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2024.04.27

「帰れない男~慰留と斡旋の攻防~」を見る

M&Oplaysプロデュース「帰れない男~慰留と斡旋の攻防~」
作・演出 倉持裕
出演 林遣都/藤間爽子/柄本時生
    新名基浩/佐藤直子/山崎一
観劇日 2024年4月27日(土曜日)午後1時開演
劇場 本多劇場
上演時間 2時間10分
料金 8000円

 ロビーではパンフレットが販売されていた。
 ネタバレありの感想は以下に。

 M&Oplaysの公式Webサイト内、「帰れない男~慰留と斡旋の攻防~」のページはこちら。

 もの凄く入り組んだ「お屋敷」の中庭に面した奥まった座敷が舞台である。
 暗転からライトが入ると、そこには3人の男女がいて、中庭の方を向いて(客席には背を向けて)じっと固まっている。台詞もない。しばらくその「静止の時間」が続いたと思う。
 ふいに3人がしゃべり始め、降っているか降っていないかも分からない霧雨のような雨を見定めようとしていたのだと分かる。

 林遣都演じる作家が、藤間爽子演じるこの屋敷の若い女主人が大通りで馬に蹴られそうになっていたところを助けて、招待を受けてここにいる、という感じらしい。
 着ていた服は洗濯しています、屋敷の主人が帰ってくるまでお待ちください、等々、佐藤直子演じる古株っぽい女中頭も、新名基浩演じる主人に心酔しているらしい書生も加わって、客を引き留めようとしている。
 元々が「客の多い屋敷」らしい。

 そうこうしているうちに山崎一演じる主人が帰ってきて、作家のファンであると伝え、もの凄い最敬礼を示す。
 そこで時が飛んで、この作家は結局延々とこの屋敷に滞在し続けることになったらしいことが分かる。
 榎本時生演じる作家の友人がやってきて、作家に「家に帰る」ことを求めたことで、作家の妻は、作家の恩人とも言える男に迫られ、自殺未遂をしていたことが分かる。

 この家の主人は事業をしているらしいから当然のような気もするけれど、自分と妻には年の差があるから若い男である作家がいてくれると嬉しい、とか訳の分からないことを言い出したりする。
 あっちもこっちもそっちも歪んでいる。
 「旦那様に前妻が生きていた頃のように戻ってほしい」と切々と言う女中頭(一人しか現れないけど貫禄があってそうとしか見えない)もそうだし、「おまえの妻を俺にくれ」とか言い出す作家の友人だって大概だ。

 歪んでいるというよりも、横恋慕しか存在していないのかも知れない。
 女主人の方は、悪女と言えばいいのか、すべて分かっていて仕組んだりいなしたりしているように見えてくる。
 そして、彼女の場合は素でおかしくなっているようにも見えてくる。何を狙っているのかさっぱり分からないけれど、こういう言葉の使い方で色々と巧みにかわせるのだなぁ、この技術欲しいなぁと思ったりした。仕事で使えないだろうか。

 そして、彼女の着物の数々も眼福だった。
 着物の知識が全くない私が「銘仙かしら」と思った感じのお着物を5〜6枚着替えていたと思う。いかにも若奥様風でかつ、カフェで働いていた女性っぽさも感じさせる、絶妙なラインをついているお着物だったと思う。
 そして、私にはよく分からないけれど、多分、彼女の着こなしも相当に綺麗だったのだと思う。見蕩れてしまった。

 色々な方向に明らかにされない思惑が張り巡らされる中、5日前に作家が「家に戻る」と出て行った屋敷では、女主人が1日姿を現さないと騒ぎになっていた。
 「駆け落ちか」「駆け落ちだったら時間差をつけて出て行ったりしないだろう」と作家の友人も含めて大騒ぎになる中、実は彼も彼女も屋敷に潜んでいたことが分かる。
 作家の方は女中頭が協力していたようだけど、彼女の方には協力者はいなかったっぽい。
 そして、彼と彼女の思惑も、共謀していたのかどうかも、明らかにされない。

 さらに数年後、作家の短編集が出版され、作家の友人も屋敷に呼ばれて出版記念パーティが開催されるようだ。パーティというよりは「宴」かも知れない。
 そこにどんな数年が流れたかはほとんど語られないけれど、作家の妻は今度は作家の友人の家にもいるようになったらしいことが語られる。
 しかし作家とも暮らしていて、女主人はそのことにいらだちを隠そうとしない。
 怖い。
 どこまでも歪みが拡大再生産されつつあるようだ。

 しかし、花を生けていた女主人が置きっぱなしにした鋏でこの屋敷の主人が自殺し、彼の血が飛び散った障子を中庭越しに女主人が見つけ、見つめたところで幕である。
 何というか、誰も幸せになっていない。
 「誰も悪くない」とは言えないけれど、誰が悪いのかはよく分からない。
 舞台上にいる登場人物達は、誰も彼もつくりもののように見える。
 そういうお芝居だった。

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