「やなぎにツバメは」を見る
シス・カンパニー公演 「やなぎにツバメは」
作 横山拓也
演出 寺十吾
出演 大竹しのぶ/木野花/林遣都
松岡茉優/浅野和之/段田安則
観劇日 2025年3月15日(土曜日)午後1時開演
劇場 紀伊國屋ホール
料金 8000円
上演時間 1時間45分
ロビーではパンフレットが販売されていた、と思う。
ネタバレありの感想は以下に。
寺十吾演出のお芝居は何本も観たことがあるけれど、横山拓也作の芝居を見るのは初めてだ。
と思っていて、念のため自分のブログを見てみたら、この「やなぎにツバメは」で3本目だった。本当にこの記憶力の悪さは何なんだろう。申し訳ない。
しかも、そのうちの1本は、今回も出演している松岡茉優が出ていた「ワタシタチハモノガタリ」だった。ピンと来て良さそうなものである。
とはいえ、随分と雰囲気は違ったじゃないか、とも思う。
舞台は、大竹しのぶ演じる美栄子の母であるツバメの葬儀後から始まる。
葬儀というのは、日頃疎遠だった人々も集まる場だ。実際にドラマが生まれることはあまりないと思うけれど、それが舞台となれば話は別である。舞台上で葬儀があれば、それは「何かが」起こるに決まっている。
この舞台で集まった面々は、喪主である美栄子、段田安則演じるツバメ ママが数年前まで経営していたカラオケスナックの常連客であり葬儀屋でもある洋輝、松岡茉優演じる美栄子の娘の花恋と、林遣都演じる洋輝の息子の修斗の4人である。
美栄子はどう見ても洋輝に気がある感じだし、美栄子は母のスナックを手伝っていたからかなり前から洋輝とも知り合いだ。洋輝も満更ではない感じである。
修斗は「気は優しくて(でも力持ちではない)」という感じだし、対する花恋はドスの効いた調子でしゃべる強気な女性である。
波乱の舞台は整った、という感じだ。
さらに、葬儀から少し経って、木野花演じるところの美栄子と洋輝とも知り合いでカラオケスナックの常連だった佑美が、浅野和之演じる美栄子の離婚した夫である賢吾を「お焼香だけでも」と連れて来る。
佑美はインテリアデザイナー(多分)で、賢吾は建築家、仕事での付き合いがある二人らしい。
しかし、美栄子は賢吾を果てしなく毛嫌いしていて「同じ空気を吸うのも嫌だ」と言い、葬儀の連絡もしなかったようだ。
何故か花恋は佑美を毛嫌いしている。
そんな面々が顔を揃えれば、もうすでに「波乱」そのものだ。
そこに、修斗と花恋の結婚話が、どうにもぐずぐずな感じで投下される。修斗としてはもっと荘厳かつ穏やかにご披露したかったらしいし、花恋にも「何故このタイミングで」とツッコミを入れられていたけれど、修斗としては「全員集合しているなんて滅多にないチャンス」だったらしい。
尻に敷かれる以外の未来が全くありえなさそうな二人である。
料理人である修斗にお店の購入話が持ち込まれたり、その流れで修斗に貯金がほとんどないことが判明して花恋が怒髪天を突いたり、その花恋の企みで「結婚式に出席させてあげる代わりにお金貸して」作戦を決行して見事に断られたり(当然だ)、美栄子から「今回の話は怪しすぎるから見送れ」と諭されて修斗が危うく詐欺を避けたり、美栄子と洋輝と佑美の3人で「シェアリビング」の話が盛り上がったり、洋輝が住んでいるマンションを売ろうとしたり、修斗と花恋が美栄子の家に一緒に住みたいと言い出したり、話はコロコロと転がって行く。
誰かが死ぬということと、誰かが結婚するということは、周りにいる人間にも少なくない影響を与え、変化を与えるんだよなと思う。
そういえば、美栄子と賢吾が話し合って、賢吾が花恋の結婚式に出てもいい、という話になるシーンもあった。
美栄子が離婚した最大の理由は、賢吾が酔って帰って、服を脱いでツバメ ママの布団にそのまま潜り込んだ、という事件であったらしい。美栄子は、ツバメ ママと賢吾ができていたと思っていたようだ。それは気持ち悪いと思うし怒るし同じ空間にいたくないと思うだろうよ、と思う。
それはどうやら誤解であったようで、賢吾はまだ美栄子に未練がある様子だ。うーん、それはどうなんだ。だったらもっと前に誤解を解くべく努力しようよ、と思う。
ツバメ ママのスナックを手伝うために勤めを辞めたり、介護に時間をかけたりしていた美栄子が、洋輝や佑美の言葉で「これから第二の人生だ」と盛り上がったところで、交通事故で洋輝が怪我をしたと連絡が入り、そして、洋輝と佑美が一緒に車で佑美の母が暮らす老人ホームに出向き、結婚の報告をしたのだと伝えられる。
美栄子の「第二の人生」計画は、跡形もなく崩れ去る。
美栄子は気丈に「これでいいんだ」と二人を祝福するけれど、花恋の怒りは収まらない。「二人に騙されていたんだよ!」と怒らない美栄子に怒っている。
いい娘っぽいじゃない、と思った私は相当ひねくれている。ここは、いい娘じゃない、と思うところだ。
美栄子は、それまで頑なに拒んでいたカラオケで歌い出す。そのタイトルが「やなぎにツバメは」だ。
そして、幕である。
美栄子から見たドタバタな感じは、多分、美栄子の年齢がいくつであっても成り立つ筈だ。
むしろ、美栄子は随分と幼く感じられる。年齢相応のこなれた感がないようにも思うし、人間いくつになったってこなれることなんてないんだよと思う。
恋する人間の年齢が変わるだけで、こちらに伝わってくるものは変わる。それはやっぱり年齢が色々な意味で重要な要素だからなんだと思う。
そう考えれば、「やなぎにツバメは」は、「ワタシタチハモノガタリ」とは種類の違う、しかし歴然たるファンタジーだったんだなと思う。
そのファンタジーを達者すぎる役者陣が演じる、楽しい舞台だった。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
みずえさんもご覧になったのですね。
何というか、とっても充実したお芝居でしたよね。堪能しました。
美栄子さんは自分が飲まない分、飲む夫も、飲む人が集うカラオケスナックも嫌だったんでしょうか・・・。
でも、手伝っていたおかげで佑美や洋輝と仲良くなれた訳ですし。
うーん、恐らく本人にもよく分かっていないのでしょうね。
浅野さん格好いいですよね。
私は、浅野さんというと、「You Are The Top」での完璧な代演と、歌舞伎ワンピースでのエンポリオ・イワンコフ役が印象にのこっております。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2025.03.23 12:05
姫林檎さま
私も観ました。
見事な会話劇でしたね。
そして、何であんなタイトルなんだろう?と思ってましたが、観て判明しました。
大竹しのぶさんは歌もうまいですよね。
私は浅野さんのファンなのですが、やっぱりさすがでした。
というか、皆さん素晴らしかった。
若い二人も。
美栄子さんは、賢吾さんのことを、やたら酒癖のことで非難していたので、恐らくそれも離婚の一因だったんじゃないかなあ。
酔って母親の布団に入ってしまう以前にも、かなり不満が溜まっていたんだと思います。
美栄子さんは飲まないようでしたよね?
なので余計に。
美栄子・佑美・洋輝の三人の関係は、今後どうなっていくのか、見届けたい気持ちでいっぱいになりました。
投稿: みずえ | 2025.03.21 09:25