「ワタシタチはモノガタリ」を見る
PARCO PRODUCE 2024「ワタシタチはモノガタリ」
作 横山拓也
演出 小山ゆうな
出演 江口のりこ/松岡茉優/千葉雄大/入野自由
富山えり子/尾方宣久/橋爪未萠里/松尾諭
観劇日 2024年9月28日(土曜日)午後6時30分開演
劇場 パルコ劇場
上演時間 2時間40分(20分の休憩あり)
料金 12000円
ロビーではパンフレット等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
江口のりこ演じる富子が、松尾諭演じる中学時代に文学部で一緒だった徳人と15年にわたって文通を続け、「30歳になっても二人とも独身だったら結婚しよう」と約束していたその30歳のときに徳人が結婚する。
その結婚式の日に自分が送った手紙をもらった富子は、その後、10年がかりでその往復書簡と「その頃を思い出している富子の心情」を綴った小説をネットで連載し、その小説が爆発的な反響を呼ぶ。
そして、という物語である。
富子が書く小説では、往復書簡はほぼそのままも文章が使われ、しかし手紙をやりとりしているのは松岡茉優演じる「ミコ」と千葉雄大演じる「リヒト」という、いわば富子の妄想の中の人物である。
さらに、手紙の文章はそのままに、今の富子が「実際には怒らなかった」あれこれを回想するという仕立てになっている。
なかなか凝った構造の小説だ。「キュンとくる」のは、富子が長年にわたって「こうあれかし」と培ってきた妄想の賜なんだろう。
その携帯小説(ケータイ小説と書く方がしっくりくる)は評判になり、出版や映画化の話が舞い込む。
そこで初めて富子は、徳人に何一つ了解を得ていないことを中学時代からの友人に相談する。
彼女の小説を、妻や娘が読んでいた徳人は、富子に呼び出されて話を聞き、激怒する。自分の文章、それも特定個人に宛てた手紙を勝手に公開され、かつ、あり得ない「過去の事実」までねつ造されてノンフィクションだと思われているとくれば、それは怒るに決まっている。
決まっていると思うのだけれど、何故か富子は、徳人が「やっと小説家になれる自分を祝福しない」ことに怒り出す。
えー、と思う。
いや、これはどう考えても徳人の方がマトモなことを言っていると思うのに、富子は全くそう思っていないようだし、登場人物たちも(ミコやリヒトは富子の分身のようなものだから当然としても)富子側に立っているように見える。
それを言うなら、この芝居全体が富子側に立っているように見えて、釈然としない気持ちになった。
ここでモヤモヤした釈然としない気持ちをずっと抱えて見ることになってしまい、映画監督が徳人に「リヒト役のキャスティング権を譲るから、映画化に同意しろ」と交渉を持ちかけたときも「うーん、これが大人の交渉術か。しかしそれを受け入れる徳人もどうなの?」と思ったし、主演女優が「ハッピーエンドにしてくれなかったら出演しない」とトンデモな要求をしたのにも「そもそもケータイ小説の成り立ちがなぁ。」と怒りに繋がらなかったし、登場人物であるミコとリヒトが物語のエンディングに色々と口を出し始めても「そもそも(以下略)」と思ったし、どうにもストンと落ちない感じが続いてしまった。
徳人は富子に「書きたいように書け」「書きたいようにというのは、楽しんで書けと言うことで、損得を考えろということではない」等と説得するのも非常に誠実に見えたし、それに対して「小説家デビューを成功させたい」という欲に囚われている富子がどうにも頑なに見える。
そうして、最後、映画監督が果たして富子の小説で映画を撮るのか、富子の小説はハッピーエンドになるのか、いずれも明かされずに、富子と徳人が「わたしたちはものがたりである」と言って幕となったときは「まさかのオープンエンドかよ!」と心の中で叫んだ。
映画監督は、多分、富子の小説を映画化するのではなく、その過程で知り合った書道家の青年のドキュメンタリーを撮ることにすると思う。
そして、富子の小説は、徳人の言うように、富子が書きたいように書く、恐らくは現実に沿ったエンディングとしてかつ富子の心情を真摯にオープンに書くのが正解と思ったけれど、見ていた人たちはどう思っていたんだろう。
そう終わり方を妄想したから、このオープンエンドは正解だったのか、とも思った。
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