「蒙古が襲来」を見る
パルコ・プロデュース2025 東京サンシャインボーイズ 復活公演「蒙古が襲来」
作・演出 三谷幸喜
出演 相島一之/阿南健治/伊藤俊人/小原雅人
梶原善/甲本雅裕/小林隆/近藤芳正
谷川清美/西田薫/西村まさ彦
野仲イサオ/宮地雅子/吉田羊
観劇日 2025年2月25日(火曜日)午後1時開演
劇場 パルコ劇場
料金 11000円
上演時間 1時間55分
自力でチケットを確保できずに嘆いていたところ、友人から譲っていただけた。大感謝! である。
ネタバレありの感想は以下に。
15年前のシアタートップスでの公演に、2002年に亡くなった伊藤俊人氏が「声の出演」をしていたことをこの期に及んで初めて知った。
そして、今回も、パルコ劇場のサイトにある出演者欄に「伊藤俊人」の名前がある。
見た後も「あぁ、あのシーンで!」と言えないところが申し訳ない限りだけれど、恐らく、公家として匿われていた三条某の声が彼の声だったのだと思う。
この三谷幸喜のブレない思いが凄いなと改めて思った。
30年間の充電期間を経ての「東京サンシャインボーイズ復活公演」なので、これはもうお祭りである。
お客さんが何を求めているのか究極に知り尽くし、劇団の俳優さんたちの個性から癖、その最も上手い活かし方まで知り尽くした三谷幸喜が本気になって「お祭り」を開催している。
面白くない訳がないし、楽しいに決まっている。
何しろ、開演前のアナウンスは山寺宏一で、終演後のアナウンスは戸田恵子である。
お二人とも絶対にノリノリで引き受けたに違いないと察せられるアナウンスぶりである。そして、当然のことながら上手すぎる。贅沢すぎる。
でも「無駄遣い」ではないと感じさせるところが三谷幸喜節だ。
小ネタを存分に使いまくった、笑い声の溢れる舞台で、そしてきっとこの手段、この役者陣、この配役でなければそこに立ち上げることのできなかった世界がある。
楽しい。
「千と千尋の神隠し」ではないけれど、このディテールをひたすら探すというのも、この舞台の一つの、そしてかなりガッツリと取り組める楽しみ方だと思う。
舞台は九州の対馬や壱岐の辺りにある(多分)小さな島の海辺の村である。
鎌倉幕府から調査の人が来るということで、村は何となく興奮して何となく盛り上がっており、次から次へと人もやってきては去って行き慌ただしい。
もの凄く若い訳でもない女性を妻に娶ったこの家の主人や、鎌倉(太宰府かも)から苦節ン十年の下足番を切り上げて帰ってきた長男、今日お迎えする客人をもてなすための料理に邁進する女性などなど、登場人物たちは賑やかだ。
「遠い海の向こうから敵国人が攻めてくるのではないか」と幕府の人間は考えており、そのための見張りというよりも下見に来たというところだと思う。
もてなし料理を渡り巫女に食べられてしまったり、昨夜に埋めた死体を気にしていたり、傀儡師に扮したこそ泥は虎視眈々と獲物を探していたり、もう本当に事件が起こりまくる。
ただ、これらの事件は、後に起こるさらなる大事件の治療や火の玉が止まる訳でもなく、あちこちから放たれる矢に応戦しなくてはならない。
宮司は、海に流れ着く物の変化から、「海の向こうではたくさんの海賊船が製造され、竣工している」ということを理解しているが、「村人に言ったところで回避もきず不安にさせるだけ」として、誰にもこの事実を明かしていない。
唯一言ったのは、スカウトされてこれから鎌倉に出るかもしれない男にだけだ。何故だ。
「蒙古が攻めてくる日の、朝から開戦までのワンシチュエーション」の舞台は、いかにも三谷幸喜だ。
しかも、この宮司と、隣の島でひたすら海の見張りに立ち「敵が攻めてくる」と盲目的に信じている男以外は、みな、脅威は感じているかもしれないけれど、今日にも攻め込まれるとは全く思っていない。
今日の「鎌倉からの客を迎える」というイベントをこなせば、焼けぼっくいに火は付くかもしれないけれど、それはそれとして明日からはまた平和でぼんやりしていつもの日常が続くと信じている。
当たり前だ。知らないんだから。
しかし、「必ず当たる託宣を下す」という巫女は「蒙古は攻めてこない、といいなぁ」と占い、その直後、蒙古が襲来する。
飛んでくる矢に次々と村人達は倒れ、島に「明日」は来ない。
家の中に駆け込んで隠れた女一人だけは矢に射られていないように見えたけれど、彼女だけが生き残ったとしてもそれはそれで決してめでたいことではない。
舞台の幕開けは吉田羊が一人舞台に立ち、舞台の終わりには矢を射られて倒れた人々の中で吉田羊が一人「いつもの明日が来ないかも知れない世界」を語る。
いつもの明日が来なければ、将来花開いたかも知れない才能も埋もれてしまう。そう語って終わる。
そして、出演者全員で「どんちゃんの歌」を歌い踊って終わる。
何故だ。
何故かは分からないけれども楽しい。やっぱり祭りだ。祭りには歌と踊りだ。
ラストシーンとのギャップが大きすぎるけれど、それもまたよしだ。
こちらも目一杯楽しんだ。
なお、次の公演は80年後、主演は甲本雅裕だそうだ。
タイトルもアナウンスされたけど、覚えきれなかった。
しかし、30年前に30年後の公演のタイトルは「リア玉」だとアナウンスしていたけれど、実現していないから、多分、80年後の公演のタイトルも変わっていると思う。
恐らくは、見ることができないのがとても残念である。
生きていたら、ぜひチケット争奪に参加しようと思う。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
みずえさんは東京サンシャインボーイズ、今回が初めてだったのですね。
次の公演は80年後だそうですから、今回観劇できてラッキーでしたね!
そしてどちらかというと恥ずかしいのは私かも。
最後の歌を聴き、踊りを見つつ、「何がどうしてこうなった?!」と思っていましたし、河本ヒロトさんの曲だなんてまーったくカケラも思いませんでしたし(笑)。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2025.03.04 22:39
姫林檎様
私も観ました!
恥ずかしながら、私はサンシャインボーイズ初観劇でした。
更に恥ずかしながら、伊藤俊人さんの声のことは、終演後に知りました。
更に更に、ラストの歌は甲本ヒロトさんの曲だということも知らずに聴いていました。
甲本雅裕のお兄さんですもんね……ありえますよね……。
そういったことを知らずに観ても、いい舞台でした。
認知症のことや、この年で云々といったエピソードの数々は、三谷も劇団員も年齢を経たからこそといったところでしょうか。
身に沁みました。
そしてラストは史実通りとはいえ、胸が痛みましたね。
一番若い吉田羊が、一番高年齢の役を演っていたのも一興でした。
ずっと腰を曲げて歩いていたので、さぞおつらかったと思います。
まだ「研究生」という扱いなんだそうですね(笑)
投稿: みずえ | 2025.03.03 09:21