「りぼん」を見る
渡辺えり古稀記念2作連続公演「りぼん」
作・演出 渡辺えり
出演 室井滋/シルビア・グラブ/大和田美帆
広岡由里子/深沢敦/土屋良太/大西多摩恵
吉田裕貴/小日向星一/福間むつみ/藤浦功一
小出奈央/松井夢/ラサール石井/宇梶剛士 他
観劇日 2025年1月21日(土曜日)午後1時開演
劇場 本多劇場
料金 10000円
上演時間 3時間20分(15分間の休憩あり)
終演後、渡辺えりから、「70歳を迎えて、死ぬまでにやりたいことをリストアップしこの1年間に全部やっておくことにした」という感じの話があった。そのうちの一つがこの「りぼん」と「鯨よ!私の手に乗れ」という代表作とも言える作品の再演だったようだ。
その「鯨よ!私の手に乗れ」は全く雰囲気の違うお芝居だけれど、そちらも見ると「そういうことだったのか!」と分かる仕掛けが施されているそうだ。
ロビーでは、パンフレットやDVD、Tシャツやトートバッグなどが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
正直にかつ一言で言うと、難しかった! に尽きる。
「りぼん」というタイトルで、当然、りぼんが登場する。結婚式のsomething blueに選ばれた青いリボンがイメージの核にあって、結婚、男女の役割分担、ジェンダー、様々な差別、同潤会アパート(確か男性用と女性用でアパートごとに分かれていたような・・・)、初恋、修学旅行・・・とイメージを繋げていってモザイクのようにも編み込まれているようにも見える芝居が紡がれている。
ここで「物語」としないのは、もしかしたら物語ではないかも知れないと思うからだ。
また、ご本人がフライヤーで書いていらっしゃったことで、渡辺えりは反戦と男女平等についてずっと戯曲を書き芝居を作ってきているとのことで、「青いリボン」は男女平等に近いモチーフ、そしてそのモチーフを繋げていくときのもう一方の柱に「反戦」が据えられているのは間違いない。
だからこそ、30年前(戦争中)と現代(この場合は初演の頃、のような気がする)を行ったり来たりする構成になっているのだと思う。
物語としては、30年前と現代と行き来しながら、みなが「誰か」を探したり「誰か」に探されたりしていて、その誰かと誰かが再開する物語、と言えるのかも知れない。
幕が開いた直後は、舞台は現代ではなく現代とのギャップを示すために時代を遡り、遡った時代の中で時系列に沿って進んで行く物語なのかと思っていた。
ふと考えてみると、もしかして私は劇団3〇〇の舞台を拝見したことがほとんどないのかも知れない。全く拝見したことがない筈はなく、もしかしたら自分は苦手意識を持っていたんじゃないかと思った。
苦手だったのかも知れないと思ったのは、多分ストーリーを説明できないこととか、ある一つのイメージから次から次へと連想したりジャンプしたりして膨らませて物語を作って行く手法とか、恐らくは大団円で終わっているのだけれど考えに考えないと「どういう大団円」なのかが分からないところとか、そういう点は相変わらず苦手だからだ。
いくつかあるだろう作劇の大きな潮流の一つであることは間違いないのに、苦手だ。
苦手な理由は自分にあって、要するに頭を使ったり考えたりすることが苦手なのだ。
分かりやすく大団円、ハッピーエンドにしてよ! とついつい思ってしまう。観劇においてもナマケモノ。笑えない。
「りぼん」もラストではほぼほぼ「謎」とか「ペア」が完結していたという間食はあるけれど、その中味は全く説明できない。「この人とこの人は親子だよね、多分」とか「**の娘が**なのね」ということは何となく察するけど「そうだったっけ? 証拠はどこ? どのセリフ?」と大混乱している自分もいる。
しかし、渡辺えり、元気だと思う。
古稀とはとても思えない動きと声量である。
この舞台には生バンドが入って、歌とダンスもところどころに入っていて、その分、ゆったりとしている。セリフも早くないし、色々な要素を詰め込んで全部で30名強という役者さんが舞台上に登場しているのに、テンポはゆっくり、と感じる。
なのに、イメージのジャンプにかなり翻弄される。「なのに」ではなく「だから余計に」なのかも知れない。
この舞台の主役を誰と言うかかなり迷うけれど、主要登場人物を演じた役者さんの中には初演に出演した方もいらっしゃる。
バンドの方のうちお二人は、冬至も今も中学校の制服姿で舞台上で演奏されたそうだ。時代を感じる。
そういう、息の長いというか連続性のある活動ができるのも「劇団」という形を維持してきているからこそと思う。
一方、シルビア・グラブや室井滋は渡辺えりの舞台に初参加だったそうだ。カーテンコールで「一度でも出た人は大変って知っているんだけど、ごめんね」と素で謝って、二人とも苦笑に近い顔になっていたのか可笑しかった。
歌って踊って何度も衣装や髪型を変えて、中学生まで演じて、エキストラもやって、それは大変に決まっている。そこを感じさせないのがプロなのにネタばらしして! という苦笑だったのかも知れない。
「やりたいことをやっておこう」企画ということで、これまでカットしていたシーンなども戻したり新たに入れたりして、渡辺えりの芝居としては(劇団3〇〇の芝居としては?)初めて休憩を入れたそうだ。
いつまでも初めてはある。その初めてにチャレンジする姿勢と気力体力が素晴らしい。
心塞ぐことがあってだいぶ凹んでいたけれど、終演後に気がつくと、かなり心が軽くなっていた。
悩みが消える訳ではないけれど、しばし忘れることはできる。少しだけ明るい考えができるようになる。どうしたらいいか具体的に考えてみようと思い、一つか二つアイデアが浮かぶ。
そんなお芝居だった。
やっぱり、舞台って凄い。
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