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2024.08.04

「ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-」を見る

COCOON PRODUCTION 2024「ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-」
作・演出 松尾スズキ
出演 阿部サダヲ/黒木華/荒川良々/岸井ゆきの
    皆川猿時/松本穂香/伊勢志摩/猫背椿
    宍戸美和公/内田慈/町田水城/河井克夫、
    菅原永二/オクイシュージ/根本大介/秋山菜津子
    加賀谷一肇/石井千賀/石田彩夏/江原パジャマ
    大野明香音/久具巨林/橘花梨/友野翔太
    永石千尋/松本祐華/米良まさひろ/山森大輔
ミュージシャン 山中信人(三味線)
観劇日 2024年8月3日(土曜日)午後1時開演
劇場 THEATER MILANO-Za
上演時間 3時間5分(20分間の休憩あり)
料金 12000円

 ロビーではパンフレット等が販売されていた。
 8月3日のマチネとソワレ、8月4日の公演は、ミスミミツヒコ役の松尾スズキが体調不良で休演し、根本大介が代役を務めるとロビーに掲示されていた。
 新型コロナウイルス感染症対策というよりも恐らくは劇場の構造上、終演後は時差退庁が実施された。

 ネタバレありの感想は以下に。

 シアターコクーンの公式Webサイト内、「ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-」のページはこちら。

 2012年の再々演は見ているけれど、記憶には全く残っていなかった。何なら「見た」ということ自体を忘れていたくらいだ。
 毎度のことながら、情けない限りの記憶力である。
 劇場がシアターコクーンからTHEATER MILANO-Zaに変わったからか、サブタイトルに「歌舞伎町黙示録」と堂々と地名を謳っている。自分で書いた感想を読むと、2012年の上演のときも「ここは歌舞伎町」と分かるような仕掛けはあったようなので、開き直った、ということなのかも知れない。

 また、2012年は、家出した妻マスと妻を探す夫ヒデイチが物語の重心にいたようだ。実際、今回の上演でも最後を締めたのはヒデイチである。
 しかし、舞台としての中心は、岸井ゆきの演じるふくすけを誘拐したり神様に祭り上げたりするコオロギとその盲目の妻サカエの夫婦にある、ように見える。阿部サダヲと黒木華の組み合わせで夫婦というのはかなりのインパクトだ。

 そしてもう一人、今回の舞台でやけにインパクトを残していたのは菅原永二だと思う。
 何役もこなしていたように感じたけれど、気のせいだったのか。
 そして、菅原永二が演じていた役が、それぞれの場面で物語の行き先を大きくねじ曲げるキーパースンになっていたように思う。そういう印象が強い。

 マイクを使っていたものの、それはそれとして役者さんたちがみなさん声が通っていて、歌の歌詞が聞き取れないことはあったものの舞台上の両脇に歌詞が表示されていたし、「何を言っているか分からない」とか「聞き取りづらい」という面でストレスを感じることはなかった。
 いい声の役者さんが揃うって素晴らしいと思う。

 回り舞台を使って場面転換することが多く、コオロギとサカエの家だったり、ミスミの研究室だったり、ふくすけを保護した病院だったりしつつ、物語の舞台の多くは歌舞伎町である。
 その歌舞伎町の街中に電柱が1本立っていて、何となく別役実へのオマージュなのかしらと思った。 

 物語は多分、コオロギが警備員として勤める病院に薬剤被害を受けて生まれて来て、同じように薬剤被害を受けて生まれてきた12人の乳児はホルマリン漬けにされてしまった中で一人だけ生き延び、しかしずっと監禁されていたふくすけが、発見され保護され連れられて来るところから始まる。
 このふくすけを監禁していたのが製薬会社社長の息子でアルミスミミツヒコで、私が見た回は松尾スズキが休演して根本大介が代演を務めた1回目の上演だった。
 上演前はロビーに出されていた掲示に気がついておらず、代演であることも全く気づいていなかった。凄く舞台に溶け込んでいたと思う。

 荒川良々演じるエスダヒデイチは、秋山菜津子演じる妻のマスを探して歌舞伎町にやってきた。妻が行方不明になったのはもう10年以上前で、未だに見つかっていない。
 歌舞伎町で松本穂香演じるフタバというホストに入れあげて2000万円以上の借金があるという女と知り合い、皆川猿時演じるルポライターを紹介してもらってマスを探そうとする。

