「破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~」を見る
PARCO PRODUCE2024「破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~」
作 阿部修英
演出 東憲司
出演 佐々木蔵之介/上田竜也/那須凜/栗原英雄
田中穂先/石原由宇/六角精児 ほか
観劇日 2024年8月17日(月曜日)午後2時開演
劇場 パルコ劇場
上演時間 2時間40分(20分間の休憩あり)
料金 12000円
ロビーではパンフレットや、Tシャツ等のグッズが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
タイトルからして、以前に佐々木蔵之介主演の「君子無朋」を思い出し、「周りに理解されなかったけど実は優秀かつ先進的な君主」のお話なんだろうなと思っていて、実際に見たらやはりそういう感じだった。
佐々木蔵之介はそういう役が似合う。もしかして「佐々木蔵之介にこういう君主を演じさせてみたい」シリーズなんだろうか。
ただ、「君子無朋」のときの「君子」は最終的に成功していたように思うけれど、今回の皇帝フェデリコの治世はというか目論見は成功したとは言えない感じがある。
フェデリコは神聖ローマ皇帝の事実上最後の皇帝だそうだ。
今回の舞台がどこまで史実に忠実なのか分かっていないけれど、女官イザベルの血筋や「新しい言語を生み出す試み」「息子ハインリヒの死」の辺りを無視すれば、解釈の是非はあるにしても、結構史実に沿っているのではないかという印象がある。
実際のところはよく分からない。
佐々木蔵之介演じる皇帝フェデリコが死んで地獄に落ちたか、その審判を受けている場面から始まる。
「罪を告白しろ」と言われたフェデリコが自身の生涯を語るという形で舞台が始まる。
彼を囲むダンサーたちの動きが綺麗である。
皇帝フェデリコは、「戦(十字軍)を止める」ことを目指し、神聖ローマ皇帝になる前もなってからも雌伏し、ローマ教皇からの執拗な要請という名の命令も、ドイツ王に封じた自身の息子ハインリヒからの懇願もかわし、ひたすら財産を築くことに専心してきている。
フェデリコがエルサレムの女王を娶り、エルサレム王を名乗れるようになったことで機は熟したと、やっと十字軍としてエルサレムに出発する。
出発はしたものの何故か温泉三昧、「2年以内にエルサレムを落とす」と言いつつ、1年10ヶ月くらいはイタリア国内にいたらしい。これをサボリだと断じたローマ教皇グレゴリウスはフェデリコを破門とする。
息子のハインリヒがほぼほぼグレゴリウスの腰巾着と化しているのは、多分、信仰心と根っこのところでの単純さが原因のように見える。
ただ、この舞台の中でセリフとしては「3回破門された」と言われていたけれど、記憶では、実際の破門のシーンはあと1回しかなかったと思う。
もっとももう1回の破門の理由を覚えていない。全く当てにならない記憶力である。
エルサレムを治めていたイスラムの主カミール王と連絡を取り、(描かれていなかったけれど)交渉を重ね、ついには、エルサレムを分割統治することとお互いの宗教を尊重することを内容とする協定を結び、戦わずしてエルサレム「奪還」を成し遂げる。
その後は、息子であるハインリヒが反乱と帝位奪還を企てたのを返り討ちにし、目を潰して幽閉したり、フェデリコとカミール王の間に友情が育まれたり、方便のような聖地奪還等々に不満を持っていたグレゴリウスが策を弄してカミール王を暗殺してたり、そのことに怒り狂ったフェデリコが仇を討とうとして息子に止められたり、グレゴリウスが手を回して毒を盛った息子を看取ったり、とにかく波瀾万丈である。
皇帝フェデリコという人は、幼い頃は後に教皇となるグレゴリウスに育てられた割りに、アラブの文化と学問に触れてその先進性に開眼したり、破門を受けるほど宗教や常識に囚われずに発想が自由だったり、為政者として滅茶苦茶優秀な人だったという感じだ。
本人はほぼ「天才」なのに、天才や奇蹟と言ってしまうと1回こっきりで終わってしまう。だからその「奇蹟」を制度化したり仕組みを解明して取り入れたりしていつでも誰でもできるようにすることが必要なのだと主張する。
今聞けば概ね誰でも「うんうん」と頷きそうな話だけれど、十字軍の時代には突飛な発想だったろうし、本人が「天才」である分、どうにも周りに対して説明不足な感じがありありだ。
だから察しが良く概ね頭の方向性が似ているカミールとしか会話が成立していない。若干、フェデリコの不遇と不幸は本人のせいのような気がしてきた。
フェデリコの治世がどうなったのか、どのような最期を迎えたのかといったことについてこの舞台で描かれることはない。
最期は再び、死後の世界である。
そこには、暗殺されたカミール王と、毒殺された息子のハインリヒがいる。二人を殺したのは教皇グレゴリウスだけれど、そういえば、グレゴリウスのその後も気になる。
そして幕である。
天才も息子への接し方は下手だった。
そうまとめてしまうと違うような気がしつつ、つまるところ、そういう話だったようにも思う。
じっと見入り、耳を澄ませてしまう舞台だった。
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