ
上演時間 3時間5分(20分間の休憩あり)
料金 12500円

 ロビーでは、パンフレットや過去作品のDVD、上演台本等が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 KERA CROSSの公式Webサイト内、「骨と軽蔑」のページはこちら。

 舞台は、東西冷戦時代のドイツがモチーフになっていた、っぽいと思う。
 開演してすぐ、犬山イヌコが登場し、客席に向かって思いっきり「日比谷のみなさん」と話しかけたり、前列の人をじーっと見たりする。
 その中で「ここにいる人たちは数十年未来のどこかの国の日比谷ってとこにいる」といった感じの台詞をしゃべっていたし、その後、「同じ国の人同士で殺し合うことはない」という台詞があったり、「東に偵察に行ってきた」的な台詞を水川あさみがしゃべったりしていたから、イメージとしては間違っていないと思う。

 ただし、「そこ」では常に大砲の音が鳴り響き、その屋敷の壁には大きな穴が開き、戦闘が行われて町はもちろんのこと兵士としても男性はほとんどいなくなってしまっているらしい。
 兵士のほとんどは女性か子供だという。
 この物語に登場するのも、峯村リエ演じる兵器工場の社長夫人のグルカ、水川あさみ演じる社長秘書であるソフィー、犬山イヌコ演じる社長一家のメイドであるネネ、鈴木杏演じる次女のドミー、宮沢りえ演じる長女で売れない作家のマーゴ、小池栄子演じるナッツはマーゴの著作のファンであり、堀内敬子演じるミロンガはマーゴの担当編集者だ。
 女優7人による芝居である。

 男性は、「隠れた存在」としてであっても3人くらいしか感じられない。
 病に倒れて療養中の社長、徴兵から逃れようと姿を消した長女マーゴの夫(名前を呼ばれていたけど忘れてしまった)、ラジオのアナウンサーだ。
 そういえば、舞台を見ているときは全く気にならなかったけれど、街中からも戦場からも姿を消しているそこそこの年齢の男性がラジオのアナウンサーをしているのは変な気がしてきた。

 殺伐とした時代の殺伐とした生業の殺伐とした家である。
 そこでは、グルカはアル中で言っていることが時々変だし、実はマーゴ宛てに届いていた夫からの手紙をグルカとドミーとネネがぐるになって隠しているし、マーゴの本は売れないし、ネネはマーゴの夫の写真を利用して「徴兵逃れの悪人」として指名手配してもらおうとしているし軍需産業で儲かっていそうな生業も家にお金が入って来ずにネネの給料も払えないくらいみたいだし、ソフィーは社長とできているみたいだし、何というか明るい要素がカケラもない。
 だからこそ、メタを多用して笑いに持って行こうとしているのか、そのギャップを狙っているのか、全く違う意図があるのか、どれだろう。

 久々に堀内敬子を舞台で拝見して嬉しい。高めで聞き取りやすい特徴のある声で、「虫」の役で登場したときに一発で「堀内敬子だ!」と分かった。「虫」として「この後登場したときには全く別の人格ですから混同しないで」的なことを相手役に向けて言っていて、何? と思ったら、次に舞台に登場したときは同じ衣装で編集者役だった。そういうことかと可笑しい。
 逆に、ナッツを演じているのが小池栄子だと気がついたのは休憩後だった。我ながら鈍い。「小池栄子だ」と分かって聞いていれば小池栄子の声だけれど、分かる前は「この女優さん誰だっけ?」とずっと思っていた。マヌケである。

 マルゴに届いていた夫からの手紙を書いていたのは実はナッツだったり、ネネが予定通りマルゴの夫の写真を「指名手配」のように街中に貼ることに成功したり、グルカが夫の死と同時に「やり手社長」に変身してソフィーと二人三脚で軍需産業の会社をもり立て始め挙げ句の果てに敵と味方の両方に武器を売り始めたり、最初の頃と雰囲気は変わらないのに何故か舞台上で起きる出来事はどんどんきな臭くなって行く。

 そのきな臭さはマルゴの文学賞受賞でさらに顕在化して、マルゴの夫から祝電が届いたのはいいとして、グルカは祝いの言葉もなく賞金を家に入れろと主張し、ドミーは祝いの言葉は言ったもののマルゴの夫のことが好きだったのだと言い出し、ミロンガは担当編集を降りると宣言し、ソフィーが徴兵されることになる。
 そして、初めてマルゴの夫から「手紙」が届き、何故か和解したマルゴとドミーの姉妹がきゃっきゃ言いながら手紙を読み始めると、そこには自分は東出身で今は東の軍に所属していること、東ではマルゴたちの家が「西のお城」と呼ばれており、手紙を書いている日の10日後に東の軍が拠点するとためにそこを襲撃するのだと書かれていた。

 一気に血の気が引き、ドミーが「姉さん、今日がその10日後よ」と言って暗転。
 幕である。

「どうしてそんなことをしたの?」と聞きたくなることは結構あった気がするし、意外と拾われないまま最後まで進んで行って「ん?」と思ったりもした。
 舞台の照明も暗めだし、楽しそうなことは起こっていないし、そこに幸せな人はいない。幸せな人がいるなら、グルカが「虫」に「幸せにして」と願う筈がないし、夫が自分に財産を残したからと言って「幸せになりたいという願いが叶った」と大喜びするはずもない。
 ただ、理不尽なことは多いけれど、意外と殺伐としているようには見えない。何というか、起こっている物事に対して、その場にいる人たちは恬淡としている。あまり感情を表に出していないような感じがする。パニックになったり騒いだりしている人はいない。
 だから、見ていて辛くない。
 ガッツリ集中させられる舞台だった。

|

« 「Riverdance Japan 2024」のチケットを購入する | トップページ | 「イノセント・ピープル」を見る »

*芝居」カテゴリの記事

*感想」カテゴリの記事

コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。

 正直に申し上げますと、私は、現在のウクライナやガザの情勢や日本の立ち位置などを反映し痛烈に皮肉っているというところまで思い及んでおりませんでした。
 お恥ずかしい限りです。

 それにしても、というお言葉に甘えさせていただくと、女優陣7人みなさん素晴らしく強烈に惹きつけられる舞台でした。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2024.03.20 00:21

姫林檎様

私も観ました。
そして私も、これはドイツの東西問題が下敷きかと思いましたが、観ているうちに、それだけじゃないなと気づきました。
ウクライナやガザも念頭に入れてますよね。
この家族は、戦時中であり、武器を扱っている企業を経営していながら、戦争に対してどこか他人事のような雰囲気を醸し出していたので、これは戦争を対岸の火事のように見ている日本に対しての痛烈なメッセージでもあるのではないかと感じました。
最後のしっぺ返しには震えましたよ。

それにしても、女優全員素晴らしかったですね!
犬山イヌコさんの、こちらの世界との懸け橋っぷりは楽しかったし、姉妹二人の浮世離れした雰囲気というか、全く戦争に興味がなくほぼ自分のことしか考えていない感じや、堀内さんの底が知れない、本心を見せない様子、小池さんの、訛りがあってこの中で一番素直な人柄などなど、皆愛おしかったです。
峯村さんは、退廃的な前半とは打って変わって、後半は使命とソフィーを得て、生き生きしてましたね。
水川さんは、唯一戦地に赴く存在で、不安を吐露するシーンには泣けました。
それぞれ本当に良かったです。
いい舞台でした。


投稿: みずえ | 2024.03.18 11:55

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 「Riverdance Japan 2024」のチケットを購入する | トップページ | 「イノセント・ピープル」を見る »