 その歌舞伎町では、猫背 椿、宍戸美和公、伊勢志摩演じるコズマ三姉妹が町を牛耳っており、どんどん勢力を拡大している。そこにマスが加わることでさらにその勢力は拡大し、同時に関係各方面から多大な恨みを買うようになっているらしい。
 それにしてもインパクトのありすぎる三姉妹だ。格好いい。

 この三組の因縁が歌舞伎上で絡みまくって果たして、という感じで物語というよりは「時」が進んで行く。
 理不尽なことばっかり起きて、登場人物たちにしてみれば「どうしてこんなことが!」とか「どうして私(たち)ばっかり!」みたいなことしか起こらなくて、かと言ってそう言っている人々が善人という訳ではないし、むしろ悪意に満ちた言動を取りまくっている。
 酷いことしか起こっていない筈なのに、何故か舞台全体は軽やかで明るい。重苦しさとか暗さとかは、何故かほとんど感じない。

 むしろ、見ているときは「歌舞伎町とジャズって似合うなぁ」という阿呆な感想が結構常に浮かんでいた。
 三味線の生演奏が入っていてこの感想はどうかと思うけれど、しかし、三味線とジャズも合うと思う。
 そして、ジャズの似合う歌舞伎町には、何となく乾いたカラッとした空気が流れているような感じがした。
 実際は、コズマ三姉妹が本拠地とするビルの地下には不発弾がコレクションされていたし、そのビルはコズマ三姉妹がサカエを拾いそして捨てた場所だったけれど、そういう因縁が何故か舞台の持つ空気に影響を与えていなかったのが不思議だ。

 サカエは突然「神の啓示」に目覚め、自分は紙の言葉を伝える者でありふくすけは神だと言い始める。彼女はそれを信じているけれど、ふくすけは完全に「ノリ」で神のお告げを語り始める。
 彼女たちが立ち上げた宗教団体の狙いは、コズマ三姉妹が本拠とするビルだ。
 そこはサカエが捨てられていた場所であり、サカエは知らないけれども彼女を一度拾って捨てたのはコズマ三姉妹である。

 コズマ三姉妹は、事業のアイデアを次々と出しては実現させるマスに惚れ込み、マスは都知事選に出ると言い出す。
 サカエたちに目の敵にされて反撃しようとし、ふくすけを攫ってきたのはいいものの逃げ出されてしまう。
 部下に裏切られてあっという間に攻め込まれてしまう。その「攻め込まれている」間にサカエがふっと神がかりから元に戻ってしまう。
 ヒデイチに協力していたルポライターの暗躍でマスを見つけ出すものの、ルポライターの暗躍でヒデイチはマスに会えず、故郷に帰ってしまう。

 ずーっと地下に潜っていた感じのミスミももの凄く自己中心的な理由による復讐を果たすし、コオロギはサカエを殺してしまうし、コズマ三姉妹の長女は不発弾を歌舞伎町の中心にぶっ放すし、不幸の連鎖というよりは昔の因縁があちこちで蘇って同時多発的に人殺しが発生し、最後には、ヒデイチが、自分を虐め、マスを貶めていた12人の男たちに復讐を果たして殺してしまったところで幕、だった気がする。
 伏線を回収するためには死が必要、という感じで、殺し合った挙げ句にほとんどの登場人物は死んでしまう。
 でも、舞台上の空気は最後までカラっと明るい。
 何故だか、スカっとした。

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コメント

 みずえ様、返信が遅くなってしまい失礼いたしました。
 コメントありがとうございます。
 11年前に見た芝居の出演者を覚えていらっしゃる! 素晴らしいです。
 私は自分がココログに書いた感想を見てもはっきりとは思い出せませんでした・・・。
 私の拙い感想でお芝居の雰囲気をお裾分けできていましたなら嬉しく思います。
 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2024.08.10 15:25

姫林檎様

私はふくすけは、2012年版は観ました。
ヒデイチが古田新太で、マスが大竹しのぶだったかと。
私は確か、これが初の大人計画でした。
とにかく役者陣のパワーと、盛りだくさんの毒や風刺に圧倒された記憶があります。
キャストも年代も違うので、きっとまた違う面白さがあったでしょうね。
姫林檎さんのブログでちょっと味わえた気分になりました。
ありがとうございました。

投稿: みずえ | 2024.08.05 09:49

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