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2024.04.14

「カラカラ天気と五人の紳士」を見る

シス・カンパニー「カラカラ天気と五人の紳士」
作 別役実
演出 加藤拓也
出演 堤真一/溝端淳平/藤井隆/野間口徹
    小手伸也/中谷さとみ/高田聖子
観劇日 2024年4月13日(土曜日)午後2時開演
劇場 シアタートラム
上演時間 1時間10分
料金 10000円

 ロビーではパンフレット(700円)が販売されていた。
 何というか、紛うかたなき不条理劇だったので、購入して読んでみればよかったかも、と思った。

 ネタバレありの感想は以下に。

 シス・カンパニーの公式Webサイト内、「カラカラ天気と五人の紳士」のページはこちら。

 舞台セットは、地下鉄駅のホーム、という感じだ。
 出口表示があり、床面には点字ブロックが貼られている。舞台に向かって右手に太い柱があり、途中からハシゴがかけられている。
 別役実の芝居というと、舞台の真ん中より少し外れたところに電柱が立っている、というイメージがある。
 その地下版、なのかも知れない。

 堤真一、溝端淳平、藤井隆、野間口徹、小手伸也が演じる、スーツだったりジャケットだけ脱いでいたりといったサラリーマンっぽい5人の男が棺桶を持って入ってくる。
 棺桶を置く台も持ってきていて、その台をどう見ても棺桶の長さよりも遠い場所に置き、「どうやって棺桶を台の上に乗せるか」で一悶着ある。
 5人の男達は、それが不毛な議論で、台を置く場所をちょっと変えればいいだけだということに気がつかない。
 そういえば忘れていたけど不条理だよ、理屈は通じないんだよ、と勝手に思う。

 その後の展開も、正直よく分からない。
 大体、小手伸也演じる男が「アメリカ合衆国の首都はどこか」というクイズ付きの抽選に「ニューヨーク」と書いてはがきを出したら、ハズレの1等賞として棺桶組み立てキットが当たった、というのは何なんだと思う。
 そして、その当たった棺桶を会社の同僚らしき5人の男でどうして持ち運ばなければならないんだと思う。
 どこへ行き、何をしたいのか。

 もちろん、どこへ行き、何をしたかったのか、などということは劇中で一切語られない。
 語られない代わりに、いつの間にか野間口徹演じる男が死んで棺桶に入るという話になっており、死ぬために柱についたハシゴを登らされる。
 「柱から落ちて痛いのは嫌だ」という男に、「天井についた電球を外し、ソケットに手を突っ込めば感電死できる」と堂々と勧める男がいて、他の男たちはどうもこの展開に疑問を持っていないらしい。

 そのくせ、時々「あ」とか言って、普通のことに気がついてみたりする。
 一貫性がないって気持ちが悪いと思う。

 そこに、高田章子と中谷さとみ演じる2人の女が入って来て、ショッピングカートから白い布を取り出し、さらに荷物を広げ出す。
 彼女たちには妙な迫力があり、5人の男達が持っていたちょっと不穏な空気と不条理などあっという間に吹き飛ばして、それまで場を支配していたのとは別の不条理で持ってその場をかっさらう。

 彼女たちは、合衆国の首都を当てるクイズに正しく回答し、商品として青酸カリをもらい、それを飲んで死のうと地下鉄駅に来たらしい。
 何しろクイズに正解しているのだから、場を支配する力も強いというものである。不条理の力だから、クイズの正解不正解が逆であってもいいような気もするけれど、多分、登場人物達はそんなことは誰も気にしていない。
 天気予報を聞こうと電源を入れたラジオから「賞品として青酸カリを発送する筈が間違えて重曹を発送してしまった」というニュースが入り、女たちはショックを受け、傘を振り回して飛び出して行ってしまう。

 こういう「逆らったらちょっと怖そうな女」を演じる高田聖子は本当に生き生きと目が据わっているなと思う。
 そこにピッタリと付いて行く中谷さとみももの凄くサマになっている。格好いい。
 5人の紳士を演じる男優陣が、どことなく「こんなんでいいのかな?」と言いたげに見えるのとは対照的だ。多分、実はずっと「カラカラ天気」が続いていて水も飲めないという状況に男たちは戸惑い、女たちは怒りを覚えているんだろうと思う。

 「水も飲めない」状況に、男たちは「分別を持ち」「分別を持った人間は自殺はできない」ので「ただ死を待てばいい」と結論する。
 棺桶は、踏切に入り込んで電車にパラソルで襲いかかろうとした女たちの遺品を収めてしまっており、死んでも入る場所はもうない。
 しかし、男達はそれぞれ好きな姿勢で好きな方を向き、ただ待ち始める。
 暗転して幕、だ。

 もしかして「ゴドーを待ちながら」のウラジミールとエストラゴンも、死を待っていたのか?
 何故かそう思った。

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コメント

 kaoru様、返信ありがとうございます。
 不条理劇の楽しみ方ですか・・・。
 正直なところ、不条理劇って苦手です。何というか、ものすごーくツッコみたくなってムズムズしたり、分からなくってごめんなさい、という気持ちになってやっぱりムズムズしたりします(笑)。
 私の拙い感想をお読みいただいているとのこと、過分のお言葉をいただき恐縮です。
 いつも面白いお芝居に出会えますように、お芝居を楽しめますように、と思っています。
 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2024.04.22 22:30

不条理劇の見方が分からなくて、理屈で説明できる方向に逃げたというのが、本当のところです。最初よく笑っていた観客が、しまいには笑わなくなったというのが興味深くて、妄想しました。もし近未来だったらと考えたら、薄ら寒さを覚えたのも本当ですが。不条理劇の楽しみ方を知りたいです。観劇の幅が広がりそうな気がします。
ブログはよく拝見しています。舞台を観て、よく分からなかったところが、こちらの観劇記で解決して頂けたり。自分が観る予定の演目がエントリーにあがると、観劇後に拝読するのを楽しみに、劇場に出向きます。

投稿: kaoru | 2024.04.21 19:19

 kaoru様、コメントありがとうございます。
 舞台に登場する彼らがいつどこにいるのかということを考えてもみませんでした。
 kaoruさんの印象をお聞かせいただき感謝です。
 改めて、希望がないからこそのはしゃぎっぷりと考えると頷ける気がいたしました。
 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2024.04.21 09:19

不条理劇とみせかけて実は不条理ではなく、近未来あるいはパラレルワールドが舞台で、そこでは普通に生を享受する層と、ただ死ぬのをまつしかない、生存権を持たない層に二分された人類がいて、舞台上の彼らはその生存権を持たない層で、「希望」の一切ない生とはこのようなものだよと言っている戯曲なのかと思いました。すみません妄想です。だったら怖いなという妄想です。

投稿: kaoru | 2024.04.20 22:17

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