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「虹のかけら~もうひとりのジュディ」
構成・演出 三谷幸喜
音楽監督 荻野清子
振付・ステージング 本間憲一
出演 戸田恵子
音楽 荻野清子(ピアノ)/BUN Imai(ドラム)/鈴木陽子(ベース)
観劇日 2024年7月14日(日曜日)午後2時開演
劇場 よみうりホール
上演時間 1時間40分(カーテンコール含む)
料金 8800円
パンフレットは、翌日の千秋楽分を除き完売していると案内があった。
「明日パンフレットだけでも買いに来てください」と戸田恵子が言っていたけれど、それが可能だったのかは不明だ。
ネタバレありの感想は以下に。
一人芝居なのかコンサートなのかその二つを融合させた新しいショーなのか、見終わった後でも「この舞台は**だった」となかなか断言しづらい。
2018年に一人芝居として製作され、今回、ニューヨーク公演をニューヨーク・カーネギー・ワイル・リサイタルホールで行うため、舞台セットをシンプルにして、より「戸田恵子を魅せる」公演になっているという話もあったし、どちらでもいいしどちらでもある、のだと思う。
ただ、恐らくは、「ジュディ」としての台詞や彼女の日記の文章、ジュディ・ガーランドが歌った楽曲の前後に入るMCも含めて戸田恵子がしゃべった言葉には全て「台本」があったと思う。
やはりコンサートを演じる芝居だったというのが正しそうだ。
「彼女の日記」の「彼女」は、ジュディ・ガーランドではない。
と書きつつ、私はほとんど映画を見ないので、「オズの魔法使いでドロシーを演じたジュディ・ガーランド」と言われても実は彼女の顔も思い浮かばなかったし、多分、そもそも映画「オズの魔法使い」を見たことがないと思う。
なので、「ジュディ・ガーランドの付き人だった、ジュディ・シルバーマン」と言われても当然のことながらピンと来ないまま見ていた。
舞台はそのジュディ・シルバーマンが書いた日記から、ジュディ・ガーランドに関する記述のみを抜き出して朗読し、そのときジュディ・ガーランドが映画やコンサートで歌った歌が披露されて行く。
もちろん、幕開けは「オーバー ザ レインボウ」である。
舞台上にはピアノ、ベース、ドラムのトリオが陣取り、生演奏に乗せて戸田恵子の歌を聴くことができる。
この演奏の方々はみなさん「芸達者」で、そもそも燕尾服(だったと思う)で衣装を揃えたところからして格好いいし、要所要所でジュディ・ガーランドの夫を演じて見せたり、鳥の声や家畜の声などなども表現していた。
舞台上にいるからこその活躍である。
それにしても、声の艶と言い、声量と言い、鳥肌が立つような歌声である。
衣装は基本的に「舞台衣装」でコンサートで歌うようなドレスを身につけている。衣装は「ジュディ・ガーランド」と言える。
しかし、舞台上で語られる言葉は「ジュディ・シルバーマン」としての言葉であり、ジュディ・ガーランドの言葉は「ジュディ・シルバーマンが聞いた」という枕詞がそこに付く。
その辺りからしてなかなかトリッキーだと思う。
物語は「オズの魔法使い」のドロシー役オーディションの場から始まる。
そこに二人のジュディは参加し、ジュディ・ガーランドが主役を射止め、ジュディ・シルバーマンは彼女のスタント(代役)を務めることになり、二人の腐れ縁が始まる。
もっとも、ジュディ・ガーランドから見ると二人の関係は「腐れ縁」ではなく「唯一の親友」ということになるらしい。皮肉だ。
そうして、ジュディ・シルバーマンの目から見た「スター」ジュディ・ガーランドが語られて行く。
もっとも、ジュディ・シルバーマンの目に映るのは、スターである彼女ではなく、フランシスという名の恋に恋して、一方的に語り尽くす少しばかり迷惑な女友達である。
その二人の明暗とすれ違いを描くのと同時に、薬漬けになって映画の撮影に遅刻やドタキャンを繰り返した「スター」に対し、ジュディ・シルバーマンは「自業自得だ」と繰り返す。
繰り返されることで、それは自業自得ではあるかも知れないけれど、同時に、10代の少女にドラッグを与えて強制的に集中力を引き出しダイエットさせ睡眠を取らせて搾り取るだけ搾り取った当時の映画会社を批判していることを強く印象づける。
それにしても、見た目はずっとステージ衣装で、声としゃべり方、身のこなしだけで年齢や人物を伝えてしまう戸田恵子って凄い、と思う。
格好いい。
ジュディ・ガーランドは、大スターになった後でも、「追放」と「カムバック」を繰り返す。
その「カムバック」の際の夫が異なっているのは、多分、必然だ。
一方のジュディ・シルバーマンは、テキサスの牧場主と結婚し、子供にも恵まれ、穏やかな人生の中からニュースなどで彼女の活躍を知るだけの生活を送っている。
どちらが幸せか、と考えるのは無意味だ。
そして、ジュディ・シルバーマンが、ジュディ・ガーランドを看取り、物語は終わる。
終わったところで、三谷幸喜の声が流れる。
この舞台は基本的にジュディ・ガーランドの人生を語っているが、小さな嘘もいくつか混ざっている。
そのうちの一つは、「ジュディ・シルバーマン」などという人物はおらず、「虹のかけら」というタイトルの彼女の著書ももちろんこの世に存在しない、ということだ。
淡々と言ってくれるな、やられたよ、とこちらも淡々と思ってしまう。
一番もだえていたのは、「この本をニューヨークで戸田恵子が発見したということは事実ではない」「一晩で英語で書かれたこの本を戸田恵子が読んだということも事実ではない」などという三谷幸喜の言葉に併せて舞台上をごろごろしていた戸田恵子だと思う。
舞台の最後は、マイクなしでの「オーバー ザ レインボウ」である。
この壮大な嘘でジュディ・ガーランドという女性を浮かび上がらせた舞台は、この曲に始まり、この曲に終わる。
色々な意味で格好良すぎでしょう! と思う。
見て聞いて良かった。
楽しかった。
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