「太鼓たたいて笛ふいて」 を見る
こまつ座第152回公演「太鼓たたいて笛ふいて」
作 井上ひさし
演出 栗山民也
演奏 朴勝哲
出演 大竹しのぶ/高田聖子/近藤公園
土屋佑壱/天野はな/福井晶一
観劇日 2024年11月23日(土曜日)午後1時開演
劇場 紀伊國屋サザンシアター
料金 10500円
上演時間 3時間10分(15分の休憩あり)
ロビーでは、パンフレットの他、井上ひさしの著作本などが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
こまつ座の「太鼓たたいて笛ふいて」は見たことがあって、「いつだったか」と調べてみたら大体10年前のことだった。
林芙美子の評伝劇であること、上演当時のちらしの絵が大竹しのぶ演じる林芙美子を余すところなく表現していたこと、島崎こま子を演じた神野三鈴が素晴らしかったこと、ラストシーン近くでラジオ放送での林芙美子の紹介についてこま子が「素晴らしい」と評していたこと等々を覚えていた。
私にしては破格の記憶と言っていい。
当時の出演者を見てみたら、林芙美子の母親であるキクを梅沢昌代、キクの行商の弟子二人を阿南健治と山崎一、音楽プロデューサーの三木を木場勝己が演じていた。
滅茶苦茶に豪華な出演者陣だったんだなとしみじみした。
今回の役者陣についても、10年後に同じように思うのかも知れない。
高田聖子が林芙美子の母キクを演じていて驚いた。
大竹しのぶより高田聖子の方が若いよね? と思わず年齢を確認してしまったくらいだ。
こういう配役ができてしまうところが舞台のいいところだよなぁと思う。全く違和感なく母娘だった。
それにしても、この母娘は、この母にしてこの娘ありだったのだなぁと思う。文字が読めなかったキクさんは、しかし、どこからどう見ても生活の知恵と逞しさに溢れ、かつ、一本の太い芯が通っている女傑である。
前回も思ったと思うけれど、島崎こま子という登場人物が凄い。
凄いというか、彼女の姿勢や考え方はどこから出てきているのだろうと思う。
決して人を責めないし、しかし理不尽に負けることも絶対にない。しなやかにたおやかに己の主張を曲げず、伝え、貫こうとする。
行動力もあるし、何というかパーフェクトにいい人である。
こういう人になりたいとも思うし、決してなれないわとも思う。
本人もこういう人だったのか、井上ひさしの造形なのか、恐らくは調べ尽くして立ち上げた「人」だと思うけれど、とにかくパーフェクト過ぎて羨望と恐怖を同時に感じてしまう。
大竹しのぶの歌が上手いことはもちろんで、そのときどきの年齢や心情に合わせて声も歌い方も使い分ける。
林芙美子の役は凄みを感じるけれど憑依している雰囲気はない。そのさじ加減が絶妙である。格好いい。
高田聖子の歌声には安定感と安心感があり、何より楽しい。
そして、今回の上演の「歌」を背負っていたのは、三木を演じた福井晶一だと思う。いい声で気持ち良く歌っていた。
林芙美子は国家の書いた「戦争は儲かる」という物語に乗っかって「売れる」物語を書こうとし、書き、しかし従軍作家として戦地を巡る間に「この物語は嘘っぱちだ」と気付く。そして「綺麗に負けるしかない」と語る。
そして、戦後は、自分が叩き吹いた太鼓と笛に踊らされてしまった人々の苦しみや悲しみをせめて書き伝えることで償わなければと決心し、「緩慢な自殺」と言われるような鬼気迫る勢いで書き、昭和26年に亡くなる。
それは、多分「忘れっぽい日本人」の中で忘れなかった日本人の一人の物語なのだと思う。
見ようかどうしようかかなり迷い、直前にチケットを取って見に行った。
見て良かった。
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