「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」に行く
2024年11月、東京都美術館で2024年9月19日から12月1日まで開催されている「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」に行って来た。
週末及び会期終盤のみ時間指定制となっており、事前予約して週末のお昼過ぎに行ったところ、当日券売り場に列ができていた。
入場待ちはないものの、会場内は結構な混雑振りで特に入口には人だかりができており、スタッフの方が「先に進んでいただけると比較的ゆっくりとご覧いただけます」的なアナウンスをしていた。
実のところ、田中一村という画家の名前は、3ヶ月くらい前まで全く知らなかった。
以前に職場でご一緒した方と飲み会をした際に、奄美大島に旅行した話だったからか、趣味の話だったからか、田中一村という画家の話がでたときにも、まず「ご存命の方?」と聞いてしまったくらいだ。
スマホで画像を見せていただいたときも、強烈な絵を描く画家さんだなー、という小学生のような感想しか浮かばなかった。
国立西洋美術館に行った際に、東京都美術館でこの田中一村展が開催されていると知り、これも何かのご縁だろうし行ってみようと早速1週間後には出かけたという次第だ。
我ながら、珍しく積極的である。
生前にスポットが当たることはなく(とはいえ、これだけの回顧展が開催できるだけの作品と業績と資料が残っている訳ですが)、亡くなった後に支援者たちが3日間の個展を開催するところから始まり、こうして「大回顧展」が開催されるまでに評価が高まった、ということのようだ。
しかし、そもそも子供の頃から「神童」として有名だったようで、数えで8歳の歳に描いた絵も展示されていた。
ちょうど私の後ろにいた小学生くらいの男の子が「8歳だ」「9歳だ」と読み上げていたのが可笑しい。
絵にも「八童」などと入っており、プロデュースに長けた大人が書かせて絵の売りにしていたんだろうなー、と余計なことを考える。
よく分かっていないながら、子供の頃の絵はきちんと「お手本」があり、その「描き方」に則って描かれた絵なのではないかという気がした。
説明に「南画」という言葉がよく出てきていて、「うーん、意味が分からん」と思ってみていた。帰宅してネット検索したら、中国の流派のひとつで、水墨や淡彩で、多くは山水を柔らかな感じに描くことが特徴だという。
そういう感じだ。
東京芸術大学に入学したものの2ヶ月くらいで退学し、その後すぐ家族を亡くし、しばらく「空白の時代」とされていたけれど、近年、20代に製作された屏風やふすま絵などが発見されているという。
支援者がいて、支援者からの発注や紹介に基づいて製作していたということらしい。
それは個人蔵が多いだろうし、詳細が不明になることもあるだろうなと思う。
その後、千葉に転居した辺りからまたその画業が伝わっており、青龍展に「白い花」という絵が柳一村名義で入選し、その後で田中一村の雅号を用い始めている。
この「白い花」はかなりカラフルな画面で、青緑っぽい色をバックに一面に白い花が咲いている。それまでの「南画」とは全く異なる印象である。
また、小さな写真から大きめの肖像画を描き起こすことも「仕事」として行っていたという。
好きな絵だけ描いていては食べていけない。農業をしているとはいえそれだけでも食べていけなかったということだと思う。その肖像画がもの凄く精密で、これならほぼ写真なのでは? という感じだった。小さな写真でははっきりしない箇所(肩章の模様)なども何を当たったのかくっきりと描かれている。
これは、描いて貰った人(モデルになった人ではなく頼んだ人)は有り難かったろうなと思う。
その肖像画の技術は50歳になって単身移住した奄美大島でのご近所づきあいで発揮され、島の人に受け入れられるきっかけのひとつになったそうだ。
芸は身を助く、という奴である。その「芸」が規格外な訳だけれども、「良かったね」と親戚のおばさんみたいな気持ちになる。
奄美大島では染色工として働いて生活費を貯め、ある程度貯まると絵を描くことに専念するという生活を送っていたそうだ。
この絵画展のシンボルのようになっている「奄美の海に蘇鉄とアダン」「初夏の海に赤翡翠」「アダンの海辺」「不喰芋と蘇鉄」などの絵は、もちろん奄美大島で描かれたものである。
大柄なインパクトのある、多分「唯一無二」の絵画たちである。
信奉するに近いファンがいらっしゃることも納得だなと思った。初めて拝見したと思う。行って良かった。「田中一村」という画家を教えてくださった方々に感謝である。
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