「S高原から」を見る
青年団「S高原から」
作・演出 平田オリザ
出演 島田曜蔵/大竹直/村田牧子/井上みなみ
串尾一輝/中藤奨/永山由里恵/南波圭
吉田庸/木村巴秋/南風盛もえ/和田華子
瀬戸ゆりか/田崎小春/松井壮大/山田遥野
観劇日 2024年4月19日(金曜日)午後7時30分開演
劇場 駒場アゴラ劇場
上演時間 1時間45分
料金 5000円
ロビーでは戯曲の他、アゴラ劇場グッズ(クリアファイル等)が販売されていた。
また、これまでの青年団の公演の舞台プランのスケッチが展示されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
駒場アゴラ劇場が閉館することを知り、「駒場アゴラ劇場で青年団の芝居を見ておかなくては!」と思った。
駒場アゴラ劇場に行ったのは2回目だと思う。
チケットを受付で受け取り、チケットに整理番号が書かれていて、番号順に入場して自由席というのは久しぶりだった。何だか緊張してしまう。
最後列のど真ん中もいいなぁと思いながら、前から2番目の中央で観劇した。
S高原がどこかは分からないけれど、舞台はサナトリウムのロビーである。
そこは「療養所」で、患者たちは療養のために自由意志で入所している。彼らの病は伝染性のものではなく、入所しているときも散歩に行ったり、彼らの言うところの「下界」に行くことも自由のようだ。
しかし、彼らの多くは昼寝を必須とするほど体力が落ちていて、お隣の部屋にいる誰かが明日にも亡くなるかも知れない、という会話が普通に交わされるくらいに死が身近なところにある。
そういう場所だ。
堀辰雄の「風立ちぬ」の話が何度も出てくるので、「サナトリウム」「結核」というイメージが強いけれど、もちろん小説を読んだことがある訳ではなく、ジブリ映画をテレビで見ただけである。
また「魔の山」がモチーフになっていると書かれていて、「すみません、魔の山がどんな話なのかイメージすら浮かびません」と思っていたら、スイスの結核療養所を舞台にした小説なのだそうだ。知らなかった。
しかし、配られたリーフレットによると、初演の際はむしろHIVの問題を意識していたらしい。
「高いお金を払っているんだから」と入所者が言うように、至れり尽くせりの施設のようで、ロビーのテーブルにあるベルを鳴らすと看護人の人が注文を聞いて飲み物を運んで来てくれる。
季節は夏で、面会人が多く訪れている。
長期間「お見舞い」に滞在する人や、麓のホテルに泊まっている人、麓からタクシーで往復する人もいる。
療養所のスタッフも、恐らくはお給料が良いだろうし、登場する人たちは概ね「若くて経済的に余裕がある」人たちだ。
何かもう、とにかくヒリヒリしている子たちだな、という印象がとにかく強い。
エキセントリックと言えばいいのか、常に「いや、怖いから!」と思いながら見ていた気がする。
舞台と客席の距離が近い分、舞台を見ているのではなくて、舞台上に作られたロビーから客席に向かって空間が広がっていて、客席にいる自分もロビーの一部になっているというか、壁にでも寄りかかってそこで起きていることを見ていて、針でつついたらパンッ!と破裂しそうな若者たちと対面しているような気分になってくる。
怖い。
登場人物の多くが若者だし、舞台上で展開しているのは、概ね、恋愛である。
入所した彼を待つことができなくて結婚を決めた女性や、同じ入所者の女性をモデルに絵を描き始め元婚約者から気持ちが離れてしまった男性、一緒に入所している妹にもの凄い執着を見せている男性や、かなり加減を悪くしている男性と友人たちとお見舞いに来ている女性など、舞台で起こっていることは概ね恋愛模様なのだ。
もの凄いギャップのような気もするし、当然のことのような気もする。
「死」が目の前にありすぎるから、登場人物たちの半分くらいは「風立ちぬ。いざ生きめやも。」の「めやも」に拘り続ける。
その意味がマイナスというかネガティブな意味であることが許せない、みたいな雰囲気はずっとあるように思う。
そうしたら、ヒリヒリした感じになるのは当然のことのような気もするけれど、その場にいたときは、彼らがヒリヒリしているのは、そこが療養所で自分や友人たちの死を感じているからではなく、彼ら自身の理由でヒリヒリしているような感じがした。
時代の空気みたいなものがすでにヒリヒリして場を支配しているものの、むしろ、その療養所に入所している彼らは外界からやってくる見舞客たちが持ち込まない限りはそのヒリヒリ感とは無縁でいられる、みたいな雰囲気があった。
単純に、恋の終わりがあちこちにあったからピリピリしていただけかも知れないけれども、場の力はあるはずで、それだけではないだろうと思う。
そこに大団円はなく、ただ死が近い一人の入所者だけを残して暗転する。
でも、ここで幕が下りる理由があるはず、と思った。
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