「リア王」を見る
PARCO PRODUCE 2024「リア王」
作 ウィリアム・シェイクスピア
翻訳 松岡和子
演出 ショーン・ホームズ
出演 段田安則/小池徹平/上白石萌歌/江口のりこ
田畑智子/玉置玲央/入野自由/前原滉
盛隆二/平田敦子/秋元龍太朗/中上サツキ/王下貴司
岩崎MARK雄大/渡邊絵理/高橋克実/浅野和之
観劇日 2024年3月23日(土曜日)午後1時開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス
上演時間 3時間(20分間の休憩あり)
料金 11000円
ロビーではパンフレット等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
開演前、幕が下りている舞台も随分と少なくなった気がする。
この「リア王」は幕が下りていて、ちょっと驚いた。
そして、幕が上がってみれば、真っ白い壁がかなり手前にあって、その白さと明るさにさらに驚いた。
幕開けのシーンがどんな感じだったか、すでに覚えていないけれど、幕開けで動いていたのは玉置玲央演じるグロスター伯の次男であるエドモンドだった気がする。
男性陣はスーツ姿、段田安則演じるリア王の娘3人は、「阿佐ヶ谷姉妹か!」と言いたくなる感じのピンクのワンピースである。
白い壁はホワイトボードのようで、ペンで場所が書かれたり、OCRで頻繁に登場する手紙が映し出されたりする。
椅子も何だか会社で使われているようなキャスター付きの椅子だったりして、舞台セットと衣装は「会社」っぽい。
王政の王の周辺などというものは、王を社長とした会社と同じようなもの、なのかも知れない。
リア王というと「口下手なコーディリアが父への愛を語れなかったばかりに勘当され、リア王は全財産を譲った姉娘二人からことごとく邪険にされて追い出されてしまう」話というイメージで、そういえば最後はどうなる、というのを覚えていなかった。
リア王一家以外の登場人物も全く記憶になくて、エドモンドが策略を巡らすのを見て「こんな話あったっけ?」と思ったりしていた。
エドモンドは、浅野和之演じる父のグロスター伯を追い落とし、小池徹平演じる兄のエドガーを騙して流浪の身に落とさせ、江口のりこ演じる姉娘のゴネリルと、田畑智子演じるリーガンの二人を手玉に取って国の実権まで握ろうとするので、この「リア王」という物語を動かす側、しかもかなり中枢にいることは間違いない。
でも、ここまで出張って来ていることが意外だった。
こんな話だったっけ? という感じである。
イメージで言うと、ゴネリルとリーガンの二人はいかにも「悪女」だけれど、ゴネリルの屋敷に逗留しているときのリア王とその家来達の振る舞いは決して褒められたものではない。
何か、ゴネリルの言っていることも分かるなー、と思ってしまう。
あと、そのゴネリルに反対を表明する、盛隆二演じるゴネリルの夫オールバニー公爵が、こんなに普通の善人だとは思わなかったし、入間自由演じるリーガンの夫コーンウォール公がここまでリーガンと一心同体の導火線の短いイヤな男だとは思わなかった。
要するに私の思っていたところの中心人物以外の人物を全く覚えていない。
そんな感じだったので、リア王とコーデリアの出番が意外と少なくて、ちょっと驚いた。
コーデリアは、「不言実行」を口にしつつ、父王を救うべくフランス軍を率いてイギリスにやってきたもののあっという間にイギリス軍に敗戦して捕らえられてしまい、もう「何やってんの?!」と言いたくなる体たらくである。
リア王の忠臣である高橋克実演じるケント伯も、変装とも言えないような変装をして、ゴネリルの従者であるオズワルドを痛めつけているだけで、あまり役に立っていない。
リア王に味方はいても、あまり有能ではなさそうである。
一番有能で周りが見えているのは、平田敦子演じる道化だ。道化に平田敦子を配役するなんて、それだけで舞台は成功したようなものである。
だから余計に、この舞台は「リア王一家の物語」というよりも「グロスター伯一家の物語」という印象が強い。
グロスター伯だって、キレたコーンウォール公に目を潰されてしまい、盲目の状態で屋敷を放り出されてしまうからいい人そうに見えるけれど、そもそも彼が子育てを間違えたからエドモンドが反旗を翻し、エドガーは簡単に弟に騙されるような単細胞に育っちゃったんじゃん、という気もする。
エドガーの「狂気の乞食に身をやつして身の安全を図る」という作戦はいい作戦だったのか。こちらも何だか納得が行かない。
登場人物たちが現代人のような格好をして、一昔前に活躍したOCRを駆使しているからか、何というか、登場人物達の行動の非合理性が際立って見えるように感じる。
そして、「リア王」というこの舞台は、どう考えても「悪役」たちの方が魅力的だ。お友達になりたいとは思わないけれど、演じるのはこっちの方が楽しそうだよなぁと思う。
グロスター伯をどっちにカウントするかは微妙なところだ。
そのグロスター伯は、「狂った乞食」だと思っていた男が実は出奔した息子だと知って衝撃の余り死んでしまう。
リーガンの夫は、召使いに刺されて死んでしまう。
ゴネリルは、コーデリアも殺すよう指示し、エドモンドを争った挙げ句にリーガンも毒殺し、自死する。
そのエドモンドも経緯は忘れちゃったけど、悪事がバレて殺されてしまう。
リア王は(描写されていなかった気もするけれど)、共に獄に繋がれていたコーデリアの死のショックもあり死んでしまう。
王統は絶える。
ゴネリルの夫だったオールバニー公が次の時代を担うようだ。
しかし、彼が頼りにしようとしたケント伯はリア王を最後の主君と決めているようで去ってしまうし、エドガーはショックの余り膝を抱えて反応しようとしない。オールバニー公が悪人でない(という設定な)のは分かっているけれど、それでも漁夫の利というか、この人がイングランドを全てかっさらって行くのだなという気はする。
「リア王」がどんな物語なのかもよく分かっていないにもかかわらず、この舞台はきっと新しい「リア王」なんだなと思った。
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