「七人の墓友」を見る
ラッパ屋 第49回公演「七人の墓友」
脚本・演出 鈴木聡
音楽 佐山こうた
出演 岩橋道子/弘中麻紀/俵木藤汰/宇納佑
ともさと衣/中野順一朗/浦川拓海/おかやまはじめ
桜一花/林大樹/磯部莉菜子/熊川隆一
松村武/谷川清美/大草理乙子
武藤直樹/岩本淳/木村靖司
観劇日 2024年6月22日(土曜日)午後2時開演(初日)
劇場 紀伊國屋ホール
上演時間 2時間20分(15分間の休憩あり)
料金 6000円
劇団創立40周年記念公演ということで、「10年ぶり」というパンフレットの販売と、Tシャツ・台本の販売があった。
上演中の芝居の台本が物販で販売されるのも久しぶりのことらしい。
10年ぶりの販売と聞き、パンフレット(1000円)を購入した。
フライヤーはビニルの袋に入ってロビーに用意され、各自(欲しい人が)取っていくようになっていた。うっかりいただきそびれてしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
何とも身につまされる題材である。
「七人の墓友」というタイトルでありつつ、最初のシーンは岩橋道子演じるヒトミの独白から始まる。この芝居、彼女が狂言回しのようだ。
ヒトミの実家でのバーベキューの日、兄夫婦は兄嫁の実家に同居することを決め、ヒトミは未だ独身のまま、弟はニューヨークで2年同居しているパートナーの男性と一緒に帰国している。
母クニコにはみな事前に伝えているけれど、頑固親父にいつどういう風に伝えるかというのが兄弟の懸案事項である。
当然のことながら「古き良き家族」を夢見ている頑固親父には兄弟の考えや思惑は通じない。通じないどころか届かない。
理解を示す母にまで父は怒鳴りつけ、ついには母から「死んでまであなたと同じお墓に入りたくない」という言葉が出る。
むしろ「よく言った!」的な反応だった兄弟だけれど、母は朗読サークルに入ってその朗読仲間たちと実際に「一緒のお墓に入る」ことを相談している。
近所のファミレスで母と出会い、そのことを知ったヒトミは俄然、焦り始める。意外と保守的だ。
最初のうちは、「うーん、この話、クニコさんと墓友たちの話にした方がすっきりしない?」と思っていた。
「七人の墓友」なのに登場人物が多すぎる。
しかし、進むにつれ、七人の墓友のうち家族が存命なのはクニコさんだけであったり、お墓の場所を決めるに当たりクニコさんの次男のパートナーの親戚が継いでいる寺に見学に行くことになったり、「墓友」にヒトミのライター仲間の女性が振られた勢いで加わったり、墓友のみなさんがクニコさんの家に挨拶に来ようとして頑固親父が逃亡したり、世代や立場が違う人達がいる「普通」の感じがあることに気がついた。
つまるところ「墓」のお話というのは、「家」のお話だったり「家族」のお話だったり「夫婦」のお話だったり、最終的には「生き方」と「死に方」に行き着く訳で、そのことを示すために、「家族がいて、頑固親父と離婚はしないと決めているけど、同じ墓に入りたいとは思わない」クニコさんの存在は象徴的だ。
そして、その「家族」をクニコさんから語らせるのではなく、家族が舞台上にいて家族であることを役者さんたちが演じることで醸し出される何かが重要なんだと思う。
墓友たちはなかなか個性的で、松村武が「大学教授の女性」として出てきたときにはちょっと笑った。何だかハマっているのが可笑しい。
女性たちが何だかんだ「しっかり者」であるのに対して、男性二人は何とも頼りない感じだ。でもその「頼りなさ」が墓友に入れた理由なんだろうなという感じもある。本人も「しっかりしていない方がモテる」と豪語していた。その通りだ。
墓友の一人がファミレスで倒れ、入院し、墓友の中で最初に天国に行くことになった。
葬儀も墓友中心に行われ、相談した寺の境内にある桜の木の下に埋葬される。
そこに、クニコの一家も全員が集まり、子供達3人から別々にメールで知らせを受けた頑固親父も遅れてやってくる。
葬儀の後、頑固親父はクニコさんに深々と頭を下げ「ありがとう」と(恐らくは初めて)告げる。
そこで幕だ。
実のところ、もっともっと色々な要素が詰め込まれていて、詰め込まれたあれこれはほぼほぼ全て綺麗に回収されている。
クニコさんが果たして、頑固親父の家の岡山にあるお墓に入るのか、墓友たちと一緒に桜の木の下で眠ることになるのか、もしかして頑固親父の方も一緒に桜の木の下で眠りたいと言い出すのか、そこは明言されない。
ただ、劇中で「未来に縛られることはない」と繰り返し語られる。どうなるか分からない先のことを心配して今の行動や考えを決めることはない、先のことはどうなるか分からない、だったら今のことは今のことだけを考えて決めればいい、というような意味だ。
確かに、ついつい「先のことを」考えて今の行動を決めたり、考え方を狭めてしまったりすることは往々にしてある。
そんな必要はない。先のことなんてどうなるか分からないのだから、考えても仕方がない。少なくとも先のことの心配で、今の考えや希望を狭める必要はない。
なかなか「先の約束」に縛られたりするし、自分で自分を勝手に縛っていると自分を縛らない相手が不実に思えたりしてしまうし、相手にも自分を縛るよううっかり強制したくなってしまったりもする。
お墓のことを考えている訳ではないけれど、色々と身につまされる舞台だった。
見て良かった。
役の年齢よりも若い役者さんたちが笑い多めに演じてくださったのも良かった。
ラッパ屋、凄い。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます&返信が遅くなってしまってすみません。
みずえさんも「七人の墓友」ご覧になったんですね!
2年前のリーディング公演のリベンジができて何よりです。感激もひとしおだったのではないでしょうか。
私も墓友欲しいです。
散骨だったら「墓友」はいなくても大丈夫そうですが、撒いてくれる人が必要ですもんね・・・。撒いてくれる人が墓友? 最後の一人にはなりたくないな。いや、それは樹木葬でも一緒なのか??? 真剣に考えちゃいます。
クニコさんご夫婦の今後、気になりますよね。
私は夫婦で墓友、樹木葬を選ぶ、に1票です。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2024.06.27 22:02
姫林檎様
私は昨夜観ました。
この公演は元々10年前に書き下ろされたものだそうですね。
そして2年前にリーディング公演を行うはずが、スタッフにコロナ感染者が出て中止に。私この公演を取っていたので、かなりショックだったのを憶えています。当日劇場に行ったら中止と言われたんですよ!
今回は、ラッパ屋には珍しく、休憩ありでしたね。
2時間では収まらなかったんですね。
10年前の作品とは思えないくらい、今にマッチした内容だと感心しました。
私墓友欲しいですよ。
いい着眼点だなと思いました。
樹木葬も、10年前はまだそんなになかったんじゃないかなあ。
そして松村さんの姿は衝撃でした。
私はじめは、マツコさん的な存在なのかと思ったけど、女性なんですよね?
とても面白かったけど、この後この夫婦はどうなるのかなあと心配にはなりますよね。
旦那さんも葬儀に来たからって、奥さんに、いいよ彼らとあそこに入りなよ、とはならないんじゃないかと……しかも離婚はしないのに。
まだ人生は続くので、今後も波乱はありそうな?
投稿: みずえ | 2024.06.25 09:57