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2024.08.12

「奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話」を見る

イキウメ「奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話」
原案・原作 小泉八雲
劇作・脚本・演出 前川知大
出演 浜田信也/安井順平/盛隆二/森下創/大窪人衛
    松岡依都美/生越千晴/平井珠生
観劇日 2024年8月11日(日曜日)午後1時開演
劇場 東京芸術劇場シアターイースト
上演時間 2時間
料金 7000円

 ロビーでは、過去公演のDVDや上演台本が販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 イキウメの公式Webサイト内、公演概要のページはこちら。

 「小泉八雲から聞いた話」というタイトルでありつつ、雰囲気は百物語である。
 山の中なのか山の上なのか、とにかく「里」から少し離れた場所に元はお寺だったという温泉旅館がある。
 そこに予約なしで訪れた二人連れの男達が、着物姿で温泉旅館で執筆をしている小説家と出会う。
 シチュエーションとして怪しすぎるのは明らかで、これらは全て「お膳立て」だ。
 そして彼らが語り始めた話が、いつの間にか「語り」ではなく、役者陣によって演じられる「芝居」になって行く。

 左奥右は廊下、手前には舞台が一段高く設えられ、真ん中の一段低いところに枯山水のような白砂にほこらと梅の木だけという庭がある。
 開演前、その庭の1点に向けて砂が上からずっと降ってきていた。上から降ってきた砂が盛り上がらないのが謎だ。
 そして、役者陣の登場はすり足で無表情、それぞれがちゃぶ台のようなテーブルや座布団などを持ち込んで設えて行く。
 雰囲気づくりは万全である。

 浜田信也演じる「伝承を聞き集めている」と言う小説家は、この旅館の前身であるお寺に纏わる話を二人に紹介する。
 それが一つ目の「怪談」である「常識」で、いつの間にか集まってきた若者たちと修行を積んでいた僧は、麓からやってきた猟師に「毎晩、普賢菩薩が象に乗ってやってくる」のだと話す。泊まって普賢菩薩を拝むことになった猟師は、しかし、やってきた象と仏様を猟銃で撃つ。翌朝、その象と仏様が実は大きなキツネが化けていた姿だと分かる、というオチである。
 「そのキツネ、別に悪いことはしていないんじゃないですかね」「いや、真夜中に現れて僧の体調が悪くなっているんだから、悪さはしているだろう」という二人連れの会話が可笑しい。
 結果に着目するか、経過や動機に着目するか、という話だろう。

 次に、安井順平演じる二人連れの片割れが「自分も聞いた」と言って話し始めたのが、「破られた約束」というお話だ。
 今際の際の妻に「再婚はしない」と約束した武士の男が、妻が亡くなった後1年もしないうちに若い後妻を娶る。前妻の亡霊が一緒に埋葬して貰った鈴とともに蘇り、夜な夜な新妻を追い出そうとし、ついにはくびり殺してしまう、というスプラッタなお話である。

 このまま百物語に進んで行くのかと思いきや、盛隆二演じる二人連れの片割れが語り始めた「茶碗の中」という話は、いつの間に「茶碗の中にその場に居ない見知らぬ男の顔が映っている」という経験をしたのは、語っている本人であり、それも割と最近のことである、と怪談と現実が混ざり始める。
 そして、この男が検視官で、片割れは警察官、「仕事で来ている」と言っていたその仕事は捜査で、茶碗に映っていたのはこの小説家の顔だった、ということが明らかになる。
 真夏の怪談である。

 このときに19歳の女性の遺体が喪われており、検視官としては、小説家の男を疑っている。
 旅館の女将に言われて3人で温泉に入ることになり、「湯の中で話すには長すぎる」と言いながら小説家が語り始めるのが「お貞の話」、だった筈だけれど、何だか今ひとつ印象が薄い。
 うーん、どんな話だったろう?

 怪談と並行して、二人の警察官が折っている事件については、19歳の女性の中に、この小説家が昔に付き合っていた女性が入り込んだのか、解離性同一性障害なのか、生まれ変わったのか、とにかくそういう状態なのではないか、それじゃ報告書に書けないよ、という状態なのではないかと推察し始める。

 4つめの怪談の印象が薄いのは、最後の「宿世の恋」と銘打たれた、「牡丹灯籠」として有名な話が長く印象深かったからだと思う。
 「有名な」と書いたけれど、「牡丹灯籠」という怪談の内容は知らない。タイトルは聞いたことがある、私がタイトルを聞いたことがあるのだから有名な話なんだろう、というくらいだ。
 浪人と旗本の娘の恋が実るはずもなく、元々が病弱だった旗本の娘は亡くなり、成仏できずに浪人の家に毎夜お付きの娘を連れて現れる。住職や二人を引き合わせた医者が浪人の家に上がり込み、お札を貼り、読経し、「悪霊退散」を試みるものの、浪人が辛抱できずに満願成就の7日目に扉を開けてしまい、「向こう側」に取り込まれてしまう。

 そして明くる日、二人の警察官が泊まったところは廃屋で、とても営業しているような旅館には見えない。
 小説家と遺体が喪われた女性の死体が祠の下に埋まっている。
 警察官二人は祠に向かって手を合わせ、そこに現れた小説家は彼らに向かって深々と頭を下げる。
 あぁ、この人は見つけてほしかったんだな、と思う。
 どうやって死んだのか、という謎は残るけれども、そこはいいことにしよう。

 真夏の怪談。
 ひんやりした。

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